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【ジーク】『渡り人』だったら良かったのに
しおりを挟むクシェルたちが部屋を出ていき、部屋には俺とコハクとシェーンハイト様が残った。
これなら、自分達の部屋で待っててもいいんじゃないか?昨日の事もあるし、あまりコハクをシェーンハイト様に近づけたくない。
「さて、こちらもコハクちゃんと二人っきりにさせてもらおうか」
なのにシェーンハイト様が作ったような真剣な顔(キメ顔)でありえないことを言い出した。
「無理です」
「何故だ!フレイヤは良くて何で俺はダメなんだ!」
むしろ、何故了承すると思ったのだろう…馬鹿なのか?
「…ロリコンの変態だからです」
シェーンハイト様のコハクに向ける視線は危ないものを感じる。そうでなくとも、コハクを他の男と二人っきりにさせるわけないだろ。
「お前らも同じようなもんだろ!」
「違います」
断じて違う。俺はコハクが小さいから好きなわけではないし、「可愛いは正義」とかわけのわからない事は言わない。コハクだから可愛いと思えるし、そういう欲を向けるのもコハクだけだ。
もし、シェーンハイト様が俺と同じだと言うのならーーーー
「わ、分かったから殺意を向けるのをやめろ!お前らなんか昨日から色々怖いぞ!」
「さ、殺意⁈」
馬鹿!言葉は選べ、コハクが怖がるだろうが!
「コハクを変な目で見ないようにお願いしただけだ。シェーンハイト様は物事を少し大袈裟に表現なさる」
安心させるため頭を撫でる。
「…なる、ほど?」
いまいち納得出来てないようだったが、怖がる様子は無い。良かった。
「で、コハクと二人っきりになりたい理由とは?」
「コハクちゃんに聞きたい事があって…」
「二人っきりで?」
二人っきりで聞きたい事だと⁈どう考えても変態的なこととしか思えない!
「聞きたい事?何ですか?」
コハクの表情が少し強張る。引いている、嫌がっているというよりは、緊張しているようだ。
コハクの想像した質問内容は変態的なことでは無いようだ。大方異世界、人間、勇者に関わる事だろう。
「ジークがいて答えにくいとは思うが、正直に答えてほしいーー元の世界に帰りたいと思うかい?」
「っ…それは」
コハクが戸惑いがちにこちらを見る。
確かに俺たちが居るところでは聞きにくい質問ではある。もしこの場にクシェルが居たら、「元の世界に帰りたい」という答えは良しとしなかっただろう。
しかし、俺は大丈夫だ。いや、俺もそんな答えは聞きたくないが、コハクが帰りたいと言うのならそれを否定はしない。この世界にコハクの幸せが無いのなら、あちらの世界に帰る事がコハクの幸せだと言うのなら俺はーー
「聞かせてくれ」
そう言うと、コハクは意を決した様にシェーンハイト様の方を真っ直ぐに見て答えた。
「ーー思わない事はないです」
俺に気を使っているのか、遠回しな言い方だが、つまり、「帰りたい」と思っているということか。覚悟をしていたはずなのに、自分の中に黒い感情が湧き上がってくるのを抑える事ができない。
「お父さん、友達、将来の夢…残してきたものは多いです」
あーコハクが『渡り人』だったら良いのに。天涯孤独で、あちらの世界に夢も希望も無く絶望してこちらの世界に来ていたら、そしたら俺たちから与えられる愛情だけが全てで唯一で、俺たちから離れるなんて選択肢すら無い。
「でも、ジーク様とクシェル様お二人と共に過ごす今もとても大切で…幸せで」
「そ、それって!」
俺たちの事を家族や友人同等の又はそれ以上大切に思ってくれているという事でーー
「あちらの世界はここより発展し、安全で安定した生活を送れると聞いた、それでもこの世界に残りたいと少しは思ってくれているということかな?」
「…はい。でもーーすみません結局曖昧な答えしか、出せなくて…」
「いや、正直に答えてくれてありがとうっ!」
シェーンハイト様の手がコハクの頭に乗せられそうになったので払い除けた。しかし、シェーンハイト様は不満を口にするでも無くわざとらしく手を摩ると話を続けた。
流れるようにコハクの頭を撫でようとするのはやめて欲しい。というか手の届く範囲に近づかないで欲しい。
「しかし、このままではコハクちゃんには危険や負担をしいる事になってしまう」
確かに、ここ(魔族の国)に住む以上これからもそういう事が度々起こるだろう。現に昨日命を狙われたばかりだ。もしかしたら、クシェル以上に不当な扱いを受けるかもしれない。
「そうだったとしても、わたしはお二人の側にいたいです!ーーダメ、ですか?」
「コハクのことは俺が守る!」
「クシェル!」
タイミングを見計らったかの様に、クシェルとフレイヤ様が帰ってきた。
シェーンハイト様はクシェルに後ろめたく感じていたのか、2,3歩後ずさる。
「クシェル様…」
「という事で婚約するぞ!コハク」
「ふぇ⁈こ、婚約ですか⁈で、でも…」
クシェルのいきなりな宣言にコハクは困惑し戸惑いを見せる。
