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どうしてそう断言出来るんですか?
しおりを挟む「皆んなわたしのせいだって言うんです。お父さんと友達のハルちゃん以外の皆んな」
わたしはクシェル様に横抱きにされたままポツポツと自分の過去を語り始めた。
生まれた時から母親が居なくて、お父さんもわたしを一人で育てるために夜遅くまで働いて、一人の時間が長かった。正直、寂しかった。
でもお父さんの帰りが遅いのはわたしのために頑張ってくれているからだって分かっていたし、学校の行事には必ず顔を出してくれたし、休日は必ずわたしと過ごしてくれた。全てわたしのために時間を使い、言葉で態度で全てで、不安を感じる隙もないくらいわたしを愛してくれた。
それに、出会った時、小学生の時からずっと一緒に遊んでくれるハルちゃんも居たし。だから、本当に自分のことを不幸だと感じたことはないのだ。
ただ、それ以外は何故かいつも上手くいかなかった。
「皆んなはじめはとても優しいのに何故かいつもお前のせいだ。お前となんか関わらなければ良かったって言って離れて行くんです。でもわたしには分からない、自分のどこがいけなかったのか、自分の何がそんなにも人を傷つけてしまっているのか」
『わたしはどうしたら良いの?わたしはどこを直したら良いの?』そう聞いても皆んな目を背け、答えをくれない。
「でも、ハルちゃんは『コハクちゃんは何も悪くない』って言うんです。わたしに悪いとこなんて一つもないって……そんなわけないのに」
こんなにも人を傷つけてる。何度も何度も何度も「お前のせいだ」「友達にならなければよかった」と怒鳴られ、泣かれ、嫌われているのに、わたしに悪いとこがないわけがない。人に嫌われる人間に悪い所がないわけがない。
「変わりたい。でもどう変われば良いのか分からない。どうしても何をしても最後は結局……そんな事が何度も続いて」
『コハクちゃんは変わらなくていいよ』
『でも、それじゃあまた誰かを……』
『じゃあ初めから関わらなければ良いんだよ』
『え?』
『誰かを傷付けてしまうのが怖いなら、嫌われるのが怖いなら初めから他人と関わりなんて持たなければ良いんだよ!』
「そうか、初めから誰かと関わろうなんてしなければ……て、でも」
『でもそれだとずっと一人だよ?一人は、寂しいよ』
『大丈夫、僕がいる。僕はコハクちゃんといても傷付かないしコハクちゃんを傷付けないよ。だから一人じゃないよ』
「でも、やっぱりそれは寂しいよ、悲しいよ。諦めたくない。諦めきれない。だから、次こそは!て、大学ではって思ってたのに……」
それももう出来なくてーー
「コハクは何もっ……そ、そんなの絶対、周りの奴らが……いや、でも」
クシェル様のわたしを抱く腕が震えている。
「クシェル様は優しいですね」
わたしがその言葉を否定したから、『そんなはずない』と拒絶したから、その言葉を必死で飲み込んでくれている。
わたしなんかのために涙を流してくれている。
「そ、そんな違う、俺は、俺のは全然……コハクの方が」
「わたしのは優しさなんかじゃない」
そう努めているだけで、相手のことを考えて、寄り添っているように見せてその実、その背後には『人の傷つく顔を見たくない』『嫌われたくない』『一人になりたくない』という打算がある。
それに比べ、クシェル様は出会ったばかりの、助けても何の徳もないわたしなんかを快く城に招き入れ、色々と面倒を見てくれた。わたしを守るために、仮初の婚約まで結んでくれて、今もこうして、わたしのために泣いて、心を痛めてくれている。
「だから、もういいんです」
「も、もういいって……」
もうわたしなんかのために心を痛めてほしくなくて、泣いてほしくなくて、クシェル様の涙を拭う。
「今回の件で分かりました。わたしがどうして、皆んなから嫌われるのか。どうして皆んなわたしから離れていくのか……」
皆んな気付いただけだ。本当のわたしに、わたしの醜い本性に。だから離れて行った。ただそれだけだ。
