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クシェル様の言う『最後』とは
しおりを挟む「コハクー!迎えに来たぞーー!!」
「っ!……はぁ、お前はまたノックもせずに……」
「じ、ジーク!!お、おまっ、お前が居るってことはまさか昨日あの後っ!!」
「声を抑えろ。コハクが起きるだろうが」
「あ、あーすまない……って起こしに来たんだが!」
んー、なんか騒がしい。もう起きないとなのかな?でも、まだ眠い。それになんか身体も怠くて……
「すまない、うるさかったな。まだ眠いだろ?寝てて大丈夫だぞ」
起きたくなくて、布団の中に隠れるように身動ぐと、後ろから穏やかで優しい声が聞こえてきた。
この声はーー
「……ジークお兄ちゃん?」
「おはようコハク。もう起きて大丈夫なのか?」
後ろを振り向き見上げると、わたしを見つめる優しい深緑の瞳と目があった。
やっぱりジークお兄ちゃんだぁ。
最近は、朝目が覚めて後ろを見ても見えるのは広い背中ばかりで、声をかけても目も合わせてもらえなかった。
でも今日は、ジークお兄ちゃんがこっちを向いて一緒に寝てくれてる。後ろから抱きしめてくれてる。おはようって笑いかけてくれた。またあの大きな暖かい手で頭を撫でてくれた。
「嬉しい。もっとギュッてしてぇ~」
この喜びをもっと感じたくて、これは夢じゃないんだって実感したくて、わたしは身体を反らせ、ジークお兄ちゃんの胸に背中を擦り寄せた。
しかしーー
「まっ、待て!今は」
わたしのその行動に驚いたのか、腰に回されていた腕を解かれ、身体を離されてしまう。
「むぅ、じゃあいい!コハクからするぅ!」
昨日はお願い聞いてくれたのに!いいもん!お兄ちゃんがしてくれないんだったらこっちから抱き付いてやるんだから!
そう思い体を反転させて、ジークお兄ちゃんに抱きついたその瞬間ーー
「嫌ぁああーー!!俺のコハクがあああ゛ー!!」
お兄ちゃんとは別の、男の人の悲鳴が部屋中に響き渡った。
「ふぇ⁈え、な、何⁈……え!クシェル様⁈」
その声に驚き、慌てて後ろ、つまり扉の方を振り向けば、そこには震えながら涙を流すクシェル様の姿があった。
「な、なんで泣いてるんですか⁈大丈夫ですか⁈何か嫌な事でもっ」
「待てコハク!今布団から出たら!」
わたしが急いで泣いているクシェル様の元へ駆け寄ろうとしたら、ジークお兄ちゃんが慌ててそれを止めようとしてきた。が、時すでに遅し……
「いぎゃああーー!俺のコハクが汚されたーー!!」
クシェル様の悲鳴再び。
「へ?汚され?……い、いみゃあーー!なんでわたし服着てないのーー⁈」
クシェル様の言葉に、チラリと視線を下に向けると、わたしは寝巻きどころか下着すら付けていなかった。しかも身体中に広がる無数の赤い痕。こんなの見たら誰だって叫びたくなる。
わたしが涙目で振り返ると、ジークお兄ちゃんは布団をわたしに巻き付けながら「すまない。勿体無くて……つい」と目を逸らした。
勿体ない?何が?服を着せる時間が?いや、また先に寝てしまったわたしが悪いんだけど、服くらい、せめてパンツだけでも履かせて欲しかった!
「お前ど、どどどどこまでヤったんだ!もしかして最後までヤったんじゃないだろうな!!」
クシェル様は涙目で震えながら、ジークお兄ちゃんに指を指す。
ーー最後まで、やる?
「や、ヤるわけないだろ!初日でそんなことしたらコハクの大事なとこが大変な事になるだろうが!!」
ーーわたしの、大事なとこが大変なことに?
幼稚で馬鹿なわたしでも、ここまで言われたら流石に気づく。
そうか、ジークお兄ちゃんは子供が欲しかったのか!
