パンドーラーの箱

Tro

文字の大きさ
5 / 6

第5話 正直者は演じる

しおりを挟む

 これで俺の所持金は限りなくゼロになった。正確に言ってもゼロだ。

 そんな俺の視界にキャッシュカードが飛び込んできた。誰もいない。誰も見ていない。俺は偶然にもカードを手に入れた。カードの裏に暗証番号が書いてある。『希望』だ。何だこれは?


 取り敢えずATMに直行。しかし、暗証番号のボタンは数字だけだ。構わずカードを突っ込む。すると残高が勝手に表示された。残高1億円。何だ、それっぽっちか、体が震える。そこへ、隣のATMに爺さんがやってきた。

「わしの暗証番号は『希望』だったな」

 何を言っている? 爺さんは『希望』と声を出しながら暗証番号を打ち込んでいき、ATMから札束が溢れ出した。

 俺は爺さんに、遠まわしで訪ねる。

「俺に希望はありますか」

「希望? さあ、わしにはあるがの~」

 爺さんは札束で顔を仰ぎながら俺を置き去りにした。


 順番は逆になったが、俺は拾ったカードを交番に届けることにした。これでも俺は、かなりの善人だ。きっと名前やら住所を聞かれるに違いない。落とし主の喜ぶ顔が浮かぶ。これでも俺は、スーパー善人だ。

「今日、ちょっと泊まっていこうか」

 お巡りさんの強烈な一言が俺を打ちのめす。何故か俺は、檻の人となった。


 檻の中で俺は、何か芸を考えていた。素晴らしい演技で観衆を湧かせよう。そう思ったが誰もいない。しかし俺は芸に磨きをかける。そうしたら、ここから出られる様な気がしたからだ。

 夜になると、周囲は真っ暗になった。俺の先行きも暗い。俺は鉄格子を掴み、『ここから出せー』と叫んでみた。一度、やってみたかったことだ。気が晴れて清々した。


 希望の光が俺を射す。小さいが確かに俺を照らす光。懐中電灯の明かりだ。

「出ろ」

 制服の人が無愛想に言いやがる。

「お世話になりました」

 俺は規則に従い、決め台詞を吐いた。早くシャバの空気が吸いたい。俺に非がなくとも、男はそれをぐっと飲み込んで堪える。世間が悪いんじゃない。俺が世間に背を向けただけだ。これからは前を向いて歩こう。一日三歩、受けた恩は忘れよう。

「勘違い、しないでよね」

 なに? 制服の人の声も、どこかで聞き覚えが有りそうだが、さて、誰だったか。


 俺は、ヘルコプターに乗せられ宙を舞う。


 自由の翼よ、こんにちは。見えるかい? あれが、なんとかタワーだ。

「降りろ」

 なに? その声も、どこかで聞き覚えが有りそうだが、さて、誰だったか。

 俺はヘルコプターから突き落とされた。綺麗な夜空だ。美しい星が輝いている。いや、あれは地上の星だ。俺もその内の一つになるのか。


 パラシュートの華が咲く。星になる前に俺は夜空に咲く一輪の華となった。その華は、ゆらゆらと揺れながら可憐に舞い降りる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...