勇者でも渡り人でもないけど異世界でロリコン魔族に溺愛されてます

サイカ

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【サアニャ】普通じゃない

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 人を傷つけたことを反省し、後悔するにしても限度がある。優しい子だから……本当にそれだけだろうか。

 いや、優しい良い子なのは間違いでは無い、のだがーー

 『謙虚で優しい』その言葉だけでは片付けられない何かを抱えているように思えてならない。

「確かに、普段から謝罪とお礼の言葉の頻度は多いです。でも、シイナ様のもといた世界がそういう環境だったとしても、あれは普通ではないです」

 あの事件後シイナ様は翌朝には無事目を覚ました。やはり相当大きなショックを受けたようで『少し一人にさせて欲しい』と部屋に篭ってしまった。が、問題はそこではない。



 数時間後には部屋から顔を出したシイナ様は

「あの人にまだちゃんと謝っていなかったから、謝りたい」

 とだけ言うと、その後は無言で淡々とこちら(着替えや長い待機時間、面会方法など)の指示に従い、いざ牢の中に居るあの女を前にするといきなりーー

「わたしのせいで痛い思いを苦しくて怖い思いをさせてしまって、すみませんでした」

 と膝を折り、頭を地面に付けたのだ。

「な、何してるんだ⁈」
「コハクちゃんやめて!」
「君がそんな事しなくていい!今すぐやめなさい!」
「コハクやめてくれ、お願いだ」

 当然みんなそれを止めさせようとする。しかし、シイナ様はその姿勢を崩す事なくもう一度女の目を見ると、再び頭を地面に擦り付けた。

「謝って済む事じゃないって分かってます。でも、今のわたしには謝ることしかできないからっ……ごめんなさい、本当にごめんなさい。どんな理由があっても、わたしがあなたを傷付けた事に変わりはない……いや、あんな事を思った事自体に問題がある。わたしの勝手な価値観であなたを憎んで否定して『あなたも醜く目も当てられないような姿になれば……侮辱される悲しさを、存在を否定される辛さを思い知ればいい』と最低なことを思って、すみませんでした」

 シイナ様の口から告げられた真実、わたしが見聞きしたやり取りからだけでは分からないシイナ様のその時の心情に、みんなが息を呑み、涙を流した。

 しかしここまでしても尚、シイナ様の思いはあの令嬢には伝わっていない。断言できる。

 何故なら『このままにしておいたらコハクちゃんが余計苦しむでしょ!』という理由だけでフレイヤ様直々に歪んだ顔を治してもらい、手錠、首輪、足枷など有りとあらゆる拘束具を付けられ、裸同然の格好をさせられていたのを『コハクにこんなの見せられるわけないだろ!』というグランツ様の一言で簡素だが清潔感のある服を着せてもらえ、拘束具も手錠と(自殺又シイナ様への暴言防止のため)猿轡だけにしてもらえたにも関わらず、シイナ様の姿が見えた途端、この馬鹿は思いっきり睨み付けたのだ。

 そして、シイナ様が頭を地面に付けている時でさえ、一瞬驚きはしたもののすぐにその顔を憎しみに歪めていた。

 馬鹿はどこまで行っても馬鹿、という事だ。

 その後もシイナ様は頭を地面に付け続け謝罪を繰り返した。数分後その状況に耐えかねた先代が「詳しい聴取がまだなんだ、だから……」と説得力に欠ける言い訳を述べるまで。



「俺もそこは気になっていた。一度聞いたことがある。何故そこまで自分を卑下するのかと……そしたら、コハクは自分には何も無い、それが事実だから、と言ったんだ。それは自分が周りより劣り、蔑まれて当然の存在だと認めたも同然で……」

 グランツ様のその言葉を聞いて、疑念が確信へと変わっていく。

 シイナ様は心に大きな傷、トラウマを抱えている。もう、そうとしか考えられない。

 人の迷惑にならないようにと、いつも人の顔色を窺って、自分に自信がなくて、それなのにどこか達観している。その姿はまるで昔のーー

「小さい頃のクシェルみたいね」

 フレイヤ様のその発言に誰もが息を呑む。 だってそれは、そう見えたとしたら、魔王と同じ境遇で育ったと見て取れるということでーー

「そんなはずはない!コハクは言った。親も友達も夢もあって、自分を不幸だと思ったことがないと」

 魔王は『だから、俺と同じであるはずがない!』と叫ぶ。

「しかし、我々もお前を愛しているし、心を許せる親友、ジークもいるだろう?」

 それでも魔王はお世辞にも幸福な人生を送っているとはいえない。その他の人達には蔑まれ、存在を否定され続ける人生だ。

 つまりはシイナ様もそうである可能性は大いにあるということでーー

「しかしあんなに良い子が何故……」

 そう呟きながら先代はシイナ様が篭っている部屋の方を見やる。

「あちらの世界では、容姿や種族の違いで人を蔑むのは『悪いこと』のはずだろう?」

 あちらの世界は、この世界とは違い髪や瞳の色の違い、種族の違い等で蔑まれる事を当たり前としない世界のはずで、またシイナ様に性格上の欠点があるとは見受けられない。

 なのに、当の本人は自分が周りより劣り、蔑まれて当然の存在だと認識している。

 誰もがその謎に頭を抱える。


 あの日から五日、シイナ様は未だ引きこもったままだ。部屋から出ず誰とも会おうとしない。

 人を傷つけた事を後悔し、悔やむにしても限度がある。はっきり言って普通じゃない。

 まるで人と関わる事そのものを恐れているかのように見える。


 ちなみにあの馬鹿令嬢は当然、あの後魔王達に容赦なく痛めつけられた。そして、フレイヤ様が回復させて、また痛めつけて治して、痛めつけてを精神が壊れるまで、いや、壊れてもなお、何度も何度も繰り返され、見るも無残な状態で家に帰された。そして、当然ブロンディ侯爵家の取り潰しが命じられた。

「殺さないんですね」
「んー、その方が返って見せしめになるってあの人が言うから」

 確かにあのまま殺してしまうより、一旦家に帰し、あの令嬢の狂いようを見せた方が世間の恐怖を煽れるだろうし。

「まぁ、最終的にはあの娘が狂って家に火を付け、家族共々焼身自殺したって筋書きにするつもりだけどね」
「……結局は殺すんですね」
「ん?愛しい我が子と大好きなコハクちゃんをあれだけ侮辱されたのよ?あんなのが未だこの世に存在しているってだけで吐き気がするわ。殺さないなんて選択肢あるわけないじゃない」
「……ですよね。分かってました」
「今日も本当は顔も見たくなかったんだけど、あの子達がただ殺すだけじゃ気が済まないって言うから仕方なく……ハァ、ああいうの皆んなこの世から居なくなればいいのに」

 フレイヤ様はそう言って大きいため息をはいた。

「本当、コハクちゃんって優し過ぎるわよね。嫌なことされて、相手も同じ目にあえば良いって思うのなんて普通じゃない?ようは相手に自分の気持ちを分かって欲しいってことでしょ?寧ろ健気で可愛いわよね?」
「そうですね。自分と同じ痛みで気が済むなんて心が広い……わたしなら同じ痛みを与えても、何度謝らせても、相手が死んでも気が済む気がしません」

 何をしても、侮辱された事実は消えないのだからーー

「でしょう?」
「わたしたちに比べたらシイナ様のなんて、全然可愛い方ですよ!」

 寧ろあの令嬢は、あの程度で済ませてくれたことを有り難く思うべきだ。そして、あの令嬢の方こそ、シイナ様の心の広さに感謝し、地に頭を擦り付けて涙を流すべきだ。


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