コハクは俺たちの事を好きだと言ってくれたが、それは人としてであり、俺たちがコハクに向けるものとは違う。信頼し、気を許してくれているだけだ。いきなり婚約なんて言われても困るよな…
「大丈夫、好きな人ができたら解消して良いの、それまでのつなぎ?とでも考えれば良いわ」
どうやらフレイヤ様がクシェルを連れ出したのはこの話をするためだった様だ。
これは昨日夕食前に俺がフレイヤ様にお願いした案だ。
魔王の婚約者ともなれば簡単に手出しはできなくなる。コハクに害を成そうという者は大幅に減少するだろう。更に客人ではなく「魔王の婚約者」という肩書きならば、他国にも影響力がある。もし他種族に連れて行かれた場合、取り返すための大義名分となる。 コハクを守るためにはこれが最善の策だ。しかし、それにはフレイヤ様とシェーンハイト様の了承そして、コハクの同意が必要だ。
「そ、そんなこと出来ません!」
「俺と婚約するのは形だけでも、嫌か?」
「い、嫌ってわけじゃーーでも、それじゃクシェル様に迷惑が…」
コハクはこんな時でも自分の事ではなくクシェルの心配をしている。
「迷惑じゃない!!俺にコハクを守らせてくれ」
「クシェル、様」
クシェルはコハクの両手を包み訴える。
「俺からも頼む、コハク」
「ジーク様」
「コハクちゃんが気に止むことは何一つない、悪いのはコハクちゃんをこんな世界に飛ばした誰か、理不尽なこの世界、そして人を種族・容姿でしか判断出来ない我が民、我らにはそれらから君を守る義務がある」
シェーンハイト様はコハクの前に膝を降り礼を示す。本来、王家の者として有るまじき行為である。しかしここにそれを止める者はいない。ここにいる誰もが同じ気持ちだからだ。
「そ、そんな義務だなんて…シェーンハイト様は何も悪くありません!頭をあげてください!」
「すまない、ありがとう」
頭を下げたままであるため顔は見えないが、シェーンハイト様の声は震え、涙ぐんでいるのがわかった。
「そんな重く考えなくても良いのよ?私達はコハクちゃんの事が大好きだから守りたいし、仲良くしたいの、もう家族の様に思ってるんだから~」
「家族…」
あちらの世界の家族のことを思ってか、悲しげに呟く。
「えぇ、こんな可愛くて素直で優しい子が娘なんて私は幸せ者ね」
「娘……お、お義母さん?」
「お、俺もコハクちゃんが娘になってくれたならこれ以上の幸せはない!!」
先代魔王からロリコンの変態へと早変わりである。
「はぁはぁ、お義父さ、いや、パ、パパだよー」
息を荒くして膝立ち姿で「さー飛び込んでおいで」と言わんばかりに両手を広げる変態ロリコン先代魔王。流石のコハクも引き気味である。しかし心優しいコハクは飛び込むべきかと悩んでいる様だ。
ーー行かなくて良い
「なら、俺はお兄ちゃんといったところか」
コハクの肩に手を置き、コハクがあれに近づくのを防ぐ。
「お兄ちゃん!!」
お兄ちゃんという言葉に異常な反応を見せるコハク。その反応に皆が呆気に取られ、固まる。
「わ、わたしずっとお兄ちゃんに憧れていたんです!」
コハクは一人っ子で、しかも父子家庭だったか。そのため一人寂しい思いをする事も多かったのかもしれない。だからいつも一緒にいて守ってくれる、頼れる存在に憧れていたのだろう。
俺を見つめるコハクのその頰はほんのり赤く色づき、上目遣いの目はずっと欲しくて探し続けていたものをようやく見つけた時のようにキラキラと輝いていた。
それはまるで俺を欲しいと求めてくれているかのようで、あまりの嬉しさに口角が勝手に上がる。
「そうかぁ。コハクはお兄ちゃんが守ってやるからなぁ」
感情の昂りにつられるように、頭を撫でる手に少し力が入りすぎてしまい、せっかく整えた髪がくしゃりと乱れてしまった。それすらも嬉しそうに笑うコハク。
「ありがとう。ジーク、お兄ちゃん?」
そして、目線を外しポソりと呟くと、頬に両手を添えて「な、なんちゃって」なんて言って恥じらいをみせるコハク。
どこまでも可愛い!!
「ジークばかりずるいぞ!お、俺の事もお兄ちゃんと思ってくれて良いからな、ほら、お兄、いや、にぃにだぞー」
コハクを迎え入れるために両手を広げるクシェル。
ひどくデジャヴを感じる。やはり親子か。
「クシェルは婚約者でしょ?」
「グッ…じ、じゃぁ、にぃに兼婚約者ということで!」
「それ犯罪じゃない?」
「………」
フレイヤ様のその一言にクシェルは言葉を失った。
さて、コハクもクシェルとの仮の婚約の件を了承してくれたところで、早速書類にサインしてもらう。
「コハクちゃんはもうこっちの文字が書けるのか、すごいなぁ」
「いえ、まだまだです。複雑な言い回しとかあってなかなか覚えきらなくて」
コハクはこちらの世界の文字で自分の名前を書いている。丁寧で綺麗な字だ。少し角ばり気味なのは母国語の「カンジ」の影響らしい。
その後、昼食を摂ると、町による事なく魔王城へと帰った。馬車の中でコハクが寝てしまったため速度を落とし、魔王城に着く頃には夕食の準備がすでに出来ていた。
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