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第八十五話『女神の国3』
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代表者会議には俺とルルニアも出席した。
難民の話から魔物の群れの規模を予測し、どのような防衛策を取るべきか話し合った。製作途中の地形図もおおいに活用し、ロアとガーブランド主導で念密な作戦を組んでいった。
「そ、それでロア様。我々の力だけで群れの撃退は叶うのでしょうか?」
「…………旗色は良くない。けれど希望がないわけじゃない」
「町から援軍が来るのですか? それとも軍の派遣が間に合うとか……」
ロアは首を横に振り、俺とルルニアを一瞥した。
会議終了後は難民の容体を見て回り、一時帰宅の準備を進めた。ルルニアの正体を知らない村人から外を出歩くのは危険だと忠告されたが、そこはミーレとロアが言い含めてくれた。
山道に着いたところでルルニアが飛び、俺とニーチャを自宅まで運んでくれた。
家の敷地の風景は平穏そのものであり、決戦の時が迫っているのが嘘のようだ。
「あ、ニーチャのお弁当」
食堂のテーブルの上にはチーズとパン、加えて乾燥させた果物などが入った弁当箱があった。ニーチャは蓋を開けて中身を俺に見せ、朝の調理風景を教えてくれた。
「このチーズね、おっきいのをナイフで薄く切ったんだよ」
「ニーチャがやったのか、よく切れてるじゃないか」
「切る時は手を丸くするって、ルルニアが教えてくれたから」
変わらずな調子のニーチャを見て安心する。弁当は俺の分もあり、今日はこれを食べることにした。決戦前に摂る最後の夕食と考えれば味気ないが、量が多くても食べきれる自信がなかった。
二人で会話して過ごしていると、ルルニアが外から戻ってきた。
身体を通常形態に戻して椅子に座り、詳しい状況を話してくれた。
「山を一つ越えた先で火事らしき明かりを見ました。魔物の到達はロアの予測通りになりそうです」
「早くて明日の日暮れ前、遅くて夜の入りか……」
「私の気配は察知しているでしょうから、それなりの以上の魔物が群れを率いているようですね」
無言でテーブルの天板を見ていると、ふいにチーズが差し出された。「あーん」と言われたので口を開けると、ひと切れが放り込まれた。次に乾燥させた果物を乗せたパンが差し出された。
「それ、美味しいですか?」
「……食べ慣れた味がする」
「ふふふ、買った物を切って詰めただけですからね」
食指が動かぬ俺のためか、次から次へとあーんで具材が口に運び込まれた。
ニーチャはその様子を見ながらドーラの角を削り、自作の弁当を食べ始めた。
「はい、最後です。足りないなら軽くお作りしますが」
「いや、今日は良い。食べさせてくれてありがとうな」
不思議なもので腹を満たすと不安が多少は和らいだ。
ルルニアは弁当の容器を洗い、考え込む俺へ言った。
「大丈夫かと思われますが、念のため言っておきます。あなたは一騎当千の勇者でも、稀代の軍略家でもありません。最愛の私の夫です」
「…………あぁ」
「村を守ろうと前線に出ても、大した活躍は出来ません。闘気の力で武器を振るったとしても、魔物を十数体ばかり倒すのが限度でしょう」
「…………そうだな」
「この戦いを勝ち抜くには、適材適所を徹底する必要があります。彼らは彼らにできることを、私たちは私たちにできることをするべきです」
ならば俺の役目は前線で傷ついた者の治療か、と聞いてみた。ルルニアは流し目で「不正解です」と言い、濡れた手を拭きながら俺の横に座った。
「この村を守るため、決戦の日の夜は死ぬほどエッチをします」
「え?」
「精気を注いで吸収して、魔物の群れのボスより強くなるんです」
それが唯一の勝算だと、ルルニアは俺の太ももに手を添えて言った。
「確かに人間の力で勝てないならそれしか方法はない……か。明日いきなりやるじゃ間に合わないかもだし、早速今夜から始めるのか?」
「いえ、今日は事前準備に割きます」
「……事前準備?」
「私はまだ自分の本能に抗えてません。今日の夜のうちにそちらを完全克服して、明日の朝と昼間は回復に費やし、決戦の夜に備えます」
ようするに俺とルルニアは皆が戦っているのを尻目に盛り合う、というわけだ。字面だけ見れば恩知らずで常識知らずもいいところだが、それが皆を守る結果に繋がる。
「…………明日は精のつく物を作ってくれ」
もちろんです、とルルニアはにこやかに言った。
ニーチャはどうするのかと聞くと、戦力として活躍してもらうと返事があった。
「戦力って、瞳の拘束術も満足に使えないのにか? 前線に立たせたら嫌でも目立つし、村人にサキュバスだってバレるかもだぞ?」
「だから私の力を一部譲渡します。以前に友人から精気のおこぼれをもらっていたと言いましたよね。あれをニーチャにも行います」
