勇者でも渡り人でもないけど異世界でロリコン魔族に溺愛されてます

サイカ

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【サアニャ】まさか、この子は!

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 そもそも、わたしはメイドの職に就いたことがない。

 どこかの屋敷に支えていた経験も無ければ、そんな教育も受けたことがない。つまり、メイドの心得とか貴族社会の何たるかとか全然全くサッパリなのだ。

 実家は魔道具の製作を生業としている普通よりは少し裕福かな?くらいの平民で、わたしもその手伝いをしていた。

 そんなある日、わたしがイダル叔父さんの姪で、種族の違いにより生じる嫌悪感や固定観念を持ち合わせていない、また、異世界人への理解も深いという理由で、城に保護されたコハク・シイナという異世界人付きのメイドとして白羽の矢が立った。

 正直、自分にメイド業が務まるとは思えない。

 しかし、その話が来る前から叔父からその異世界人の話を聞いていて、興味があったこともあり、わたしは二つ返事でその申し出を受けた。


 事前に聞いていた事もあり、一目見てすぐにその子の置かれている状況を理解する事が出来た。

 ーー可哀想な子

 確かに、その子はイダル叔父さんから聞いていた通りの、謙虚で優しい良い子だった。あの魔王に気に入られているのも納得だ。わたしもすぐにその子のことが好きになった。


 しかし、謙虚過ぎるのも考えものだ。

 その子は、護衛の二人に侮辱されても反論すらしない。言われるがままを受け入れる。そんなんだから周りがつけ上がるんだ。

 ーー腹が立つ

 異世界人だからという理由だけで蔑むその目も、発言も。弱い人間だからどうせ反抗できないだろうと平気で人を否定し踏み躙るその態度に腹が立った。

 だが一介のメイド如きが、近衛騎士に反論なんて出来るはずがないーー本来なら。

 しかし、わたしが任された任務は本来のソレではない。身の回りのお世話をするのは勿論だが、それよりもこの子の心身を守る事、この子にとってより良い環境を整えることを重要視している。そのためなら、多少の自由が許され、身の安全が保障されている。

 だから、つい気が緩んでしまった。

「本当、浅はか」

 この子が弱くても、そのバックに誰が居るか、そもそも何故この子がここまでの自由が許されているか、考えなくても分かる。それに魔王の両親に挨拶に向かい無事に帰ってきたという事実。それだけで、この子が魔王だけでなく、その両親にも気に入られたのだと容易に想像できる。と思うのだがーー馬鹿なのかな?

 二人の発言をフレイヤ様に報告すると、信じられない者でも見るような目でわたしを見てくる二人。やっぱり馬鹿なのかもしれない。何故、報告されないと思っていたのだろう?確かにあの二人には(この子に口止めされていたから)言わなかったけどーー

 自分の発言にくらい責任を持てよ。

 きっとわたしにメイドは向いていない。

 だってムカつくことはムカつくし、種族とか立場とか知ったことか!人として言って良いことと悪いことがあるだろ!分かれよ!

 魔王もそうだ。自分の都合ばかりこの子に押し付けて、基本的な情報すら与えていない。都合の悪いことには蓋をして、囲い込むことばかり考えて、この子の幸せを考えていない。

 だから、いつもこの子ばかり損をする。

 今回もそうだ。魔王がちゃんと主要貴族の名前くらい教えていればこの子がこんな罵倒を受けることはなかったんだ。

「この、ブロンディ侯爵家長女であるモリアーナ・ブロンディをご存じないなんて無知にも程があるんでなくて?それとも人族はおつむも弱いのかしら」



 こちらは魔王の婚約者といえ人族、それと近衛騎士とはいえ平民。それに対してあちらは侯爵令嬢、あの場で追い払えるような相手ではないし、逃げたとしても後々立場を悪くする。
 ならば、誰に見聞きされるかわからない廊下で有る事無い事言われるよりは、と部屋で話を聞くように促した。