昨日は色々といっぱいいっぱいで気付かなかったけど、アソコは本来指を入れるところじゃなくて、子供を作るために、お、男の人のアレを入れるためのところだ。
つまり、クシェル様の言う『最後』とは子作りのことを言うのだろう。そして、昨日ジークお兄ちゃんがしてくれたのは、その途中?
子供は愛の結晶というぐらいだ、きっと、昨日のように互いの愛を確かめ合って、伝え合って、愛し合った先のーー子作りなんだ。
でも昨日はわたしが途中で寝ちゃったからーー
「わたしのせいで、またお兄ちゃんに我慢を……」
「っな⁈こ、コハクのせいじゃない!そもそも初めから昨日は最後までする気はなかったし、コハクのその気持ちだけで俺は」
「初めから?……お兄ちゃんは初めからわたしのことなんて信じて……」
わたしの言葉なんて信じてなかったの?
昨日、わたしは本気で、ジークお兄ちゃんになら何をされてもいいって思って、全てを受け止める覚悟を決めて、ジークお兄ちゃんと話をしに行ったんだ。
そして、言葉だけじゃなくて、態度で、わたしの全てでその本気の想いを伝えたつもりだった。でも、あの言葉はお兄ちゃんには信じてもらえてなかった。わたしの覚悟はお兄ちゃんには届いてなかった。
「ち、違うんだ!信じてなかったわけではない!コハクの気持ちは嬉しかったし、疑ったりなんかしていない!でも、それとこれとは話が別というか……こればっかりは気持ちだけでどうにかなる問題ではないんだ。な、分かるだろ?」
わたしの声が震えていることに気づくと、布団を巻き付けられたままのわたしを横抱きにして頭を撫でてくれるお兄ちゃん。お兄ちゃんにそんなことをさせてしまっている自分の幼さがまた悔しくて、涙が込み上げてきた。
「く、クシェル!お前が余計な事を聞いて来たせいだぞ!どうしてくれるんだ!」
「ああ゛⁈俺のせいにするな!元はと言えばお前がコハクに如何わしい事なんてするから悪いんだろ!」
「っ……お前の吸血も大概だろうが!コハクに邪な欲を向けているのが俺だけみたいな言い方をするな!」
「い、一緒にするな!!」
「一緒だろう!お前のそれも同じく、愛する者を強く求める行為なんだから!」
クシェル様はジークお兄ちゃんのその言葉にどこか思うところがあったのか、反論しようと何度か口を動かすが、結局何も言えず、口を閉ざしてしまった。
「……ジークお兄ちゃん」
「あぁ、すまない大声を出したりして、怖かったな。大丈夫、怒ってない。俺は誰のことも怒ってはいない。だからそんな不安そうな顔しなくて大丈夫だぞー」
お兄ちゃんはそう言って微笑むと、わたしを安心させる為、背中をトントンしてあやし始めた。
「違う。そうじゃなくて、わたしは……」
ジークお兄ちゃんが大きな声を出したから、ジークお兄ちゃんがわたしやクシェル様に怒っているように見えたから不安になったわけではない。
「ジークお兄ちゃんが、苦しそうに見えたから……」
「っ⁈」
わたしの言葉にジークお兄ちゃんは一瞬、目を見開き驚くと、くしゃりと表情を歪め目に涙を浮かべた。
「お、お兄ちゃん⁈ど、どうしたの?本当に苦しい?それとも何処か痛い?」
「違う。違うんだこれはっ……」
そう言ってわたしを抱き寄せるジークお兄ちゃんの腕は震えていた。
「コハク、一つ聞いていいか?」
「う、うん」
「俺がもし……もし昨日、コハクに『血が飲みたいのか』と問われた時、俺が『そうだ』と答えていたら、コハクはどうしていた?」
ジークお兄ちゃんはわたしだけに聞こえる声でそう呟くように問うた。クシェル様には聞かれたくない質問なのだろう。そう思ったから、わたしもお兄ちゃんにだけに聞こえるように小さな声で、それに答えた。
「勿論、受け止めてたよ」
「っ……しかし、俺は、クシェルみたいに痛みを取ることは「そんなの関係ない」
わたしの答えに声を震わせるジークお兄ちゃんの頭を撫でる。
