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第5話 正直者は演じる
しおりを挟むこれで俺の所持金は限りなくゼロになった。正確に言ってもゼロだ。
そんな俺の視界にキャッシュカードが飛び込んできた。誰もいない。誰も見ていない。俺は偶然にもカードを手に入れた。カードの裏に暗証番号が書いてある。『希望』だ。何だこれは?
取り敢えずATMに直行。しかし、暗証番号のボタンは数字だけだ。構わずカードを突っ込む。すると残高が勝手に表示された。残高1億円。何だ、それっぽっちか、体が震える。そこへ、隣のATMに爺さんがやってきた。
「わしの暗証番号は『希望』だったな」
何を言っている? 爺さんは『希望』と声を出しながら暗証番号を打ち込んでいき、ATMから札束が溢れ出した。
俺は爺さんに、遠まわしで訪ねる。
「俺に希望はありますか」
「希望? さあ、わしにはあるがの~」
爺さんは札束で顔を仰ぎながら俺を置き去りにした。
順番は逆になったが、俺は拾ったカードを交番に届けることにした。これでも俺は、かなりの善人だ。きっと名前やら住所を聞かれるに違いない。落とし主の喜ぶ顔が浮かぶ。これでも俺は、スーパー善人だ。
「今日、ちょっと泊まっていこうか」
お巡りさんの強烈な一言が俺を打ちのめす。何故か俺は、檻の人となった。
檻の中で俺は、何か芸を考えていた。素晴らしい演技で観衆を湧かせよう。そう思ったが誰もいない。しかし俺は芸に磨きをかける。そうしたら、ここから出られる様な気がしたからだ。
夜になると、周囲は真っ暗になった。俺の先行きも暗い。俺は鉄格子を掴み、『ここから出せー』と叫んでみた。一度、やってみたかったことだ。気が晴れて清々した。
希望の光が俺を射す。小さいが確かに俺を照らす光。懐中電灯の明かりだ。
「出ろ」
制服の人が無愛想に言いやがる。
「お世話になりました」
俺は規則に従い、決め台詞を吐いた。早くシャバの空気が吸いたい。俺に非がなくとも、男はそれをぐっと飲み込んで堪える。世間が悪いんじゃない。俺が世間に背を向けただけだ。これからは前を向いて歩こう。一日三歩、受けた恩は忘れよう。
「勘違い、しないでよね」
なに? 制服の人の声も、どこかで聞き覚えが有りそうだが、さて、誰だったか。
俺は、ヘルコプターに乗せられ宙を舞う。
自由の翼よ、こんにちは。見えるかい? あれが、なんとかタワーだ。
「降りろ」
なに? その声も、どこかで聞き覚えが有りそうだが、さて、誰だったか。
俺はヘルコプターから突き落とされた。綺麗な夜空だ。美しい星が輝いている。いや、あれは地上の星だ。俺もその内の一つになるのか。
パラシュートの華が咲く。星になる前に俺は夜空に咲く一輪の華となった。その華は、ゆらゆらと揺れながら可憐に舞い降りる。
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