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大切な人に変わりはないから
しおりを挟む夕食の席もドア側にわたし達三人が座り、反対側にシェーンハイト様とフレイヤ様が座る。
「昼間は食べれなかったんでしょう、好きなだけ食べね」
テーブルにはわたしの好物が並べられていて、真ん中にはコロケらしきものが山積みになっていた。
ーー美味しそう、二人が事前に伝えておいてくれたのかな?
「ありがとうございます!いただきます」
わたしが手を合わせ終えると、左右から一口サイズに切り分けられたコロケが口に運ばれて来た。
ーーどっちのを食べれば良いんだろう
「あの子達が誰かにあ、あんな事をするなんて…」
シェーンハイト様とフレイヤ様はわたし達のことを信じられないものでも見るような目で見ている。
「夕食は俺の担当のはずだ」
「昼は食べさせてやれなかったんだから、いいだろう!」
「クシェルは朝やっただろ。夕食は俺だ」
ジーク様の言い分にぐうの音も出ないようでクシェル様は渋々それを自分の口に運んだ。
「はいコハク、あーん」
ジーク様はいつものように(あーん)と口を開けるジェスチャーをした後、優しく微笑む。
わたしは戸惑いつつジーク様がしたように大きく口を開いて、コロケを食べる。
「美味しいか?」
口いっぱいにコロケがあるため、咀嚼しながら頷くことで答えた。
コロケはコロッケより肉が多くて肉も粗挽きで肉肉しく、そのためか香草の風味が少し強めの味付けだ。
「可愛い~!真っ赤になりながら口を開けたかと思うと、頰を大きくしてモグモグってーーハァハァ何だこの可愛い生き物は!!」
シェーンハイト様が怖い!
まさに暴走時の父の様だ。
息を荒くして興奮気味で身を乗り出してわたしを食い入るように見ている。
「親父コハクが怖がってるだろ、自重しろ」
「す、すまない、しかし可愛すぎるだろ!」
シェーンハイト様はきちんと椅子に座りなおしてくれたがーー目が怖い
重症だ。思ったより重度のロリコンだった
「いつもこうなの?コハクちゃんはこういう事に抵抗はないの?」
こういう事とは(あーん)の事かな?
フレイヤ様は「二人に嫌々させられてるんじゃない?嫌な事は断って良いのよ」と心配してくれる。
確かに抵抗が無いわけではないけど、嫌なわけでも、ない。それにーー
「小さい頃はよく父にされていたので」
子供扱いされるのには慣れている。
つい、遠い目をしてしまう。
ロリコンな父には「これぐらい親子のふれあいとして全然普通だよ~」と日常的に(あーん)やハグ、頬にキスなんて事までされていた。
中学に上がり友達にそれは普通じゃないと言われて、次の日から強く反抗したらーー泣かれた。
「羨ましい!!」
「そ、そう」
本気で悔しがっているご様子のシェーンハイト様と、少し引き気味?なフレイヤ様。
そして何故かわたしの手を握るクシェル様。
わたしがコロケを食べ終えるとジーク様が果実水を渡してくれた。
飲み物は流石に(あーん)出来ないので、自分で飲みます!この世界にストローはありません!
「美味しかったです、わざわざ用意してくださりありがとうございます」
「良いのよそんな、口にあって良かったわ」
「元はと言えば我が国の愚かな民が悪いのだ、すまなかった」
シェーンハイト様が頭を下げる。
「いえ、敵国の種族の者がしかも見るからに異世界人である者が魔王様の近くにいたら、警戒して当然です」
魔王様が騙されてると思って、魔王様を守ろうと、わたしを殺そうとしてもおかしくない。
この世界では、この四人の方が特別である事ぐらい分かってる。
「だから頭を上げてください」
「ありがとう、コハクちゃんは優しいな」
「そんな事ないですよ、こんなわたしを快く受け入れてくれた皆さんの方が優しいと思います」
シェーンハイト様に微笑みかけると、シェーンハイト様がいつかのクシェル様みたいに上を向いて顔を両手で覆った。
ーー似た者親子なのかな?
「天使だ!」
そして、シェーンハイト様の言葉に静かに頷くクシェル様とジーク様ーー
もう聞かなかったことにしよう。
わたしにとって普通の事でもこの世界の人間ではあり得ない事なのかもしれない、「天使」と比喩してしまうほど…。
父もたまにアニメのキャラをそう比喩していた『ーーたんマジ天使!可愛すぐる!』とか言ってた。多分そういう感覚なんだろう。
夕食後今日寝る部屋に案内され、部屋には大きなベッドが一つあった。
いつものように三人でこの部屋を使おうとしたら、この部屋はクシェル様用に準備された部屋らしく、またフレイヤ様に心配され、 シェーンハイト様は悔しがっていた。
魔王城では防衛上の都合で一緒の部屋で寝てるんだった!だからここではその必要は無いんだ。
ーー慣れって怖い!
