エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第五十九話『天使2』

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 村の門を越えた辺りで馬から降り、手綱を引きつつ村長の屋敷を目指した。大通りを進んでいると子どもたちの声が聞こえ、向かい側から騎士の集団が歩いてきた。その中心にロアがいた。

「きしさま! おしごとがんばってください!」
「ありがとう。君たちも危なくないように遊んでくるんだよ」
「きしさま! おっきい虫とれたんだ、見て!」
「へぇ凄いね。赤緑に光って……これどこで捕ったんだい?」

 ロアが珍しい虫を見て目を丸くしている。よほど不躾な態度を取らない限りロアたちが村人を罰することはなく、老若男女問わず人気だ。
 歩きながら様子を眺めていると向こうも俺たちに気がついた。一定距離まで近づいてから首を垂れると、ロアは頭を上げるように言った。

「おはよう、グレイゼル、それにミーレ」
「おはようございます、ロア様」
「お、おお、おはようございます!」

 高貴で美麗な爽やかさを浴びてか、ミーレがどもった。
 ロアが心配しそうな顔で近づくと馬まで高速で下がり、これから仕事があると大きな声で言った。流れのまま退散するが、所要時間は十秒を切っていた。

(……玉の輿を狙うと言った時の威勢はどうした)
 恋する乙女の後姿を見送り、ロアと向き直った。

「彼女、面白い子だね。一度ちゃんとお話してみたいって思ってるんだけど、いつもああやって逃げられるんだ」
「無礼をお許し下さい。ロア様みたいな男性と接する機会が無く、顔を合わせると緊張が勝ってしまうようです」

 嫌われているわけじゃないと知ってか、ロアは微笑した。ミーレの挙動不審さが興味を持たせるきっかけとなったようだ。
 完全に姿が見えなくなったところで山狩りについて切り出した。するとロアも目つきを変え、部下に紙を持ってこさせた。

「これは、当日に必要な薬の内訳ですね」
「止血剤に虫刺されの薬、草のかぶれに効く軟膏も欲しい。それとのど飴が部下に好評だったから、出来れば作ってきてくれると助かるよ」
「在庫をかき集めれば明日には用意できるかと」
「それはいい。山を監視してくれている部下と村民の負担を減らせる。ともすれば山狩りの実行は明後日かな。なるべく早くケリをつけよう」

 いつルルニアの話を切り出されるか気が気でなかったが、何も言われなかった。ガーブランドが人柄を見誤るわけがないため、今は頃合いではないのだろうか。

(……まぁ、遅かれ早かれではあるか)

 気がつけばこの場には俺とロアだけが残されていた。
 用事が無いのなら移動をと思うが、引き止められた。

「実はグレイゼルに大事な話があってね。付き合ってくれるかい」
「……良い話か悪い話か伺ってもよろしいでしょうか」
「そこは何とも言えない。場合によっては悪い話かもしれないからね」

 貴族からの申し出を断れるわけもなく、大人しく付き従った。
 十分ほど歩いて辿り着いたのは村の外周部だ。細い枝で組まれた村囲いまで行くと、活気ある声が聞こえてきた。発生源は近場の浅沼となっており、そこに村人が複数人集まっていた。

「こっちは準備できただ! そっちはどうだぁ!」
「縄は杭にしっかり結んだべ! よしだら飛び込め!」
「おう、任せぇ! 一番槍はおらがもらうべよ!」

 浅沼に浮かせた小舟から一人の男性が跳ぶ。足先から泥に入ってどんどん身体を沈めていき、胸元から上だけが見える状態となった。
 岸にいる男たちが縄を引くと、浅沼に沈んだ男性が泥をかき分けるように歩き出した。進路上の草などを掴み、無事に地上へ戻ってきた。

 村人たちがやっているのは地形図作成の作業だ。身体を直接沈めて水深を確かめ、歩きながら泥の質や粘り気を調べる。それらの情報は読み書き出来る者が紙にまとめる。

「たくましいね。町には色々な器具があるけど、それに頼らず自らの知恵を働かせている。王都に住んでいる者たちも見習うべき根性だ」
 離れて様子を見ていると、村人たちがこちらに気づいた。

「お、ロア様だ! グレイゼル先生もいるべよ!」
「おらたち頑張ってっぞ! 見ててくれたべか!」

 三分ほど村人たちの様子を眺め、ロアは村囲いに沿って移動した。最終的に到着したのは周辺監視のための櫓であり、ロアは不安定な梯子を手で掴んだ。

「落ちたら危ないですよ」
「この程度は慣れっこさ」

 言葉通り軽やかな動作で上に登った。櫓の上に逃げる空間は無く、また助けを呼んでも間に合わない。色んな意味で内緒話には適した場所だ。
 俺は処刑台に進む心持ちで梯子に手を掛け、櫓の上に移動した。高い位置にあるため風が強く吹きつけてくるが、ここからの景色は絶景だった。

「昔はこんな風に高いところへ登ったものだ。懐かしいね」
「……意外とやんちゃされていたのですか?」
「そう、だね。小さい時はよく城から抜け出して遊んだものさ。家のしきたりが嫌で勉強が嫌で、あてつけのように親を困らせていた」

 陽光を浴びて揺れるロアの金髪は神々しく、同性であっても見惚れた。
 静寂に身を預けていると、この場へと俺を呼んだ本題が切り出された。

「────君の奥さん、ルルニア・バーレスクは魔物だね」
 その言葉が紡がれた瞬間、風が止まった。
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