「言ったでしょ?全部受け止めるって、ジークお兄ちゃんになら痛くされても、苦しいことをされても平気。わたしもお兄ちゃんと同じ気持ちだよ。ジークお兄ちゃんの全てが愛しい。だから何をされても嫌いになんてならないし、それがお兄ちゃんの愛だっていうなら、全て受け止める。大丈夫少しくらい酷くされても『わたしはこんなにも愛されてるんだぁ』って喜ぶだけだよ。絶対」
そう言ってわたしが笑えば、お兄ちゃんはわたしの意図に気づいたようでーー
「っハハそうか、同じか、ハハハ全くコハクには敵わないなぁ」
声を出して笑い「ありがとう」と力強く抱きしめてくれた。
その後、着替えのこともあり、一旦俺たちは部屋の外に出て行くから、準備が整ったら声をかけるようにと言われた。
そして、二人が寝室から出て行った後、わたしは恐る恐る鏡の前へと足を運んだ。
勿論、ジークお兄ちゃんが付けてくれた印を確認するために。
「本当にいっぱい……ん?」
それは首、鎖骨、胸へと続き、お腹や腕にもチラホラと、上半身全体に付けられていた。そして、鏡の前を去ろうとして何気なく振り返ったその時、首の後ろが赤くなっているようにな気がした。
今度は髪を上げて、改めて注意深くそこを見る。すると、そこには幾つもの赤い印が残されていた。
「こ、こんなとこいつの間に付けたんだろう?」
昨日はずっとお兄ちゃんの姿が見えていた。つまり、首の後ろなんかに印を付けられた記憶はない。
あ、寝ている間に付けたのか。お兄ちゃんは寝る時いつもわたしを後ろから抱きしめて寝る。だから、多分これもその時に付けたんだ。
「でも、なんでわざわざこんな所に?」
ま、いいか。そんな事より早く支度しないと、あまり二人を待たせるわけにもいかないし。
そう思いわたしが急いで着替えている時、隣の部屋では二人の会話が続いていた。
「ジーク、お前はずっと俺のことが憎かったのか?」
「憎しみ。お前の目にはそう見えたのか……」
「ち、違うのか?でも確かにそう……」
「憎しみではないが、俺はずっとお前に嫉妬していた。初めからコハクに全てを許されて来たお前に、その欲を当然のように受け止めてもらえるお前に」
「当然なんて俺は……」
「そしてさっきは、自分の事は棚に上げて、俺には禁欲的であることを求めるお前に腹が立った。お前が言うな、今まで散々俺の目の前で俺の番を食いものにして来たくせにっ!……てな」
「お、俺は別にコハクのことを食いものになど……」
「分かっている、お前にその気がないことくらい。お前にその自覚がないのも知っている。お前はただただコハクが好きなだけだ。でも、俺は、獣人としての俺はそんなお前が許せないんだよ。どんな理由であれ、俺の唯一を奪い我が物顔で俺の邪魔をするお前が心底許せない」
「っ……お前は俺からコハクをうば、取り返したいのか?」
「獣人としての俺は、な。でもそれが全てではない。コハクのことは勿論、お前との関係も大切にしたいんだ。だからあまり俺を感情的にさせないでくれ、頼む。俺にお前を傷付けさせないでくれ」
その会話の内容は勿論、二人が話をしていたこと自体わたしには知る由もなかったけどーー
ーーー補足ーーー
※クシェルの印象を悪くする恐れのある内容が含まれます。
ヴァンパイアは愛=吸血欲なので、性欲は弱め。仲間も吸血で増せるし?種族として、そこまで性に関心がない。
つまり、感覚的には恋人間での吸血≒セッ◯ス!と言えないこともない。感覚的には!(大事なことなので二度)
なので、コハクを監禁して連日吸血し続けたのは、つまりそういうことで、舐めてもいない首に牙を一気に突き立てるのは、慣らしてもないアソコにナニを一気に突き入れたのと同じくらい最低な行いだと言える。
勿論クシェルにその自覚はないし、ジークもそこまでのことは思っていない。
でも、作者的にはクシェルはそれくらい最低なことをしたという認識でいる。
ましてや、クシェルはコハクが人一倍痛みに弱いことを知っていたわけだし……
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