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その理由は

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 んー?なんか、おかしくない?

 また一日以上馬車に揺られ、やっと王城に到着したんだけど、そこでのわたしへの対応がおかしい。

 港での事もあり、また『人族』だからと蔑まれるんだろうなと憂鬱な気持ちで城の門をくぐったのだが、予想に反して出迎えてくれた執事さんはわたしを見た途端満面の笑みを浮かべた。
 そしてそのまま「長旅でお疲れでしょう準備が整うまでこちらでお寛ぎ下さい」と控えの間に案内し、お茶まで出してくれた。

 あれ普通にもてなされてる。港でのアレはわたしの勘違い?アレは物珍しく思われてただけだったのかな?

 わたしは人の目を恐れるあまり、少し物事をネガティブに捉えてしまう癖がついてしまっているのかもしれないーーそれは良くない。それは相手を信じられていない証拠だし、相手に失礼だ。と自分の考え方や捉え方について一人で反省していると、豪華なお菓子が運ばれて来た。


「お代わりもありますから、遠慮なく召し上がってくださいね」

 んー?なんか、おかしくない?

 わたしへの対応が他と違い過ぎる!魔王であるクシェル様よりも歓迎されている気さえする、てか、そうとしか思えない!

 クシェル様の前には皿に乗せられた一切れのケーキ。対してわたしの前にはよくテレビとかで見る様々なお菓子が飾られたタワー。
 そして、扉の影からコソコソと覗く人達、そちらを見れば上がる黄色い声。

「まぁなんと美しい瞳でしょう」
「今私と目が合いましたわ!」
「なに言ってるの、私を見てくださったのよ!」

 手を振ってくれる人が居たから振り返したら更に大きな歓声が上がった。

「キャー可愛い!」
「可愛らしい上にお優しい!手を振ったら振り返えしてくださったわ!」
「わ、私にも!」

 なんかアイドルにでもなった気分だ。

「お茶のおかわりはいかがですか?」
「あ、ありがとうございます」
「そ、そんな御言葉をいただけるなんて、有り難き幸せに御座います」

 そして、お茶のお代わりを注いでくれたメイドさんにお礼を言えば、逆にお礼を言われて拝まれた。

「え?」

 わたしはただの異世界の人族で、そんな有り難がられるような人間ではない、と思うんだけど?

「ま、またこちらを見てくださったわ!」
「可愛い!こちらを見て小首を傾げて、ハァ~母性が、母性がヤバいですわ!」
「静かになさい!怖がってしまいますでしょ」

 ハハーン、なるほどなるほど。わたしが子供だってみんな勘違いしてるんだ。そしておそらく、この国の人達は重度の子供好き、つまりロリコンということですね!うんうん、それならこの扱いの差にも納得です。
 わたしこれでももう18歳なんだけど……チビでぽっちゃりの子供体型に加え童顔なわたしは、もはや幼い子供にしか見えないらしいーー

 なんかこの世界、ロリコンの人が多い気がするんだけど……気のせい?

 そうこうしていると、ここまで案内してくれた執事さんが準備が整ったからとわたしたちを呼びにきた。



「わあ~綺麗」

 執事さんに案内されて、部屋を移動している途中大きな窓から見事な薔薇の庭園が見えて思わず立ち止まる。

「お気に召していただけて光栄です。あの花は我国を代表する花で、愛の告白をする際に贈る花として有名なんですよ」
「おお~」

 一緒だ。もしかして、それも過去に異世界人が広めた文化の一つなのかな?

「あれ?」

 今真っ赤な薔薇の庭園に中に何か白いものが見えた?

 白いそれが気になり、より注意深く観察すると急にそれが動いた。

「綺麗……」

 それは何かの生き物だったらしく、透き通った湖や澄んだ氷を思わせるシルバーブルーの二つの瞳と目が合った。

 目が合った瞬間それの尻尾がピンと立つ。

 あ、あの特徴的な尻尾はーー

「コハク」
「ヒャい!」

 いつまでも窓の外を眺め中々前に進もうとしなかったから怒ったのか、少し苛立ちを含んだ声でクシェル様に名前を呼ばれ、腰を引き寄せられた。

「早く話を済ませて、一刻も早く城に帰るぞ」
「え?は、はい」

 そう宣言するクシェル様の眉間には『不機嫌です!』と言わんばかりの深い皺が寄っていた。

 も、もしかしてわたしとの扱いの差に怒……それはないか、クシェル様も同じくロリコンなんだから。なら、控えの間をメイドさん達が覗いてたのがマナーが悪いと怒った?それとも、わたしが何かやらかした?


 その理由はこの後すぐに分かった。

「おおーなんと美しい……よくぞ我が元へ参った。歓迎しよう渡り人よ」

 謁見の間に入るや否や聞こえた王様らしき男の声によってーーわたしがクシェル様以上に歓迎されていた理由も、クシェル様がこの国へわたしを連れて来るか悩んでいた理由も全てそれが原因だった。

「……渡り、人?」

 部屋の奥に置かれたやたら豪勢な椅子に座る(おそらく王様であろう)その人は今、わたしを見てはっきりとそう言った。

「ッチ……やはりそれが目的か」
「それ?」

 クシェル様は感情を隠す気がないのか、眉を顰め大きく舌を打った。

「さぁもっと近くでその顔をよく見せよ」

 王様らしき人はクシェル様のその態度を気に留めた様子もなくわたしに目線向けたままで、上機嫌に言葉を続ける。

「…………」
「どうした我の命令が聞けぬと申すか」
「そんな威圧してはいけませんわ。渡り人様は戸惑っていらっしゃるのよ、お互い紹介もまだですし我々を警戒するのも仕方のないことですわ」

 隣の奥さんらしき人もわたしのことを『渡り人』と呼んだ。

「おうそうであった。渡り人は魔族に監禁され誑かされていたのであったな、我のことを知らずとも無理はない」

 渡り人、監禁、誑か……⁈何かとんでもない思い違いをされている気がする!

 そもそもわたしのことは『渡り人』以前に『異世界人』とも公表されていないはずだ。それに、クシェル様に監禁され、騙されたり嵌められたりした覚えはない!あ、でも、側から見たらそう捉えられても仕方がないような状況ではあったかも?
 でもそれもわたしが積極的に外に出たがらなかったり、(サアニャ曰く)クシェル様がわたしのことを(好き故に)束縛しようとしたからで、そこにこの人達が想像しているような悪意は全く無い。

 なのに、そう信じて疑わない獣人族の人達はわたしに可哀想な者を見るような目を向けて来る。そして、クシェル様には汚い者を見るような目を向ける。

「……………」

 勘違いしているからだと分かっていても、どうしても、目の前の人達に心の壁を感じずには居られなかった。


 なんの確証もないのに、思い込みだけで簡単に他人を否定して、よりによってクシェル様にあの目を向けるなんてーー

 好きになれる気がしないな……

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