フレイヤ様のお言葉に甘えて(必要以上に二人に迷惑をかけないように)わたしのために用意してくれたという部屋に案内してもらおうとしたら、クシェル様に止められた。
そして結局、いつも通り三人で同じ部屋を使う事になった。
ーーあれ?
そしてお風呂はフレイヤ様と入ることになった。
恥ずかしいし、クシェル様が何故が嫌そうにしていたので断ろうとしたのだが、フレイヤ様が「たまにはシャワーを浴びたいでしょ」「女同士で色々話したい事もあるし」と仰るので断ることが出来なかった。
「コハクちゃんはクシェルに負の感情が一切無いのね」
「負の感情ですか?」
「そう、嫌悪や恐怖ーー哀れみだったり、そういう感情が一切見えない」
確かにわたしはクシェル様に対して嫌悪や恐怖心を抱いてはいないし、哀れだと思ってはいない。しかしそれは、わたしがこの世界の価値観を持っていないからだ。
クシェル様の容姿が魔王様らしくないと言われても「そうなんだ」としか思えない。だから嫌悪はもちろん哀れに思うこともない。 クシェル様を容姿なんかを理由にして平気で蔑む人たちに怒りはあるがーーて「感情が…見えない」?
「フレイヤ様は感情が見えるんですか?」
「あークシェルから聞いてない?ヴァンパイアの目には人の感情やそれらが込められたものを見る力があるの」
すごいまさに異世界!て、
「ヴァンパイア⁈」
ヴァンパイアって、目が赤くて色白で大きな牙があって耳が尖ってて、食事は人の血で、日の光に弱くて、ニンニクや十字架が苦手な?
「もしかしてそれも聞いてないの⁈」
「……はい」
「あの子重要なこと何も話してないじゃない、それで同じ部屋で、なんて…」
フレイヤ様の肌は透けるように白く瞳も赤くて、ヴァンパイアと言われればーー確かに?
と、いうことはもしかして!
ある確信が欲しかったわたしは、濡れた髪から覗く、普段は長い黒髪の下に隠れているフレイヤ様のアレを見た。
や、やっぱりーー尖ってる!
フレイヤ様の耳はクシェル様と同じく先が尖っていた。
フレイヤ様がヴァンパイアということはクシェル様はヴァンパイアと魔族のハーフという事になる。つまり、クシェル様の耳が尖っていたのは、ヴァンパイアの血を引いていたからで、更に今まで見た中で耳の先が尖っている人がクシェル様だけだったのは、ヴァンパイアの血を引く人がクシェル様だけだったからだ。
もしかして、クシェル様が街の人達からあんな目で見られているのは見た目だけじゃなくてーーヴァンパイアだから?
あの時のフレイヤ様の「私のせいなの、私の血が混じってしまったばっかりに…」というセリフはこの事を言っていたのかもしれない。
私の、ヴァンパイアの血が混じってしまったばっかりに、と……
「ヴァンパイアって聞いて、怖くないの?」
「へ?あ、い、いえ。クシェル様がどんな種族でも、クシェル様はクシェル様なので」
例え人間の血を必要とする種族だったとしても、わたしにとって優しいくてちょっぴり寂しがりやの、大切な人に変わりはないから
「コハクちゃんは本当に優しい子ね」
わたしは優しくなんかない……クシェル様やジーク様が優しい良い人だと知っているから、種族や過去にとらわれることなく「好き」でいれるだけで、わたしは二人みたいに初対面の人間に手を差し伸べることなんてできない。
わたしは曖昧な笑顔で返すことしかできなかった。
「クシェルがヴァンパイアである事を受け入れてくれてありがとう、そのことで……話があるの」
フレイヤ様の声が真剣な声色に変わる。
多分これから話すことが今回の本題なんだろう。わたしも改めて気を引き締めた。
「ヴァンパイアの目の力のことはさっき話したわよね」
「はい、人の感情が見えるんですよね」
「そう……クシェルは負の感情を見ることが出来るの」
だから、クシェル様は自分の容姿のことで小さい頃からそういう感情に晒されて生きてきたらしく、クシェル様が口にしなかったものから毒が検出されたことも少なくなかったとの事。
クシェル様はそのせいで心を閉ざしてしまった。しかし、そのトラウマが消えたわけではない。クシェル様はきっとわたしにそういう感情を向けられる事を酷く恐れている、だからたまに不安定になってしまうことがあるかもしれないということだった。
わたしはこの話を聞いて思い当たる場面がいくつか頭によぎった。
「それと、あなたも命を狙われる可能性があるの、だから、クシェルが確認したもの以外は口にしないで欲しいの」
フレイヤ様は酷く申し訳なさそうに言う。
フレイヤ様のせいではないのに。
やっぱり、昼にクシェルが料理をひっくり返して怒っていたのは、料理に毒が入っていたからだったみたいだ。むやみに人を疑いたくはないけど、実際にそういうことがあってしまった今ではそんなことは言ってられない。
「はい、分かりました」
わたしはあえて笑顔で返した。
すると、フレイヤ様の表情も少し和らいだように思う。
「それと、わたし達ヴァンパイアは月に一度強い吸血衝動があるのそれはクシェルも例外ではなくて…その日が来ると多分抑えが効かなくなってしまうと思うの、だから…」
「そ!それは、わたしでもクシェル様の役に立てるという事ですか?」
「え⁈あげちゃうの?」
フレイヤ様はまさかわたしが血を与える事を提案してくるとは思っていなかったようで、すごく驚かれた。
「あ、でも、わたし注射が一人では出来ないくらい、痛いのが苦手なんです」
「チューシャはよくわからないけど、ヴァンパイアの唾液には痛覚麻痺の作用があるから多分大丈夫だと思う、けど」
「そうなんですか‼︎」
わたしがクシェル様に血をあげることに前向きであることが分かり、更に戸惑いを見せるフレイヤ様。
もしかして、その時は全力で逃げて!って言おうとしてたのかな?
だとしたら、血を吸われるのってそんなに危険な事なのかな?
「……すみません、噛まれたらヴァンパイアになっちゃったりします?」
漫画やアニメによって色々な解釈があるけど、中にはヴァンパイアに噛まれると操り人形みたいに自我を失った、血を求めるだけの出来損ないのヴァンパイアになるものもあった。
「コハクちゃんはヴァンパイアは嫌い?」
フレイヤ様が悲しそうに俯いてしまった。
わたしの言い方が悪かったのか、フレイヤ様やクシェル様のような純粋なヴァンパイアのことに苦手意識があると思ってしまったのかもしれない!
「嫌いじゃないです!でも自分が変わってしまうのはーーそれに、自分が痛いのはもちろん、痛いものを見るのも苦手で」
血を吸うって事は必然的に血を見ないといけないわけで、ましてや誰かを噛んで傷付けて血を飲むなんてわたしには無理だ!
「そうよね、でも大丈夫よ。ただの吸血行動だけではそんなことにはならないから、傷も数日したら綺麗に治って跡も残らないし」
「何の心配もいらないわ」と微笑むフレイヤ様にわたしは頷いた。
風呂から上がるとフレイヤ様が魔道具で髪を乾かしてくれた。
え!この世界にもドライヤーあったの⁈
フレイヤ様は回復魔法が得意でクシェル様みたいに風を操ったりは出来ないらしい。
用意してあった寝巻きに着替えてフレイヤ様と共に脱衣所から出る。
すると、目の前に髪も乾かさず不安げに佇むクシェル様とその後ろにジーク様とシェーンハイト様も立っていた。
「く、クシェル様⁈どうしたんですか?」
「三人とも何かあったの?」
クシェル様と目が合った瞬間両肩を掴まれた。その手は微かに震えている気がした。
「コハク、すまない、お、俺ヴァンパイアなんだ!」
「……はい」
自分がヴァンパイアである事を伝え忘れていた事を思い出し急いで伝えに来てくれたようだ。
「人の血を吸うなんて怖いよな、でも大丈夫俺はコハクの血が欲しいなんてこれっぽっちも思ってないから!傷付けないから、だから……」
「ーーえ⁈」
ーーわたしの血が欲しくない?わたしの血じゃクシェル様の助けにはなれない?
「違うのコハクちゃん今のはっ!」
わたしが固まってしまった原因に気づいたフレイヤ様が慌てて訂正を入れる。わたしは風呂場でフレイヤ様に聞いた話を思い出す。
クシェル様はわたしに負の感情を向けられるのを恐れている。
フレイヤ様に頷いてみせた。
クシェル様は返答がないわたしを見てさらに不安を募らせている。その必要は無いのに。
「クシェル様、ヴァンパイアの話は先程フレイヤ様にお聞きしました」
クシェル様の眼だけがフレイヤ様に向けられる。
「大丈夫です、寧ろわたしでもクシェル様のために出来ることがあって嬉しいです」
「コハク…」
「でもわたし痛いのが苦手で、出来るだけ痛く無いようにしてくれたら嬉しいです」
この発言のせいであんな事になるなんて、今のわたしには分かるはずもなかったーー
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