エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第八十三話『女神の国1』

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 夢の中でルルニアと致した翌日の朝、俺はミーレの村へ向かった。
 農作業で行き交う村人の脇を通り、村長の屋敷へと足を踏み入れた。

 行く先はミーレの自室ではなく、奥まった場所にある書斎だ。入室と同時に見たのは壁に貼られた地形図の下書きであり、その周囲にはミーレを含めて数人の村人がいた。

「あ、グレにぃ。こっちこっち」

 挨拶もそこそこに作業机へ案内された。羽ペンに黒インクが入った容器が置いてあり、その横に羊皮紙の束がある。紙面には地形に関する情報が細かに書き連ねてあった。

「その紙にはここ一ヵ月で集めた情報が載っているわ。地面の高低差や木々の分布、雨で河川が氾濫した時の予測もあるから目を通しておいて」
「……俺もいくつか手伝ったが、改めて大した数だな」
「グレにぃが早めに方針を決めてくれたおかげよ。そこで躓いてたらここまでの情報は集められなかったと思う。ゆとりある段取りを組めたわ」

 これから行うのは地形図の清書だ。絵の上手い者に地形の輪郭線を描いてもらい、文字に詳しい俺とミーレが数字などの書き込みを行う。期日は五日先と余裕ありだ。

「じゃあ予定の段取りで作業を始めるわよ。早さよりも正確さに重点を置いて、ロア様が自信を持って選びたくなる地形図を完成させるから」

 ミーレが開始の合図をし、書斎に集った全員が動き出した。
 中継地選別に使う地形図は一つだが、それは国に献上する話になっている。村で使う物も一枚は欲しいため、同時進行で二枚目の地形図の作成を行った。

「グレにぃ、ここの書き方ってどう思う?」
「……あー、思ってたより見辛いな」
「だよね。じゃあこっちの書き方に変えるわ」

 多少の仕様変更はあったが、時間があるので焦りはなかった。お昼になったところで一度休憩となるが、地形図の進捗は良かった。全員で仕上がりを眺めた。

「…………これは勝ったわね」
 作業に携わった俺も他の村人もミーレの感想に同意した。

「さ、一時間ほど休みましょ。疲労は失敗の元、残って作業はダメだからね」
「おうっ!」
「分かった!」
「それと今日はお酒を飲むのは禁止、破ったら酒場を出禁にさせてもらうから」
「おぉ……」
「わ、分かった」

 ミーレに見送られ、書斎にいた村人たちが屋敷を出た。
 俺は地形図をもう一度眺め、川上の村の話を切り出した。

「宿舎建設の進捗だが、ミーレは詳細を知ってるか」
「大工を中心に怪我人がたくさん出たんでしょ。村長は戦いを下りる気だけど一部の村人が反発してるって、お父さんから聞かされたわ」
「……実はその勝敗について話があるんだが」

 俺が告げたのは川上の村の村長に持ち掛けた案だ。その内容は『この地域一帯の村を一つの村に統合する』という中継地選別の根底を覆すものだ。

「前にロアから聞いたんだ。中継地選別を行うのは支援金に限りがあるからだって」
「それ、あたしも教えてもらったわ。一つの村だけを優遇すると反発を招くから、中継地選別を行うことで納得感を出す。国のお偉い様方の案なんだってね」
「でもロアは中継地構想を当初のものより大きくするつもりだ。だから……」

 支援金を三つの村で分け合い、協力し合いながら発展を目指す。川上の村は建築能力に優れ、川下の村は農作物の生産性に優れている。それらの力をここに結集する。

「……あっちの村長は何て?」
「ぜひに、と言われた。俺の一存では決められないから、ミーレや村長に確認を取ってから結論を出すことにした。無茶を言ってる自覚はあるから、ミーレが呑めないならこの話は無しにする」
「お父さんに話を通すのはいいけど、うーん」

 厄介そうな顔をし、至極真っ当な懸念を表明した。

「残り五日で村の皆からの同意を得るなんてできると思う?」
「……そこなんだよな」
「奇跡的に同意を取れても、あっちは反発するでしょうね」

 利害が一致したからはい協力、とはいかない。それだけ人間の意地というものは厄介だ。何かきっかけがあればと、書斎の外に出ようとした。その時のことだった。

「グレにぃ、あれなんだと思う?」

 ミーレが指差したのは窓の先にある村の門だ。そこには人だかりがあり、騎士団の者たちが慌ただしく動いていた。魔物が出現したのかと思うが、それらしい警報はなかった。

 急を要する案件だと思って屋敷から出ると、大通りからロアが馬に乗って駆け込んできた。手綱を引いて立ち止まり、切迫した顔で俺たちを見た。

「グレイゼル、緊急事態だ」

 俺とミーレは手短に状況の説明を受けた。村の門の前に来たのは国境の検問に勤めている兵士であり、とある一報を知らせに来た。その内容は騒ぎになって然るべきものだった。

「隣国の町アレスタが魔物災害で滅ぼされたらしい」
「アレスタって、ここからそう遠くないぞ」
「馬がいれば二日と経たずに着く距離だね。検問には難民が押し寄せ、その対応をしている最中に魔物が追撃してきた。国境付近はかなりの混乱となっているようだ」

 検問の陥落は時間の問題とのことだった。山向こうの景色は平和そのものだが、空の下では地獄が蠢いている。魔物たちは難民の匂いに導かれ、この村を目指して進んでくる。

「────魔物の群れの到着予測は、明日の日暮れだ」
 女神の国の最初の試練となる戦いが、ここに始まった。
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