勇者でも渡り人でもないけど異世界でロリコン魔族に溺愛されてます

サイカ

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知った上で

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 シェーンハイト様が懐から取り出した学生手帳は50年前に召喚された勇者が持っていたモノだという。そして、写真もその本人で間違いなく、更に彼は自ら公言する程のロリコンだったらしい。

 わたしはそれらの情報から、シェーンハイト様と50年前に対峙した勇者はわたしのお父さんであると結論付けた。

 顔も名前も同じで手帳に書かれてある生年月日までも同じ、更には重度のロリコンときたらもうそうとしか考えられなかった。

 むしろこれでお父さんじゃない誰かだったら驚きを通り越して恐怖を覚えるレベルだ。

 ただ一点気になったのは、年齢の計算が合わないことだ。

 50年前に召喚された勇者は当時高校生だった。ということは現在の年齢は60代後半であると予想される。しかし、お父さんの年齢は41歳。高校生時代から短くて23年、長くても26年しか経っていないはずなんだ。

 その事をサアニャに尋ねたらーー

「世界で時間の流れが異なるのかもしれませんね。例えばあちらよりこちらの方が2倍進みが速いとか、それかただ単に時間も対象者もランダムなだけかもしれません」

 と軽く返された。

 え?それだけ⁈わたしはてっきり『それはおかしいですね。別の可能性も考える必要がありそうです』的な感じの言葉が返ってくるとばかりーー

「そうか……彼奴が親に、なぁ」

 シェーンハイト様はサアニャの答えに納得したのか、感慨深そうに目を細め、わたしの頬へと手を伸ばす。

「シェーンハイト様……?」

 しかし、その手はわたしの頬へ触れる前に硬く握られーー

「っそ、それだけでも信じ難いのに、さらにはその子供がこんなに可愛い良い子だなんてっ!実に羨ましい!!」

 シェーンハイト様は勢いよく立ち上がると、心底悔しそうにその拳を振るわせた。

「お父さんとは友達だったのかな?」

 頭に浮かんだ疑問がついポロリと声に出てしまった。

 しかし、それが不適切な発言であることに気付いたのは全部声にしてしまった後で、わたしは慌てて謝罪の言葉を続ける。

「あ!すみません。そ、そんなわけないですよね!勇者と魔王が友達なんて……それにお父さんはシェーンハイト様の力を……」

 半分にしていて、更にはジークお兄ちゃんの両親の死にも関わっている。敵対していたのは明らかだ。友達だったかもなんて、思っても口にするべきじゃなかった。

 でも、だって、わたしにお父さんの事を問う時のシェーンハイト様の声はいつも穏やかで、前の勇者がわたしのお父さんだと分かってからの言動がどこか親しそうだったから。そうだったら良いなぁって思ってしまって、ついーー

「友達だ。少なくとも俺は今もそう思っている」
「え?」
「いや大親友と言っても過言ではない!何を隠そう幼子の魅力と可能性を俺に布教してくれたのは彼奴、君のお父さんだからな!」
「え⁈えぇえー!!」

 友達だった事以上に最後のカミングアウトの方が衝撃的過ぎて、わたしは大きな声を出して盛大に驚いてしまった。
 そして、否定してほしくてフレイヤ様とクシェル様の顔を見る。しかし、返ってきたのは困ったような浅い微笑みと躊躇いがちな頷きだった。

「お、お父さんが本当にすみません!」

 シェーンハイト様がロリコンになったのは、お父さんの影響だと分かり、わたしは余りにも申し訳なさ過ぎてフレイヤ様とクシェル様に対して深々と頭を下げた。

 いや、勿論シェーンハイト様の力を半分にした件やジークお兄ちゃんの両親の死に関わっている件についても申し訳なく思ってるけど……その二つは人族に嘘を吹き込まれてとか勇者としてそうせざるを得ない状況下にあったとか色々外的要素を考えることも出来る。

 しかし、ロリコンの件は擁護のしようがない。完璧にお父さんが悪い!

