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第七十六話『角の手入れと恋愛相談1』
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ルルニアをベッドに寝かせるが、すぐに目を覚ました。濃度三十倍の精気を取り込んだ影響で体調不良になっており、吐き気をこらえた顔をしていた。
「あなたは……大丈夫なんですか?」
「死に掛ける前に供給を遮断したからな」
後五秒も吸われていたら危なかったが、それは口にしなかった。生活に支障がないぐらいの精気は残せたのだから、余計な一言でルルニアを心配させる必要はない。
(……叶うなら、致した後もゆっくりしたいけどな)
内心の呟きは吐露せず、胸元までシーツを掛けてやった。
そこで一度ベッドから離れ、作業机の引き出しを開けた。
中に入っているのは複数の小箱だ。作った薬やその材料など、種別ごとに整理整頓している。取り出したのは一粒の丸薬と、大蛇の魔物の鱗だ。さらに棒やすり等の器具が入った箱も持ち出した。
「起きたなら薬を飲ませてやる。少し待ってろ」
俺はベッドの縁に一枚の布を敷き、大蛇の鱗と太めの棒やすりを持った。薄く平たくなっている面にやすりを当て、軽く力を入れて布に粉を落としていった。
ニーチャの食事にドーラの角の粉末を入れるのに着想を受け、それを薬で試した。すると目に見えて薬の効果が現れ、体調不良を起こした時の定番となった。
「……うぅ、その鱗って苦くて嫌いなんですよね。せめて粉末の状態じゃなく、丸薬みたいに丸めることは出来ませんか?」
「何度か試したが上手く固まらないんだ。ドーラの角なら違うかもしれないが、あれはニーチャ用だ。当分は我慢してくれ」
私よりニーチャを取るのかと抗議された。だがこれは華麗に無視させてもらった。
「……ではお水をお願いします。さすがにそれをそのまま飲むのは拷問なので……」
すぐに持ってくると言って一階へ降りた。水差しとカップを持って二階に戻ると、自室の横の扉が薄く開いた。隙間から俺を覗いているのはニーチャであり、何か言いたげな顔をしていた。
「……俺に用事があるのか?」
答えはなかった。様子がおかしいのは間違いないが、その原因がよく分からない。待っても答えが来そうになかったため、俺の方から質問してみた。
「誰かにサキュバスだってバレそうになったか?」
違う、と首が横に振られた。
「なら中古屋で大きい失敗をしてしまったか?」
また首が横に振られた。
「他には……、もしやお相手が見つかったのか?」
そこでニーチャが止まった。
進展があったことは祝福すべきだが、状況は芳しくなさそうだ。ルルニアにも話を聞いてもらってもいいか問うと、控えめな頷きがあった。
ニーチャを連れて部屋に入り、椅子をもう一つ用意して座らせた。
薬を飲ませるのが先なため、水差しに入れた水をカップに注いだ。
「……ニーチャから何か?」
「……それはこれからだ。お相手に関する話みたいだが、誰であれ頭ごなしに否定するのはやめよう」
「……見るからに悪人でもですか?」
「……それは、まぁうん。戸籍の上では義理の親になってるんだし、ある程度は口を出すかもしれん」
耳打ちでの会話を終え、ルルニアの背を起こして丸薬を渡した。開けた口の手前に粉末が入った布を運び、舌の上に振り落としてから水を飲ませた。
「げほっ、ごほっ! やっぱりこれ、苦いですね……」
効果が出るまで二十分ほど掛かる。改めてニーチャの話を聞こうとすると、ルルニアが倒れた。容体が悪くなったのかと焦るが、床に置いた木箱の中をベッドの上から見ていただけだった。
「……これ、いいですね」
「棒やすりがどうかしたのか?」
「私たちの角、今から削りませんか?」
そう言い、ルルニアは自分の角を指差した。よく見ると片側が若干長く、先っぽが外巻に曲がっていた。俺目線ではさした変化に見えなかったが、本人的には重心がズレてむず痒いそうだ。
「……今はニーチャの話が先だろ」
「話は角を削りながらでもできますよ」
「ニーチャはそれで構わないのか?」
「いい。削ったらどうなるか、気になる」
椅子からピョンと立ち、ベッドの上へと移動してきた。縦向きのベッドに対して二人で横向きに並び、足を外に投げ出す。俺の眼前には二人分の頭と角が並んでいた。
「……並べてみると見た目の差が歴然だな」
ルルニアの角は両側とも上に伸びている。根本の部分が黒く大きく太く、先端は脈動するように赤く光っている。いかにも強そうな雰囲気だ。
ニーチャの角は両側ともクルリと巻いた形状をしている。羊の角が印象的に近く、サキュバスとしての非力さを表すように黒一色で小さめだ。
「片手間に何かをしながらの方が胸のうちをさらけ出しやすいと思います。グレイゼルに角を削ってもらって、その間にお話をしましょう。ね、ニーチャ」
