勇者でも渡り人でもないけど異世界でロリコン魔族に溺愛されてます

サイカ

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元の世界に帰る方法

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「何から話すべきか……まず大前提として、勇者が召喚されるのは半世紀に一度、一人だけと決まっています」

 シェーンハイト様達に続いてわたしもサアニャの方へ視線を向ける。すると、サアニャは少し思案した後わたしの真横に立ち、身体ごとわたしの方を向いて説明を始めた。

「これは女神が人族にこの特権を与える際に定めたもので、一度神が世界に齎したルールは誰にも覆すことは出来ません」
「つ、つまり勇者が見つかったから、わたしは勇者じゃないってこと?」

 でも、夢の中で聞いた声は確かに男性のものでーー

「そうですね。元々無いに等しい可能性が今回の件で完全に無くなり、それが周知の事実となりました」

 周知……つまり、この事を知らなかったのはわたしだけ。きっとあの時イダル先生はすでに勇者のことも、勇者の目的も知っていたんだ。だからあんな事を言ったんだ。

『何があっても俺はお前の味方だ。もし魔王様を敵に回したとしても、お前がそれを望むなら』

 いったいイダル先生はわたしが何を望んでいると考えていたんだろうーー

「しかしここで重要なのはそのことではなく、今回の召喚で先ほど述べた前提を覆しかねない事態が起きたという点です」

 世界のルールから逸脱した、二人目の勇者?

「っでもついさっきわたしは勇者じゃないって!」
「はい。しかし、シイナ様が世界を渡る直前に聞いた声が、女性のものでなかったということから、シイナ様をこの世界に呼んだのは人族で間違いないんです」

 それじゃあ完全に話が矛盾している。確かに人族に召喚されたはずなのに勇者じゃないなんて、意味が分からない。人族に召喚された人イコール勇者じゃないの⁈

「そこで私が建てた仮説が……シイナ様は勇者の願いを叶えるためにこの世界に連れてこられたのではないかというものです」

 サアニャは一度わたしから目を背けると、申し訳なさそうに小さく、しかしハッキリとそう告げた。

「勇者の、願い……?」
「世界を渡る際、勇者は願いを問われ同意のもとでこの世界にやって来るのは知っていますよね。これは彼方とこちらの神が、人と言うより……魂の譲渡の際に遵守されるものとして定めた決まりなんです」
「魂の、譲渡?」
「シイナ様は、輪廻の輪という概念はご存知ですか?」
「う、うん。確か、生まれ変わりとか?そういうのだよね」

 何かのアニメでそんなのがあった気がする。例えば一度死んで生まれ変わって、また同じ相手に恋をしたり、全く別の動物になったりとか。他には、悪魔の力を借りたせいで生まれ変われなくなってしまったり……とか。

「それです。世界はその輪に一定の魂を乗せ、巡らせる事で均衡を保っているのですが、その輪は世界ごとに違うのです。基本その世界で生まれた魂はその世界の神に管理され、他の世界の干渉を受けることはありません」

 しかしーーと続けてサアニャは彼方とこちらの神が例外的に認めた魂の受け渡しについて教えてくれた。


 ある時、地球の人類の叡智を欲した女神は地球の神に頼んだ。

『そちらの人間をこちらの世界に招かせてくれないか』と、それに地球の神はいくつかの条件をつけて許可を出した。その条件というのがーー

 必ず招かれる者の承認を得ること。
 招く側はその者に対して相応の対価を支払うこと。
 招く側はその者の死後もその魂に敬意を払い、その魂の在処を変えた責任を果たすこと。

 ーーというものだった。


「魂の在処を変えるというのはつまり、本来在るべき輪から外し別の輪へと加えるということで、それには在る程度のリスクが伴います。万が一失敗すると」
「勇者を召喚するのに、願いを叶えることが必須なのは分かった!」

 わたしはその先を言葉にしてほしくなくて、咄嗟にサアニャの説明に言葉を被せてしまった。


「そこでなんでわたしが出て来るのか……も大体想像がついた」

 それこそ、勇者の言い分を聞けばわたしの事情を知る人なら誰もがその結論に至るだろう。

「でもなんで……」

 そこで勇者イコールわたしの友達という考えに至るのかがまだ分からない。みんなが一様にそう思うに至った決定的な証拠でもあったんだろうか?