「本当のわたしはこんなにも欲深く自分勝手で、簡単に人に悪意を向けるような最低で醜い人間だった。でも、それでも、沢山の人を傷つけても尚、望んでしまう。もしかしたらこの人ならと、手を伸ばしてしまう!縋りたくなってしまう!」
目の前の温もりに縋りついて泣きじゃくって胸の中に溜め込んだもの全てを吐き出したくなってしまう。
ーー本当に浅ましく、自分勝手で救いようがない。
「それの何がいけない!」
クシェル様に握られている手を引き抜こうとしたら、更に強く握りしめられてしまう。
「っ、だ、だって」
そんなの許されるはずがない。今まで散々自覚も無しに多くの人を傷つけ、苦しめてきたくせに自分は救われたいと、人に必要とされたいと思うなんて許されるはずがないんだ。
「寂しいと、人に必要とされたいと思って何が悪い!人に嫌われたくない、愛されたいと望んで何が悪い!それを諦めたくないと足掻いて、目の前にある希望に手を伸ばして何が悪い!そんなのは罪じゃない!」
クシェル様に握られた手が痛い。でも今はそれ以上に胸が痛い。心が痛い。ずっとずっと痛かった。
「でも、また傷付けるかも……」
「俺はコハクになら傷付けられても構わない」
そう言って、握っている手を引かれ、抱き止められる。
「それにもしまたコハクが誰かを傷つけてしまいそうになったら、その時は必ず俺が止める、だから大丈夫。次は絶対に無い」
「っ……で、でも一度や二度は耐えられてもそれが続いたら、クシェル様も、皆んなみたいに」
「離れない!」
「そんなの、分からないじゃ無いですか!今のわたしなら許せても、本当のわたしはもっと我儘であの日のような事を平気で出来る最低な人間かもしれないのに!」
望んでいた言葉のはずなのに、それをあまりにも簡単に、当たり前のように言うものだから、今までの自分の苦労を軽く扱われたみたいで、苛立つ。
心の底では、クシェル様はそんな人じゃ無いとわかっているはずなのにーー
「それでも!もしコハクが今と変わってしまって、人を平気で傷付けるような人間になったとしても、絶対に見捨てない。離れない、嫌いにならない!どんなコハクでも俺は変わらず好きでい続ける自信がある!」
「……どうしてそう断言出来るんですか?」
今まで、人に嫌われないようにと努めて来たわたしには、自分でさえも本当の自分が分からない。なのに、なんでどんなわたしでも変わらず好きでいれるなんて言えるの?
「コハクが俺を救ってくれたから」
「……救った?わたしが?」
「コハクにとってあれらが何ら特別なことでなくても、コハクにはそんなつもりはなくても、その言葉と行動の裏に違う思惑があったとしても『コハクに救われた』という事実は変わらない。もし、コハクが今までの、俺の知るコハクでなくなってしまったとしても、あの時の気持ちは無くならない。今のこの気持ちは変わらない!絶対に!」
そう宣言するクシェル様の目はどこまでも澄んでいて、わたしを抱き止める腕は力強くて、クシェル様の胸の中は温かくて、何より、わたしの手を握るクシェル様の手が熱くて、クシェル様の全てでわたしを離さないと言ってくれているみたいでーー
「信じて、いいの?」
「信じてくれ」
「望んでいいの?」
「俺はコハクのことが大好きだよ」
「離れない?嫌いにならない?」
「離れないし、離さない。絶対に嫌いにならない」
「ずっとそばに居てくれる?」
「勿論、ずっとそばに居る」
「本当に?ずっと、ずーっとだよ?」
「あぁ、ずっとずーっと、一生そばに居る。だからもう泣かないで、ね?笑ってくれ」
そう言ってわたしの頬を撫でるクシェル様の手は温かくて優しくて、嬉しくて、わたしは目の前の温もりに縋りつき泣いた。
全然違う。皆んなはこんなに優しい目でわたしを見てくれなかった。こんなに愛おしそうに頬を撫でてくれなかった。こんなにしっかりと抱き寄せてはくれなかった。クシェル様は皆んなとは違う。
クシェル様の腕の中は、とても安心出来る。
「ありがとう。わたしも、クシェル様のこと大好き、です」
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