二人の意思が合致しているのなら俺から言うことは何もない。太めの棒やすりを手に取り、大蛇の鱗を削ってついた粉末を落とし、ルルニアの角の先端に金属の面を当てた。
「────じゃあ、始めるぞ」
ザリッ、という音を合図にニーチャの恋愛相談が始まった。
「あなたは……大丈夫なんですか?」
「死に掛ける前に供給を遮断したからな」
後五秒も吸われていたら危なかったが、それは口にしなかった。生活に支障がないぐらいの精気は残せたのだから、余計な一言でルルニアを心配させる必要はない。
(……叶うなら、致した後もゆっくりしたいけどな)
内心の呟きは吐露せず、胸元までシーツを掛けてやった。
そこで一度ベッドから離れ、作業机の引き出しを開けた。
中に入っているのは複数の小箱だ。作った薬やその材料など、種別ごとに整理整頓している。取り出したのは一粒の丸薬と、大蛇の魔物の鱗だ。さらに棒やすり等の器具が入った箱も持ち出した。
「起きたなら薬を飲ませてやる。少し待ってろ」
俺はベッドの縁に一枚の布を敷き、大蛇の鱗と太めの棒やすりを持った。薄く平たくなっている面にやすりを当て、軽く力を入れて布に粉を落としていった。
ニーチャの食事にドーラの角の粉末を入れるのに着想を受け、それを薬で試した。すると目に見えて薬の効果が現れ、体調不良を起こした時の定番となった。
「……うぅ、その鱗って苦くて嫌いなんですよね。せめて粉末の状態じゃなく、丸薬みたいに丸めることは出来ませんか?」
「何度か試したが上手く固まらないんだ。ドーラの角なら違うかもしれないが、あれはニーチャ用だ。当分は我慢してくれ」
私よりニーチャを取るのかと抗議された。だがこれは華麗に無視させてもらった。
「……ではお水をお願いします。さすがにそれをそのまま飲むのは拷問なので……」
すぐに持ってくると言って一階へ降りた。水差しとカップを持って二階に戻ると、自室の横の扉が薄く開いた。隙間から俺を覗いているのはニーチャであり、何か言いたげな顔をしていた。
「……俺に用事があるのか?」
答えはなかった。様子がおかしいのは間違いないが、その原因がよく分からない。待っても答えが来そうになかったため、俺の方から質問してみた。
「誰かにサキュバスだってバレそうになったか?」
違う、と首が横に振られた。
「なら中古屋で大きい失敗をしてしまったか?」
また首が横に振られた。
「他には……、もしやお相手が見つかったのか?」
そこでニーチャが止まった。
進展があったことは祝福すべきだが、状況は芳しくなさそうだ。ルルニアにも話を聞いてもらってもいいか問うと、控えめな頷きがあった。
ニーチャを連れて部屋に入り、椅子をもう一つ用意して座らせた。
薬を飲ませるのが先なため、水差しに入れた水をカップに注いだ。
「……ニーチャから何か?」
「……それはこれからだ。お相手に関する話みたいだが、誰であれ頭ごなしに否定するのはやめよう」
「……見るからに悪人でもですか?」
「……それは、まぁうん。戸籍の上では義理の親になってるんだし、ある程度は口を出すかもしれん」
耳打ちでの会話を終え、ルルニアの背を起こして丸薬を渡した。開けた口の手前に粉末が入った布を運び、舌の上に振り落としてから水を飲ませた。
「げほっ、ごほっ! やっぱりこれ、苦いですね……」
効果が出るまで二十分ほど掛かる。改めてニーチャの話を聞こうとすると、ルルニアが倒れた。容体が悪くなったのかと焦るが、床に置いた木箱の中をベッドの上から見ていただけだった。
「……これ、いいですね」
「棒やすりがどうかしたのか?」
「私たちの角、今から削りませんか?」
そう言い、ルルニアは自分の角を指差した。よく見ると片側が若干長く、先っぽが外巻に曲がっていた。俺目線ではさした変化に見えなかったが、本人的には重心がズレてむず痒いそうだ。
「……今はニーチャの話が先だろ」
「話は角を削りながらでもできますよ」
「ニーチャはそれで構わないのか?」
「いい。削ったらどうなるか、気になる」
椅子からピョンと立ち、ベッドの上へと移動してきた。縦向きのベッドに対して二人で横向きに並び、足を外に投げ出す。俺の眼前には二人分の頭と角が並んでいた。
「……並べてみると見た目の差が歴然だな」
ルルニアの角は両側とも上に伸びている。根本の部分が黒く大きく太く、先端は脈動するように赤く光っている。いかにも強そうな雰囲気だ。
ニーチャの角は両側ともクルリと巻いた形状をしている。羊の角が印象的に近く、サキュバスとしての非力さを表すように黒一色で小さめだ。
「片手間に何かをしながらの方が胸のうちをさらけ出しやすいと思います。グレイゼルに角を削ってもらって、その間にお話をしましょう。ね、ニーチャ」
二人の意思が合致しているのなら俺から言うことは何もない。太めの棒やすりを手に取り、大蛇の鱗を削ってついた粉末を落とし、ルルニアの角の先端に金属の面を当てた。
「────じゃあ、始めるぞ」
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