帰還

Tro

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#17 魔法少女の涙

第8話 攻防

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 クルクルっと車のハンドルを回し、アクセルを踏む右足に有りっ丈の力を込めた美津子です。当然、急激な操作により車は右往左往、ヘッドライトの光が暗闇に突き刺さり、まるで踊っているかのようです。そうなればどこかにぶつかりそうですが、何がどうしたのか車は猛然と一直線に進み、華麗なる撤退が結果的に成功。そんな運の良さを余所に、ただ目を大きく見開いたまま無我夢中で車を運転? ——なすがままの美津子は何も見てはいませんでした。——いいえ、見えてしまったものが一つだけ有りました。それは、光り輝きながら大きく口を開けて何かを叫んでいる、かのようなタカの姿がはっきりと、この世の生き物とは思えない代物を見てしまった美津子です。その時、一瞬その代物と、目と目が合ってしまいましたが、それは必然か、それとも運命の悪戯いたずらなのか。とにかく、そんな瞬間がありました。

 猛然と土埃を巻き上げながら遠ざかる車を、タカは勿論トビ・ワカも呆然として棒立ち、まるで見送るかのように見ていただけの三人です。そして揺らめく車のテールランプに合わせて体を揺らしていたトビがその動きを止めると我を取り戻したようです。

「あっ、あうぅ、まずい、まずいよぉぉぉ、見られたぁぁぁ、行っちゃったよぉぉぉ」

 そんなトビの、叫びにも似た悲痛な声が暗闇に溶け込まれていくと、その余韻に紛れて、

「そうだね」

 と頷くワカ。その余裕ぶりに一瞬で輝きを失ったタカです。

「やべぇぇぇ。誰だよこんなところまで来やがって。……なんとかしないと、なっ、なんとか、……なんとかだよぉぉぉ!」

 その頃、小刻みにハンドルを揺らす美津子です。それは、恐怖で体が強張ってしまったからなのか、それとも無意識の条件反射でしょうか。ですがそこは身の丈に合わない高級車です、美津子の行為を誤操作と認定、人ごときに操られてはたまるものか、という意識が有るのか無いのか、平常を保ちながら、それでも猛然と疾走する車は僅かに後部を揺らしながら前へ、前へと進んで参ります。

 そうなると必然的に例の三人とは離れるばかり。それを良しとしない、見られたくない、知られたくない、という感情と、序でに少々の怒り(小さじ1/2程度)がタカの脳裏に浮かんだようです。——ほら、その証拠に体が「燃え尽きかけた線香花火」のようにパチッパチッと火照ほてっています。

 そんなタカを、「ああぁ、あれは怒ってるね。それと同時に困ってもいる……大変だな、この後が」と分析するワカです。

 そうして、そうして、やっとトビが前に進み出ました。それはこの事態を丸く収める妙案があってのことでしょう。そんなトビを注視していると、何やら両腕を振り回し振り回し……きっと何かしてくれることでしょう。そう期待していると(期待しているのはワカとトビ本人だけです)、その動きまはまるで忍者。ということは忍術が飛び出るのでしょうか、トビだけに……。

「あいやぁぁぁ」

 威勢の良い掛け声と共に、出ました! 光り輝く「何か」がトビの手から放出されたようにも見えます。それが一直線に山道を暴走する美津子の車めがけてヒューヒュー、です。更に良く見ると、それは伸びた腕のように車を掴もうとグーパーを繰り返し、あともうちょっとで届くぞー、というところで、異様な殺気を感じ取ったのか、その光景をバックミラーで見てしまった美津子、思わず、というか、体が勝手にアクセル全開、「一位でなければあとはカス」と言わんばかりに暗闇を切り裂いて行きます。あれもこれも魔法がなせる技なのでしょうか……。

「なんだよー、なんだよー」

 あともう少し、届きそうで届かない悔しさを声に出して喚くタカ、ただそれだけで何かをしようという考えには至らないようです。そんなタカの何かを感じ取った冷静なワカが「仕方ない」という感情の現れなのか、トビの背中を押すような仕草をしました。するとどうでしょう、もう少しが、ガッツリと車を掴んだではありませんか。そして次の瞬間、まるで一本釣りのように腕を引き上げしならせ、車を引き戻そうと試みるトビ、安堵とこれからが勝負だぁの表情が交差します。

 逃走車と化した美津子にも、その衝撃がグウィーンと伝わります。それはまるで伸びきったゴムがパチンと切れそうな、——いいえ、全然違います、しつこい勧誘に前を塞がれた時の、「ああ、面倒だわ。そこをどいてちょうだい」の心境でしょうか。いいえ、これも違うようです。とにかく、ガクンと車の速度が落ち、いくら優秀な高級車といえども、何かに掴まれるなんて想定外、混乱して後輪を空転させるばかりです。

 この状況に悔しさから解放されたタカは見た目も普通の人に、そしてニヤリとどこかの陰でほくそ笑むのはワカ、そして大活躍中のトビは勝利を確信し……そうです、こんな時は大抵、隙が生じるものなのです。ですから定めれし運命に従えば——いいえ、単にトビの魔法が「へっぽこ」だっただけのようです。その証拠に、ガツンと魔法で車を捕らえていたはずが、それこそ伸びきったゴムがパチンと切れるように、これ以上は無理、耐えられないぃぃぃ、という具合にその力が緩んでしまいました、よ。

 そうなれば息を吹き返したかのように猛然と前進、また前進と高級車は進んで参ります。もちろん序でに美津子も同様です。こうなってしまっては、あとは手の施しようがありません。解放され自由の身になった高級車は、序でに美津子も含め、どんどんタカ、トビ、ワカの三人衆から遠ざかり、そして……見えなくなってしまいました。あとにはタカ、トビ、ワカの阿鼻叫喚と悔し涙が暗闇に溶け込み、三人だけの寂しい空間が漂うばかりです。

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