19 / 24
#17 魔法少女の涙
第8話 攻防
しおりを挟む
クルクルっと車のハンドルを回し、アクセルを踏む右足に有りっ丈の力を込めた美津子です。当然、急激な操作により車は右往左往、ヘッドライトの光が暗闇に突き刺さり、まるで踊っているかのようです。そうなればどこかにぶつかりそうですが、何がどうしたのか車は猛然と一直線に進み、華麗なる撤退が結果的に成功。そんな運の良さを余所に、ただ目を大きく見開いたまま無我夢中で車を運転? ——なすがままの美津子は何も見てはいませんでした。——いいえ、見えてしまったものが一つだけ有りました。それは、光り輝きながら大きく口を開けて何かを叫んでいる、かのようなタカの姿がはっきりと、この世の生き物とは思えない代物を見てしまった美津子です。その時、一瞬その代物と、目と目が合ってしまいましたが、それは必然か、それとも運命の悪戯なのか。とにかく、そんな瞬間がありました。
猛然と土埃を巻き上げながら遠ざかる車を、タカは勿論トビ・ワカも呆然として棒立ち、まるで見送るかのように見ていただけの三人です。そして揺らめく車のテールランプに合わせて体を揺らしていたトビがその動きを止めると我を取り戻したようです。
「あっ、あうぅ、まずい、まずいよぉぉぉ、見られたぁぁぁ、行っちゃったよぉぉぉ」
そんなトビの、叫びにも似た悲痛な声が暗闇に溶け込まれていくと、その余韻に紛れて、
「そうだね」
と頷くワカ。その余裕ぶりに一瞬で輝きを失ったタカです。
「やべぇぇぇ。誰だよこんなところまで来やがって。……なんとかしないと、なっ、なんとか、……なんとかだよぉぉぉ!」
その頃、小刻みにハンドルを揺らす美津子です。それは、恐怖で体が強張ってしまったからなのか、それとも無意識の条件反射でしょうか。ですがそこは身の丈に合わない高級車です、美津子の行為を誤操作と認定、人ごときに操られては堪るものか、という意識が有るのか無いのか、平常を保ちながら、それでも猛然と疾走する車は僅かに後部を揺らしながら前へ、前へと進んで参ります。
そうなると必然的に例の三人とは離れるばかり。それを良しとしない、見られたくない、知られたくない、という感情と、序でに少々の怒り(小さじ1/2程度)がタカの脳裏に浮かんだようです。——ほら、その証拠に体が「燃え尽きかけた線香花火」のようにパチッパチッと火照っています。
そんなタカを、「ああぁ、あれは怒ってるね。それと同時に困ってもいる……大変だな、この後が」と分析するワカです。
そうして、そうして、やっとトビが前に進み出ました。それはこの事態を丸く収める妙案があってのことでしょう。そんなトビを注視していると、何やら両腕を振り回し振り回し……きっと何かしてくれることでしょう。そう期待していると(期待しているのはワカとトビ本人だけです)、その動きまはまるで忍者。ということは忍術が飛び出るのでしょうか、トビだけに……。
「あいやぁぁぁ」
威勢の良い掛け声と共に、出ました! 光り輝く「何か」がトビの手から放出されたようにも見えます。それが一直線に山道を暴走する美津子の車めがけてヒューヒュー、です。更に良く見ると、それは伸びた腕のように車を掴もうとグーパーを繰り返し、あともうちょっとで届くぞー、というところで、異様な殺気を感じ取ったのか、その光景をバックミラーで見てしまった美津子、思わず、というか、体が勝手にアクセル全開、「一位でなければあとはカス」と言わんばかりに暗闇を切り裂いて行きます。あれもこれも魔法がなせる技なのでしょうか……。
「なんだよー、なんだよー」
あともう少し、届きそうで届かない悔しさを声に出して喚くタカ、ただそれだけで何かをしようという考えには至らないようです。そんなタカの何かを感じ取った冷静なワカが「仕方ない」という感情の現れなのか、トビの背中を押すような仕草をしました。するとどうでしょう、もう少しが、ガッツリと車を掴んだではありませんか。そして次の瞬間、まるで一本釣りのように腕を引き上げ撓らせ、車を引き戻そうと試みるトビ、安堵とこれからが勝負だぁの表情が交差します。
逃走車と化した美津子にも、その衝撃がグウィーンと伝わります。それはまるで伸びきったゴムがパチンと切れそうな、——いいえ、全然違います、しつこい勧誘に前を塞がれた時の、「ああ、面倒だわ。そこをどいてちょうだい」の心境でしょうか。いいえ、これも違うようです。とにかく、ガクンと車の速度が落ち、いくら優秀な高級車といえども、何かに掴まれるなんて想定外、混乱して後輪を空転させるばかりです。
この状況に悔しさから解放されたタカは見た目も普通の人に、そしてニヤリとどこかの陰でほくそ笑むのはワカ、そして大活躍中のトビは勝利を確信し……そうです、こんな時は大抵、隙が生じるものなのです。ですから定めれし運命に従えば——いいえ、単にトビの魔法が「へっぽこ」だっただけのようです。その証拠に、ガツンと魔法で車を捕らえていたはずが、それこそ伸びきったゴムがパチンと切れるように、これ以上は無理、耐えられないぃぃぃ、という具合にその力が緩んでしまいました、よ。
