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その目でわたしを見ないで!!

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「お前となんかもう友達でもなんでもない!二度と俺に近づくな」
「あんたと、友達なんてなるんじゃなかった」
「君のことを友達だと思ったことはない!馴れ馴れしくしないでくれ」

 そう言って、いつも皆んなわたしから離れて行く。

「何で?どうして?わたし何かした?わたしの何がいけなかったの?教えて直すから!」

 でも、何度問いかけても明確な答えは返ってこない。

 暗い暗い真っ暗闇の中わたしは皆んなが居る光の方へと手を伸ばす。しかし、その手を取る者は誰もいない。そんな哀れなわたしに同情する者すらいない。


 あぁ、またあの目だ。怒りと憎しみに満ちた、わたしを否定し拒絶する目ーー

「お前のせいだ」
「あんたのせいよ」
「君のせいだ」

 そう言って皆んなが一斉に指を指す。

「ご、ごめんなさい」

 傷つけて、悲しませて

「ごめんなさい」

 自分の何がいけなかったのかも分からなくて

「ごめんなさい」

 わたしなんかが友達になって

「ごめんなさい」

 何度も失敗してるくせに、友達が欲しいと思って

「ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんっ!」

 自分の犯した罪も分からず、ただただ謝罪の言葉を繰り返すことしか出来ないわたしに、皆んな背を向け遠ざかって行く。

「待って、置いていかないで!謝るから、駄目な所があったら直すから!今度こそ、絶対に失敗しないから!だからもう一度だけチャンスをっ!!」

 去って行く皆んなを引き留めたいのに身体が重く、思うように動かせない。まるで、何かに纏わりつかれているかのようにーー

「っ嫌ぁああーー!!」

 視線を下に向けると、全身黒いモヤに包まれ、髪がまだらに抜け落ち、顔が原形が分からないほど歪められた女の人がしがみついていた。

 あまりの恐怖にその手を払い除け、逃げようともがくが、女に肩を掴まれ地面に押さえつけられる。

「嫌だ!離して!離してーー!!」

 いくら暴れてもいくら叫んでも女はわたしの上から退けてはくれず、女のドロリと濁った青い目がわたしを見下ろしている。

 そして力尽き、わたしが抵抗を止めるとーー女は口を開く。

『絶対に許さないから』

「っっあああぁああ゛ーーー!!」


 その声は目の前の女のものか、それとも友達だったはずのあの子のものかーー


「コハク!」
「コハクちゃん!」

 目を開けるとわたしはベッドに横になっていて、多くの目がわたしのことを見下ろしていた。

「あ、ああ……見ないで……その目でわたしを見ないで!!」

『絶対に許さないから』

「ご、めん、なさい、ごめん、なさい、ごめんなさい」
「落ち着いてコハクちゃん!大丈夫、誰もあなたを責めてなんかいないわ」

 赤い目の、大人の女の人がそう言って、わたしを抱きしめてくれる。

 ーー責めてない?本当に?許してくれる?

「コハクちゃん、あれは夢だ。全部悪い夢だよ」
「……夢?」

 あの女とは違う澄んだ青い目が優しく細められる。

「そうだよ。よく見て、俺が誰だかわかるかい?俺はコハクちゃんを責めてる?怒ってる?」
「……シェーン、ハイト様。お、怒ってない、です。でも、泣いてる……ごめんなさい、わたし」
「大丈夫。これはコハクちゃんの目が覚めて、生きててくれて嬉しい涙だから」

 シェーンハイト様はそう言って笑うと優しく頭を撫でてくれた。


 シェーンハイト様の言葉で、完全に夢から覚めたわたしは冷静に物事を考えられるようになり、改めてさっきの夢のことを考える。

 確かにあれは夢だ。かつて友達だったはずの人達はこの世界には居ないし、もう二度と会うこともない。そして、あの女の人の惨状も実際に目の当たりにしたわけではないし、あの女の人に『許さない』と言われたわけでもない。

 先程見た映像はわたしが作り出した虚像だ。

 しかし、全て覚えている。皆んなの言葉も、女の人のあの目も、叫び声も、頭にこびり付いて剥がれない。

 ーー全てが現実だ。

 その内容は嘘偽り無く実際にわたしが経験したもの、わたしの罪、わたしが背負うべき業だ。目を背けて良いものではない。

「少し、一人にしてくれませんか?」
「コハク……だ、だが」

 クシェル様の声が不安に震える。しかし、今のわたしにそれに応える気力もなければ、他人に気をつかえる余裕もない。

「すみません、今は誰の顔も見たくないんです」
「っ……し、しかし」
「……………」
「分かった。時間を改める……だが、どうか自分を責めないでやってくれ、アレはコハクの責任では無い」

 いつもわたしに甘いジークお兄ちゃんはそう言って、俯くわたしの頭をひと撫でするとクシェル様の背中を押す。

「ほら、行くぞクシェル」
「あ、あぁ……コハク、な、何かあったら呼んでくれ!すぐ、すぐに駆け付けるから!今度こそ」
「……すみません、クシェル様」

 扉の前で振り返り、そう涙を浮かべながら叫ぶクシェル様にわたしは頭を下げることしか出来なかった。

 表情を作る余裕もない。

「コハクちゃんは怒って当然のことをされたんだ、コハクちゃんは何も悪くないんだからね。間違っても自分が全て悪いなんて考えてはいけないよ」

 シェーンハイト様もそう言い残し部屋から出て行く。そして最後に、フレイヤ様もーー

「あの娘はちゃんと無事だから安心して、だから……あまり思い詰めないでね」

 と慰めの言葉を置いて、出て行った。



 みんなが居なくなってシンと静まり返る部屋で一人、わたしはベッドの上で膝を抱えて蹲る。

 ーーそんなわけない!何も悪くないわけない!わたしは人を傷付けた!自分の意思で、その場の、いっときの感情で!どんな理由があろうと、許されるはずがない。いや、許されるべきではない。

 みんながわたしを許しても、わたしは自分を許せない。あの人は絶対にわたしを許さない。

「こんな人間、嫌われて当然だ」

 わたしは身勝手な理由で人を傷付けるような最低な人間だった。こんな奴と友達でいたいと思うような人、こんな奴を好きになってくれる人、居るわけがない。

 最初は皆んな仲良くしてくれたんだ。でも、なぜか皆んな最後には居なくなるーーきっと、気付いてたんだ。わたしがこういう人間だってこと、だから離れていった。

 皆んな皆んな皆んなーーそしてきっとそれはここの人達も例外ではない。

 今は良くてもみんな、最後にはきっとーー




「ハルちゃんの言う通りだったよ。こんな事なら初めから……」


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