「あなたを溺愛しているという父親がこの世界に来ることを快諾するとは考えられません。ましてや、あなたを巻き込む形でなんて、あり得ないでしょう?」
「それは、そうだけど……」

 つまり消去法ってこと?

「そして何より……決定的だったのが、勇者の目的があなたを『取り返す』ことだったことです。救い出すでも、会って話を聞くでもなく」

 サアニャの眉間に深く皺が寄る。

 確かに『取り返す』なんて、まるで人をモノのように扱う言い方は気分が悪いが、願いの内容が『わたしを一緒にこの世界に連れてくる事』だったのなら、十分にあり得る言い回しだと思う。

「それにずっと気になっていたんです」
「何、が?」
「シイナ様の境遇について……この世界に来て不思議に思いませんでしたか?何故ここでは前のように嫌われないんだろうって、何故前の世界で自分はあんな扱いを受けていたんだろうって」

 サアニャは再びわたしと視線を合わせると、まるで聞く前からこちらの答えは分かっているかのように、淡々とした声で聞いて来た。

「シイナ様の場合は人族だからという理由でこの世界でも嫌われることもあったかもしれませんが、それ以外の理由で嫌われることはなかったでしょ?」

 確かにサアニャの言う通りだ。元の世界では特に思い当たる理由も無く、皆んなから嫌われていた。しかし、この世界に来てからは理由無く嫌われる事がなくなった。
 それどころかこんなわたしのことを愛してくれる人が二人もいて、友達の様に親しくしてくれる人もいて、前より人に好かれる事が多くなった。

 それに、前は関わった時間が長くなればなるほど、こちらが心を開けば開くほど嫌われてしまっていたのに、この世界ではむしろその逆だった。
 でもこの話と、勇者の正体がわたしの友達かもという話にどういう関係が?

「つまり、嫌われていた原因はシイナ様自身ではなく、他者にあるということです」
「っ……そんなはずない!」

 一瞬サアニャの言う通りの様な気がした。でも、すぐにそれは間違いだと気付く。

「だって皆んなわたしのせいだって!わたしなんかと友達にならなければって」

 そう言って離れて行ったんだ。

 ーーでも、この世界では??

「皆んなって、その友人以外の皆んなですよね?」
「そ、そうだけど……」
「その友人はきっと人望の厚い方だったんじゃないですか?」

 その通りだ。ハルちゃんは異性からは勿論、同性からも慕われる。皆んなに好かれる。本当に非の打ち所がない完璧な人間だった。

「そして、そんな友人だけはいつも自分を庇ってくれた。皆んなは自分のことを否定するのに、その人だけはいつも肯定し、寄り添い、優しい言葉をかけてくれた。そうでしょ?」

 わたしはサアニャから投げかけられたそれらの質問に沈黙を返すことしかできなかった。

「でも、状況は一向に好転しない」
「っ……」

 沈黙はーー肯定を意味する。

「な、何が言いたいの?」
「まだ気づきませんか?つまり、裏で糸を引いて、シイナ様をそんな状況に追い込んだ黒幕はその友人君ってことですよ」
「う、嘘だ……ハルちゃんがそんなことするはずない!大体なんのためにそんなこと」
「そりゃあ貴女を自分のものにするためでしょう。わざと孤立させて頼れる人間を自分だけにして、ね」

 もし、それが本当なら、わたしはずっと騙されていたってこと?

「でも、誤算があった。それは、あなたには決して奪えない心の支えがあったことです」
「……お父さん」

 誰に否定されても、外でいくら嫌なことがあっても、家に帰れば必ずわたしの全てを肯定してくれるお父さんが居た。

「だから勇者は願ったんじゃないですか?これ幸いと、貴女もこの世界に連れてくるように」

 わたしから完全に心の拠り所を奪い、自分のものにするために……?