そうなれば息を吹き返したかのように猛然と前進、また前進と高級車は進んで参ります。もちろん序でに美津子も同様です。こうなってしまっては、あとは手の施しようがありません。解放され自由の身になった高級車は、序でに美津子も含め、どんどんタカ、トビ、ワカの三人衆から遠ざかり、そして……見えなくなってしまいました。あとにはタカ、トビ、ワカの阿鼻叫喚と悔し涙が暗闇に溶け込み、三人だけの寂しい空間が漂うばかりです。
◇
猛然と土埃を巻き上げながら遠ざかる車を、タカは勿論トビ・ワカも呆然として棒立ち、まるで見送るかのように見ていただけの三人です。そして揺らめく車のテールランプに合わせて体を揺らしていたトビがその動きを止めると我を取り戻したようです。
「あっ、あうぅ、まずい、まずいよぉぉぉ、見られたぁぁぁ、行っちゃったよぉぉぉ」
そんなトビの、叫びにも似た悲痛な声が暗闇に溶け込まれていくと、その余韻に紛れて、
「そうだね」
と頷くワカ。その余裕ぶりに一瞬で輝きを失ったタカです。
「やべぇぇぇ。誰だよこんなところまで来やがって。……なんとかしないと、なっ、なんとか、……なんとかだよぉぉぉ!」
その頃、小刻みにハンドルを揺らす美津子です。それは、恐怖で体が強張ってしまったからなのか、それとも無意識の条件反射でしょうか。ですがそこは身の丈に合わない高級車です、美津子の行為を誤操作と認定、人ごときに操られては堪るものか、という意識が有るのか無いのか、平常を保ちながら、それでも猛然と疾走する車は僅かに後部を揺らしながら前へ、前へと進んで参ります。
そうなると必然的に例の三人とは離れるばかり。それを良しとしない、見られたくない、知られたくない、という感情と、序でに少々の怒り(小さじ1/2程度)がタカの脳裏に浮かんだようです。——ほら、その証拠に体が「燃え尽きかけた線香花火」のようにパチッパチッと火照っています。
そんなタカを、「ああぁ、あれは怒ってるね。それと同時に困ってもいる……大変だな、この後が」と分析するワカです。
そうして、そうして、やっとトビが前に進み出ました。それはこの事態を丸く収める妙案があってのことでしょう。そんなトビを注視していると、何やら両腕を振り回し振り回し……きっと何かしてくれることでしょう。そう期待していると(期待しているのはワカとトビ本人だけです)、その動きまはまるで忍者。ということは忍術が飛び出るのでしょうか、トビだけに……。
「あいやぁぁぁ」
威勢の良い掛け声と共に、出ました! 光り輝く「何か」がトビの手から放出されたようにも見えます。それが一直線に山道を暴走する美津子の車めがけてヒューヒュー、です。更に良く見ると、それは伸びた腕のように車を掴もうとグーパーを繰り返し、あともうちょっとで届くぞー、というところで、異様な殺気を感じ取ったのか、その光景をバックミラーで見てしまった美津子、思わず、というか、体が勝手にアクセル全開、「一位でなければあとはカス」と言わんばかりに暗闇を切り裂いて行きます。あれもこれも魔法がなせる技なのでしょうか……。
「なんだよー、なんだよー」
あともう少し、届きそうで届かない悔しさを声に出して喚くタカ、ただそれだけで何かをしようという考えには至らないようです。そんなタカの何かを感じ取った冷静なワカが「仕方ない」という感情の現れなのか、トビの背中を押すような仕草をしました。するとどうでしょう、もう少しが、ガッツリと車を掴んだではありませんか。そして次の瞬間、まるで一本釣りのように腕を引き上げ撓らせ、車を引き戻そうと試みるトビ、安堵とこれからが勝負だぁの表情が交差します。
逃走車と化した美津子にも、その衝撃がグウィーンと伝わります。それはまるで伸びきったゴムがパチンと切れそうな、——いいえ、全然違います、しつこい勧誘に前を塞がれた時の、「ああ、面倒だわ。そこをどいてちょうだい」の心境でしょうか。いいえ、これも違うようです。とにかく、ガクンと車の速度が落ち、いくら優秀な高級車といえども、何かに掴まれるなんて想定外、混乱して後輪を空転させるばかりです。
この状況に悔しさから解放されたタカは見た目も普通の人に、そしてニヤリとどこかの陰でほくそ笑むのはワカ、そして大活躍中のトビは勝利を確信し……そうです、こんな時は大抵、隙が生じるものなのです。ですから定めれし運命に従えば——いいえ、単にトビの魔法が「へっぽこ」だっただけのようです。その証拠に、ガツンと魔法で車を捕らえていたはずが、それこそ伸びきったゴムがパチンと切れるように、これ以上は無理、耐えられないぃぃぃ、という具合にその力が緩んでしまいました、よ。
そうなれば息を吹き返したかのように猛然と前進、また前進と高級車は進んで参ります。もちろん序でに美津子も同様です。こうなってしまっては、あとは手の施しようがありません。解放され自由の身になった高級車は、序でに美津子も含め、どんどんタカ、トビ、ワカの三人衆から遠ざかり、そして……見えなくなってしまいました。あとにはタカ、トビ、ワカの阿鼻叫喚と悔し涙が暗闇に溶け込み、三人だけの寂しい空間が漂うばかりです。
◇
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる