12☆ワールド征服旅行記

Tro

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#7 現代 フーコ編

#7.3 座布団

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薄暗い部屋で俺は、罵詈雑言を浴びながら、キーボートを叩き続ける。そこに、俺の正義や不正は無い。得体の知れない十字架を背負い、誠の炎を燃やし続けた。

終了のゴングが鳴り響く。さあ、リングを降りる時間だ。

「おい! 474。30秒で戻ってこい」

俺は部屋を出て、13階のプライベート研究所を目指す。

研究所のドアを開けると、お姉さんが正座して待っていた。

「君。ここに座りたまえ」

お姉さんの目の前に座布団が一枚、敷かれている。ここに座るのか? あまりも近すぎる。このまま正座したら、膝と膝が当たるんじゃないか?

俺は無言で、座布団をお姉さんかは引き離そうと…お姉さんは座布団を掴んで離さない。暫く、座布団の取り合いになったが、結局、お姉さんの隣に座ることで決着した。

「密告は、失敗した」

周囲のサーバーの排気音が、うるさい。

「失敗したんだー。奴ら、もみ消しやがった」
「詳細を、お聞きしても宜しいですか?」
「通報窓口に社長の手の者がいたのだ。それで証拠は全て破棄されてしまった」

「そうですか。分かりました。
これに挫けず、次を探しましょう。きっと見つかります」

「君。分かってないね」
「それは、いつものこと」
「内部通報がダメなら外部通報があるのだ。既に通報済みだ。参ったか。ガハハ」
「お姉さん。失敗したと聞いたような」
「”失敗は成功の元”と言うではないか。この天才を侮っては困るよ、君」
「御見逸れ致しました。お姉さん」
「名を呼んでも良いぞ。苦しゅうない」



薄暗い部屋で俺は、キーボートを叩き続ける。そこに、俺の成功や失敗は無い。得体の知れない十字架を背負い、忍の炎を燃やし続けた。


「ドキューン」
俺は突然、奇声を上げた。何故だか、分からない。

「静かにしろー、474!」

誰かに怒鳴られた。それが自分に向けられたものなのかどうか、判断がつかない。

「おい、フーコ。俺は外出してくる。7時までには戻る。そいつが使い物にならなくなったら処分しておけ」

「分かりました。部長」


俺の部長様が、外出なされた。
早速、隣のお姉さんからチャット攻撃を喰らう。

天才のフーコ > 君。成果が出たようだ。
無能の俺さま > ...

天才のフーコ > 隣の95部隊が全滅した。
無能の俺さま > ...

天才のフーコ > 急遽、将来の事業計画を見直すことになった。
それで、95部隊がお取り潰しとなったようだ。喜べ。

無能の俺さま > ...

天才のフーコ > しかし、その分、我が隊に影響が生じてしまった。悲運。
無能の俺さま > ...

天才のフーコ > 更に諸君らの、成功を祈る。なお、このメッセージは…

俺は、自分のパソコンをリセットした。

俺のパソコン > やあ? どうした、急に。まあ、いいや。心機一転、頑張ろう!



薄暗い部屋で俺は、キーボートを叩き続ける。そこに、俺の前進や後退は無い。得体の知れない十字架を背負い、闇の炎を燃やし続けた。


至福の時間が到来。さあ、餌の時間だ。

「おい! 474。5分で戻ってこい」
そのうち、俺の屁で吹き飛ばしてやる。

俺は部屋を出て、従業員食堂を目指す。エレベーターに乗り込み、51階で土石流に押し流される。券売機の行列に並ぶこと17分。今日もカツ丼をチョイス。

ひとり優雅に食事中のお姉さんに接近。

「すいません。相席、いいですか?」
俺は突然、話しかける。

「どうぞ、空いてますから」

俺は、カツ丼を頬張りながら、お姉さんを見る振りをして食べ続ける。

「イカれた野郎の急所を掴んだ」
「やっぱ、このカツ丼、ウッメー」
「セクハラ疑惑。多数の女性達が社長を訴えるかどうか思案中だ」
「すごいじゃないですか」
「既に、証拠をマスコミにリークした。後は時間の問題だ」
「思案中とか、聞いたような」
「それは仕方ないだろう。余り世間には知られたくない事だからな」
「いいんですか? それ」
「どの道、訴えるつもりだったんだ。彼女達にはこの際、犠牲になってもらった」
「承諾は取れたんですか?」
「イカれた野郎をぶっ潰すためだ。堪えてくれ」
「俺に言われても」

『すいません。相席、いいですか?』
無謀な若者が錨を上げ、撃沈覚悟で挑んできた。

「……」
『すいません。他所に行きます』

無謀な若者が、お姉さんのレーザービームで撃沈した。



薄暗い部屋で俺は、罵詈雑言を浴びながら、キーボートを叩き続ける。そこに、俺の純愛や不倫は無い。得体の知れない十字架を背負い、愛の炎を燃やし続けた。

終了のゴングが鳴り響く。さあ、リングを降りる時間だ。

「おい! 474。5秒で戻ってこい」

俺は部屋を出て、13階のプライベート研究所を目指す。

13階の廊下でお姉さんがひとり、立っていた。

「ううう」

お姉さんは、下を向いたまま、その長い髪で顔を隠している。きっと、泪を見せたくないのだろう。どうやら、失敗したようだ。でも、なんだか、ホッとした俺がいた。

「君! なんでだ! なんでなんだよー」

お姉さんは俺に近づき、俺のネクタイを鷲掴みにすると、そのまま俺を壁に押し付けた。そして、右手で目一杯、壁ドン。

「どうしてなんだ! どいつもこいつも!」

荒ぶるお姉さん。ここは、良し良しとしたいところだ。

「”失敗は成功の元”って言ったり、言わなかったり?」
「誰だ! そんな適当なことを言う奴は! あれか!? イカれクソ野郎か!」
ことわざなんで、誰かとか~」
「クシュン。君。付いて来たまえ。いい考えが浮かんだ」
「本当ですか?」
「君。私を誰だと思っているのかね。天才のフーコ様だよ」

◇◇

プライベート研究所で俺達は、迎え合わせに正座した。もちろん、十分距離は取ってある。

「君の情報が役に立つ時が、来たのです…だ」
「俺の努力がやっと、報われるのですね」
「少しだけだが、そういう事にしておこうか」
「有り難う御座います」

「今回は、非常に残念だった。イカれクソ野郎がマスコミを買収したのだ。どこまでいっても性根の腐った奴だ。その根性、叩き直してくれる」

「して、次回の策とは」
「それは、まだ言えぬ。時を待て」
「仰せのままに」
「よくぞここまで、私に付いて来てくれた。嬉しいぞ」
「滅相もありません。お姉さんと一緒なら、地獄の果てまでお供します」
「それは嫌」



薄暗い部屋で俺は、キーボートを叩き続ける。そこに、俺の天国や地獄は無い。得体の知れない十字架を背負い、滅の炎を燃やし続けた。


「パピューン」
俺は突然、奇声を上げた。何故だか、分からない。

「静かにしろー、474!」

誰かに怒鳴られた。それが自分に向けられたものなのかどうか、判断がつかない。

薄暗い部屋で、何故か隣だけが明るい。スポットライトのような光が、お姉さんを包み込んでいた。暗がりにいる俺に、お姉さんが手鏡で、俺に光を当てる。闇になれた俺には眩し過ぎる。それは、光か、お姉さんか。

「オーホホホ」

この部屋で初めて聞いた、お姉さんの笑い声。いや、この部屋だけじゃない。全くの初めて。初体験だ。

「おい、フーコ。お前まで。静かにしろ。でないとクビにするぞ」
「部長!」

いきなり、お姉さんが立ち上がり、部長様と対峙した。この場で成敗か?

「なんだ? フーコ。どうした」
「宜しければ、部長の靴、舐めさせて頂きたいのですが?」
「な、何を言ってる! 俺は出てくる。7時には戻る」
「分かりました。部長」

俺の部長様が、外出なされた。お姉さんは、やる気の本気だ

「君。私達も出掛けよう」

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