「ま、待って!かっ仮にサアニャの言う通りだとして、それでなんで、ハルちゃんがわたしを殺すなんて話になるの⁈」

 そうだよ!確かクシェル様は、勇者がわたしを殺そうとするかもしれない!ってそう言ってーー

「大方、元の世界に帰る方法でも見つけたのでしょう」
「なぜそれを⁈」

 サアニャに視線だけを向けられたクシェル様が驚きに声を上げる。

「グラナートでは有名な話ですよ。幸せを手にすることなくこの世を去った渡り人は身体も消えてなくなってしまう。それを見た人はこう噂した。きっと元の世界に帰ったんだ。と」
「噂……?」
「噂ですけどこれはあながち間違いではないと思いますよ。先ほども言いましたが、異世界人は願いを代償にこの世界に連れてこられるわけです。しかし、それを反故にされた者達は?」
「この世界に居られなくなる?」
「まぁこれは女神の落ち度ですから、選択の自由くらいはありそうですが……」

 どうやらクシェル様は少し前から皆んなに黙ってこっそりと元の世界に帰る方法を探っていたらしい。
 そして最近、まさにサアニャが話してくれたこの獣人族に伝わる噂話を知ったクシェル様は、わたしを自分のものにするために勇者が最悪わたしを殺しにかかると考えたらしい。
 この世界では決して自分のものにならないと知った勇者が、元の世界でやり直すために、わたしを道連れに心中すると。

「それで……殺されにくくする為にわたしをヴァンパイアにしたってことですか?」

 ヴァンパイアは治癒能力が高い。

「それもあるが……寿命で亡くなるのも怖くなってしまったんだ」
「だから、寿命の差を無くそうとしたってこと?でもそれは前に気にしてないって……」
「死んだら別の世界に行くなんて聞いてない!!」

 クシェル様のその悲痛な叫びが部屋の空気を震わせる。

「死んでもそこにコハクが居ないなんて、俺の知らないところで、手の届かない場所で俺じゃない別の誰かにその微笑みを向けているなんて許せない!だから……だからどうにかして元の世界に帰れなくしなければと思ったんだ。そして、魂を少しでもコチラの世界に染めることが出来れば、そしたらもしかしたら死後も、生まれ変わってもまた同じ世界で共になれるのではと……思って」

 わたしを、わたしの魂をこの世界に繋ぎ止めておくために、この世界特有の種族であるヴァンパイアにした。

 これは確かに説明が難しい。勇者の事や帰る方法を隠した状態でとなると、尚更。

「しかし女神の力を借りたとは言え、所詮人の手によって召喚された勇者の場合はどうでしょうね。勇者のそういう記述は残っていないので」

 クシェル様の説明が終わるのを見計らって、サアニャが説明を付け足す。先程述べた内容がそのままわたしに当てはまるとは言えないという補足を。

 選択の自由があるか、そもそも元の世界に帰るという選択肢自体あるかどうか、前例がないからなんとも言えないという事?

「居る。一人だけ知っている」
「シェーンハイトそれは秘匿すると」
「フレイヤ、君も薄々気付いているんじゃないのか?その可能性に」
「っ……」

 シェーンハイト様は引き止めようとするフレイヤ様の手を外させて、ゆっくりとわたしの元へ来ると、目線を合わせ優しく語りかける。

「コハクちゃん。この前は異世界の、君の居た世界の文字を俺に見せてくれたね」
「へ?は、はい」
「その中に、君の名前が君の世界とコチラの世界両方の文字で書かれているページがあったね」
「……はい」

 恐らくコチラの文字で綺麗に名前を書けるようにと、練習したページのことだと思う。

「その文字の中に、すごく見覚えのあるものがあったんだよ」

 そう言って、シェーンハイト様が懐から出したのは古い学生手帳。そして、開かれたページにはその持ち主だった者の顔写真と、その下に『椎名優陽』という文字が書かれていた。

 その顔と、名前は!!

「確か……君のお父さんもロリコンなんだったね」

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