 そして、いくつか設けられている休憩室のうち一番近くの部屋に入ると、侯爵令嬢はシイナ様より先にソファに腰を下ろし、シイナ様が座るのを待つ事もなくーー

「婚約を解消しなさい」

 そう宣った。

「……出来ません」

 当たり前だ。コレは仮初だとしても、既に正式な書面が交わされていて、ついさっき婚約を発表したばかりなのだ。しかも、王族の皆がそれを祝福、というかあわよくばこのまま本当の婚約者にそして結婚してくれないかと思っている。

 それを人族であるシイナ様の一声でどうにかなる問題じゃないーー本来なら。

 それすらも分からない侯爵令嬢は『自分に逆らうつもりか』と怒り、『自分が誰だか知っての発言か』とシイナ様を責め、それにシイナ様が「知りません」と答えると、『そんな事も知らないのか、人族は身体も脆弱なら頭も弱いのか』と嘲笑う。

 頭が悪いのはそっちでは?

 魔王の婚約者に名前が知られていないということは、自分が魔王に重要視されてない、取るに足らない人間だと思われているという事だし、頭の良し悪しに種族は関係ないだろ。

「み、身の程を知りなさい!この貧弱種族の欠落品が!繁殖しか能の無い醜い野蛮種族がこの神に最も愛されし魔族に対してさっきからその態度はなんなの⁈」

 ーーはぁ、コレだから魔族は嫌いだ。

『生まれながらに力を手にした者らは他人の痛みを理解できない、しようともしない』

 昔聞いた言葉が思い出される。

 世界に産み落とされた順番がどうとか、魔力量がどうとか、そんな事でどちらがより神から愛された種族かなど判断できるものでもないだろうに、確証もない思い込みでマウントを取って来る。
 そして平気で他者を見下し、優越感に浸る。相手の痛みも考えずーー

 しかし、この世界の人族の事などよく知らないシイナ様にそのマウントは効かず、優越感に浸れなかった侯爵令嬢は名前を侮辱するという直接的かつ最低な手段に出た。

 流石のシイナ様もそれには怒りを見せる。

 それに味を占めた侯爵令嬢はその名前を付けた親をも馬鹿にし、シイナ様の容姿を蔑み、罵る。

 シイナ様の名前と瞳を侮辱することが、どういうことかも知らないでーー

 コハク……琥珀、そしてこの国の名前とそれに込められた願い。

 まぁ、魔王さえも気付いていないんだから、無理もない話だが……。


「私は選ばれし者なの。侯爵家でこの容姿、この国に私以上に次期王妃に相応しい者はいないの、分かる?」

 そして、いかに自分がより優れた存在か語る。

 分かっていないのはそっちだろ。

 恵まれた家や容姿に驕り高ぶって、自分のことばかりで人を想う心も謙虚さも無い。高圧的で我儘で思い込みが激しくて、行動の全てに気品のカケラも感じられない。そんな奴王妃に相応しいはずがない。国の未来を託せるはずがない。

「あなたに、クシェル様を幸せに出来るとは思えない」

 シイナ様の中では王妃に相応しい者イコール魔王を幸せに出来る者なんだね。人を想うこの子らしい優しい答えだ。

 そう胸が温かくなったのも束の間。

「はぁあ?貴女馬鹿?この国で一番美しい私があんな出来損ないの妃になってやろうというのよ、それだけでこの上無い幸せじゃない!本来ならあちらから頭を下げてお願いすべきなの。そして、私を妃に迎えられた事に一生感謝し続け、私の為に尽くすべきなの!」

 また、あの女の発言でイライラさせられる。

 馬鹿はあんただろ!

「それなのにあれは……まったく、類は友を呼ぶとはよく言ったものね、醜い者同士気が合うのかしら」

 ここまで来ると怒り、呆れを通り越して感心すら覚える。

 この女、魔王のことを出来損ないと揶揄したかと思ったら次はあれ呼ばわり、からの醜い者発言。しかも声を抑える事もなく大きな声で高らかと!

 外を誰が通るとも分からないのにーー不敬罪確定おめでとう!

 ま、部屋に入った時から防音魔法をかけてるから外に声は漏れていないんだけど。でも令嬢はそれを知らないから、誰に聞かれても問題ないと思ってるって事だよね。それか、ただの馬鹿か。

「……何様のつもりだ」

 心の中で死罪確定令嬢に拍手を送っていたら、地を這うような低く重い声が聞こえた。

 ーーえ?し、シイナ様?

 一瞬誰の声か分からなかった。それほど、普段のとは似ても似つかない、明らかに殺意が込められた声……。
 その殺意が自分に向けられたものではないと知っていても、耐えられない。目の前のこの子が怖くて仕方ない。恐怖で体が震えて声も出ない。

「何よその目……気持ち悪い、悍ましい!その目で私を見るな!」

 しかし、令嬢が恐怖したのはシイナ様の目。

 ーー目⁈まさか、この子は!

 女は扇子をシイナ様の目めがけて思いっきり投げ付けた。

 殺意に当てられ、反応が遅れた。シイナ様を守れなーーっ!

 しかしそれはシイナ様の目の前で何かに弾かれ、その辺の床に転げる。

「何よ……今の」

 今のはあのブレスレットの力ではない。何故ならあれはシイナ様又は魔道具そのものに触れようとした者に電撃を浴びせ、風魔法で弾き飛ばすものだからだ。今のは明らかに魔道具のそれとは違う。

 シイナ様が自らの意思で魔法を使った?いや、そんなはずはない!何故なら魔力を持っていない、つまり、そもそも魔法を扱うための身体が備わっていないシイナ様に(魔道具なしに)魔法が扱えるはずがないんだ。

 嫌な、とても嫌な予感がする!早くこの子を止めないとーー

「な、何よコレ!嫌、いやぁあああ゛あ゛ーー!!」
「見てはだめ!!」

 遅かった。間に合わなかった。この子を守れなかった。この子に、一生消えない心の傷を負わせてしまった。

 急いでシイナ様の怒りを鎮めようとしたが時既に遅く、わたしが動いた時には黒い闇が令嬢を襲い始めていた。

 せめて最悪な光景だけは見せないようにと、迷わずシイナ様を床に押し倒し、自分の身体全てでシイナ様の視界を覆い隠した。

「で、でも助けないと!」
「大丈夫です。もう収まりました」

 わたしがシイナ様を押し倒した頃にはあの闇は既に消えていた。つまり、シイナ様から怒りの感情が霧散すると同時にあの闇もチリとなり消え失せた。

 それが意味するものはーー

「でも……っ!もしかして、アレを出したのは……」
「違います!あれはシイナ様のせいではありません!」
「嘘!だってわたしがあんなこと思ったから、思った瞬間に現れたんだよ!絶対わたしのせいだ!」

 流石に隠せない。状況を見れば誰もが同じ判断をするだろう。

「それでも!それでも、あれはあなたが背負うべき罪じゃ無い!あなたは悪くない!悪いのはそこまであなたを追い詰めたあの女と、こんな力を与えたあの馬鹿だ!」

 そして、シイナ様の心を守れず、またこのような事態を予想出来なかったわたしの落ち度だ。



「「コハク!」」
「一体何がっ!」

 その後、数分もしないうちにいつもの面々が雪崩れるように部屋に入って来る。恐らく護衛の二人があの惨劇の中、部屋を飛び出し魔王達を呼びに行ってくれたのだろう。

「っ!ごめんなさいわたしのせいで!ごめんなさいわた、わたしがあんなことっ、ごめっ、なさい、ご、ごめん、なさーー」
「コハクちゃん!!」

 わたしの腕の中で力なく泣いていたシイナ様は魔王達の声が聞こえた途端、急に何かに怯えたように謝罪を繰り返し始めーー過呼吸を起こす。それにいち早く気付いたフレイヤ様は急いでこちらに駆け寄り、シイナ様を眠らせた。



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