エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第八十四話『女神の国2』

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 それから幾分の時が経ち、難民が村へと辿り着いた。軽い身元確認で広場へ通され、俺が指揮を執って怪我の治療を行った。重症患者は少なかったが、それは現時点での話でしかなかった。

「……父さん、母さん、何でぇ……」
「店が潰されて、起業したばかりでくそぉ……!」
「ほんの数日前まで平和だったのに……」

 アレスタには立派な市壁があった。魔物の群れとの会敵から壁の崩落までは一日も経っていないらしく、そこから地獄が具現化した。兵士は裂かれ潰され、民は追われ喰い殺された。

(……よくある話だ。人間は魔物に勝てない。今日まで繁栄を維持できていたのは、魔物災害の頻度がここ百年で少なくなっていたからだ。ようするに運が良かっただけだ)

 難民の子どもの足に包帯を巻いていると、馬が二頭駆けてきた。現れたのはミーレとロアの部下で、それぞれの鞍にはルルニアとニーチャがいた。

「あなた、言われていた薬を持ってきました」
 前に薬の種別と保管場所の話をしていたのが功を奏した。持ち場を離れずに適切な処置を施せるようになり、次に来る難民に備える余裕ができた。

「娘は……娘は大丈夫なんでしょうか」
「安心して下さい。疲労と脱水症状が見られたため、塩を少し入れた水を飲ませてベッドに寝かせました。朝にはよくなると主人が言っていましたよ」
「うぅ、いでぇ。おれの腕、動かねぇよ」
「重い打撲と軽めの骨折とのことです。色はかなり黒くなっていますが、安静にしていれば治るそうです。腕の固定具は自己判断で取っちゃダメですよ」

 ルルニアは俺の補助に徹してくれた。治療が終わった患者を診て回り、つど容体を報告してくれた。ニーチャは村人と協力して桶の水を交換し、布巾を清潔に使えるようにしてくれた。

 難民はその後も辿り着き、即興の避難所に移動してもらった。
 そうこうしているうちに日が傾き、誰もが夜の闇に怯え出した。

「手が空いている人は松明の準備を手伝って! 村の外に等間隔で配置して、魔物の接近にいち早く気づけるようにするわ! 夜になる前に終わらせるわよ!」

 ミーレが凛然と村人に指示を出していた。魔物の群れは明日到達する見込みだが、すでに革の防具と弓矢を装備している。今回は父親の村長も慌ただしく走り回っていた。

「あなた、お疲れ様です。お水と干し肉をお持ちしました」

 広場の一角で休んでいると、ルルニアが俺の元に来てくれた。
 干し肉を嚙み千切って水を飲み、ここ数時間の疲れを癒した。

「群れはかなりの規模って話だが、ここに来ると思うか?」
「確実に来るでしょうね。風に乗って魔物の匂いが近づいて来ています」
「……そいつらにルルニアの牽制は意味を成さないのか?」
「群れを率いている魔物の強さ次第です。私より弱いなら追い払えますが……」

 強い場合は効果を成さないらしい。難民の目撃情報の中には「ドラゴンを見た」というものがあった。翼無しとのことなのでドラゴンの中では格下だが、人間にとっては十分過ぎる脅威だ。

「槍も剣も弓もドラゴンの鱗は貫けない。町なら建物を崩して質量攻撃を浴びせられるが、ここは村だ。村囲いも家も足踏みで潰される」
 村を捨てて逃げるべきとも思うが、それは国の政策で禁止されている。

「魔物災害が起きた時、村は近隣の町が防衛線を築くまでの囮になる必要がある。そうしないと対応が後手に回って被害が増えるからな」
「非力なれど聡明な人間なりの知恵ですね。して私たちは?」
「ここで魔物の群れと対峙するしかない。俺とルルニアにガーブランドとニーチャ、ロアと騎士団と村人たちの総力を結集して戦うんだ」

 俺たちの故郷は俺たちで守る。そんな決意を抱いていると、広場が騒がしくなった。音の方向に視線を向けると、そこには数十人の男性がいた。
 誰も彼もが見知った顔であり、他の村の大人たちが応援に駆けつけてくれたのだと分かった。その中でも特に目立つのは川上の大工頭だった。

「ここの大工連中は何やってんだ! 徹夜でもして村の守りを固めなきゃ、魔物どもの襲撃に耐えられねぇだろ! 全滅してねぇのか!」
「こ、これからロア様が代表者を集めて会議を行うんだ。それで……」
「材料を運ぶぐらいはできんだろうが! ありったけの木材をかき集めて、命令が来たら動けばいいんだよ! ボサボサしねぇで動け!」

 うちの村の大工たちが圧倒されている。登場から数分で作業の段取りを組み、村の門の前に丸太などを移動させ始めた。川下の村の者は食料を大量に運び込み、それをうちの村の倉庫に積み上げていった。

「意外ですね。皆さん悲観した様子がありません」
「魔物の襲撃は定期的にあったが、災害規模は初めてだからな。無知ゆえの恐れなしと言えばそれまでだが、おかげで戦える。後はここを乗り切れば……」
「国としての強さを人類と魔物の両方に示せますね」

 俺は通りがかった村人に怪我人の対処を任せ、ルルニアと広場を出た。
 まっすぐ村長の家へ向かっていると、大通りを騎士たちが駆けて行った。

「やぁ、グレイゼル。それにルルニア様」
 ロアは村長の屋敷の前で俺たちを待っていた。

「……お前は残ると思っていたが、いいのか?」
「さっき部下からも進言されたよ。僕は国の趨勢を担う人材だから、今日中にここを去るべきだとね。民を見捨てる人間にその資格は無いと断ったよ」
「……ルルニアの力があっても勝てる保証はないぞ?」
「だとしてもだよ。僕はミハエル一家以外の魔物が憎くて憎くて仕方ないんだ。目の届く範囲にいる民は誰一人として死なせない。それが僕の信念だ」

 そう告げるロアの顔には戦士としての風格があった。
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