 まさかシェーンハイト様をこんな風にしたのがお父さんだったなんて。

「ホントなんてお詫びすればぁあ!!」
「頭を上げてコハクちゃん。コレはあなたが謝る必要のないことよ」
「フレイヤ様ぁ」

 うぅその優しさが逆につらい。

 た、確かに当時わたしは産まれてすらいないわけで、止めたくても止めれないわけで、全くフレイヤ様の言う通りだけど……でもコレは謝らずにはいられなかった。

「すみませんっ」

 意気揚々と少女の素晴らしさを語るお父さんの姿が目に浮かぶ。

「それに、まぁ実害もないしな。気持ち悪いが……そのおかげで子供の生活環境の改善や教育制度の見直しに繋がったとも聞くし、悪いことばかりではないんだ。心底気持ち悪いが」
「クシェル様……」

 どうにかして、わたしを慰めようとしてくれているんだろうけど、所々出る本音とその時の光の無い目が怖い。

 シェーンハイト様はわたし達のそんなやり取りは気にも止めずーー

「そうだ!彼奴が俺に一番最初に放った言葉は何だったと思う?」

 お父さんとの思い出を語り始める。

「攫った女の子を返せこの幼女趣味の変態クソ野郎!だぞ。アハハハハ!その時は全く身に覚えも無ければ、聞き馴染みもない内容に唖然とする他なかったが、その後色々知って思ったさ、どの口が⁈とな!」

 シェーンハイト様の豪快な笑い声が部屋に響く。

 お、お父さんのバカぁーー!!

 申し訳なさと恥ずかしさと居た堪れなさで、わたしは両手で顔を覆い、お父さんへの悪態を心の中で叫んだ。

 その後、お父さんの過去のやらかしのせいで精神的ダメージを受けているわたしのことを不憫の思ったのか、フレイヤ様がお父さんとの思い出話に花を咲かせようとするシェーンハイト様を止めてくれて、更には話の締めくくりまでしてくれた。


「最後にもう一度確認するけど、コハクちゃんは勇者に会う気はなく、元の世界に帰る気もない。ということでいいのね?」
「はい」
「本当に?二人に遠慮してとかじゃなく?」
「はい、大丈夫です」

 今回の話はわたしにことの真相を伝えることが目的だったけど、その他にも今後の方針を決める上でわたしの意思を確認しておきたいという狙いもあったらしい。ちなみに、あの会議の時シェーンハイト様がわたしに聞きたかったこととはまさにこのことだったらしい。

 その時のわたしは知らないままでいる事を選んだ。知っても知らなくてもどうせ答えは同じだからって、クシェル様が求める自分で有り続ける決断をした。

 しかし今回はーー

 知らずに判断するのと知った上で判断するのでは、その言葉の重みも、その覚悟の重さも全然違う。

 クシェル様達の敵はもう知らない誰かじゃない。今の幸せを守るために倒さないと……いや、殺さないといけなくなるかも知れない人はわたしの知らない誰かじゃなくて、友達かも知れないんだ。

 つまりわたしは今友達かも知れない人を切り捨てる判断をした。

 もしかしたら、ハルちゃんはやっぱりわたしの思っていた通りの人で、サアニャが言うような人ではないかも知れない。本気でわたしのことを心配して、わたしがこうしている今もいっぱい傷ついてわたしのためにここに向かって来てくれているのかも知れない。

 でもわたしには、その可能性を捨ててでも絶対に守りたいものがあるんだ。

 確かに勇者に会って直接真相を聞きたい気持ちもある。だけど、勇者の能力がはっきりしない今の状況では、それはリスクが大き過ぎる。いや、もし能力が分かっていだとしても、会うという判断はしなかっただろう。

 だって、会って話したらきっと真相がどうであれ、助けてあげたくなってしまうから。
 
 それで敵を庇って、大切な人に隙をつくり大怪我を負わせてしまうなんてのはアニメや漫画ではよくある話だ。最悪それで大切な人を失う可能性だってある。そうなってしまったら後悔するなんてレベルじゃない。

 だからわたしは勇者には会わないと決めた。




 それに、わたしに帰る場所はもうーー


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