キスでもするのかと思うと、ルルニアは上着を脱いだ。なだらかな乳房を露出させ、乳首の周辺をギュッと指圧した。すると乳輪から白い液体が滲み、「んっ」という声で雫が垂れた。
「────これが同族に精気を渡す方法です。ニーチャに授乳を行い、一時的に強力なサキュバスへと成長させます。そして私が到着するまで時間を稼いでもらいます」
難民の話から魔物の群れの規模を予測し、どのような防衛策を取るべきか話し合った。製作途中の地形図もおおいに活用し、ロアとガーブランド主導で念密な作戦を組んでいった。
「そ、それでロア様。我々の力だけで群れの撃退は叶うのでしょうか?」
「…………旗色は良くない。けれど希望がないわけじゃない」
「町から援軍が来るのですか? それとも軍の派遣が間に合うとか……」
ロアは首を横に振り、俺とルルニアを一瞥した。
会議終了後は難民の容体を見て回り、一時帰宅の準備を進めた。ルルニアの正体を知らない村人から外を出歩くのは危険だと忠告されたが、そこはミーレとロアが言い含めてくれた。
山道に着いたところでルルニアが飛び、俺とニーチャを自宅まで運んでくれた。
家の敷地の風景は平穏そのものであり、決戦の時が迫っているのが嘘のようだ。
「あ、ニーチャのお弁当」
食堂のテーブルの上にはチーズとパン、加えて乾燥させた果物などが入った弁当箱があった。ニーチャは蓋を開けて中身を俺に見せ、朝の調理風景を教えてくれた。
「このチーズね、おっきいのをナイフで薄く切ったんだよ」
「ニーチャがやったのか、よく切れてるじゃないか」
「切る時は手を丸くするって、ルルニアが教えてくれたから」
変わらずな調子のニーチャを見て安心する。弁当は俺の分もあり、今日はこれを食べることにした。決戦前に摂る最後の夕食と考えれば味気ないが、量が多くても食べきれる自信がなかった。
二人で会話して過ごしていると、ルルニアが外から戻ってきた。
身体を通常形態に戻して椅子に座り、詳しい状況を話してくれた。
「山を一つ越えた先で火事らしき明かりを見ました。魔物の到達はロアの予測通りになりそうです」
「早くて明日の日暮れ前、遅くて夜の入りか……」
「私の気配は察知しているでしょうから、それなりの以上の魔物が群れを率いているようですね」
無言でテーブルの天板を見ていると、ふいにチーズが差し出された。「あーん」と言われたので口を開けると、ひと切れが放り込まれた。次に乾燥させた果物を乗せたパンが差し出された。
「それ、美味しいですか?」
「……食べ慣れた味がする」
「ふふふ、買った物を切って詰めただけですからね」
食指が動かぬ俺のためか、次から次へとあーんで具材が口に運び込まれた。
ニーチャはその様子を見ながらドーラの角を削り、自作の弁当を食べ始めた。
「はい、最後です。足りないなら軽くお作りしますが」
「いや、今日は良い。食べさせてくれてありがとうな」
不思議なもので腹を満たすと不安が多少は和らいだ。
ルルニアは弁当の容器を洗い、考え込む俺へ言った。
「大丈夫かと思われますが、念のため言っておきます。あなたは一騎当千の勇者でも、稀代の軍略家でもありません。最愛の私の夫です」
「…………あぁ」
「村を守ろうと前線に出ても、大した活躍は出来ません。闘気の力で武器を振るったとしても、魔物を十数体ばかり倒すのが限度でしょう」
「…………そうだな」
「この戦いを勝ち抜くには、適材適所を徹底する必要があります。彼らは彼らにできることを、私たちは私たちにできることをするべきです」
ならば俺の役目は前線で傷ついた者の治療か、と聞いてみた。ルルニアは流し目で「不正解です」と言い、濡れた手を拭きながら俺の横に座った。
「この村を守るため、決戦の日の夜は死ぬほどエッチをします」
「え?」
「精気を注いで吸収して、魔物の群れのボスより強くなるんです」
それが唯一の勝算だと、ルルニアは俺の太ももに手を添えて言った。
「確かに人間の力で勝てないならそれしか方法はない……か。明日いきなりやるじゃ間に合わないかもだし、早速今夜から始めるのか?」
「いえ、今日は事前準備に割きます」
「……事前準備?」
「私はまだ自分の本能に抗えてません。今日の夜のうちにそちらを完全克服して、明日の朝と昼間は回復に費やし、決戦の夜に備えます」
ようするに俺とルルニアは皆が戦っているのを尻目に盛り合う、というわけだ。字面だけ見れば恩知らずで常識知らずもいいところだが、それが皆を守る結果に繋がる。
「…………明日は精のつく物を作ってくれ」
もちろんです、とルルニアはにこやかに言った。
ニーチャはどうするのかと聞くと、戦力として活躍してもらうと返事があった。
「戦力って、瞳の拘束術も満足に使えないのにか? 前線に立たせたら嫌でも目立つし、村人にサキュバスだってバレるかもだぞ?」
「だから私の力を一部譲渡します。以前に友人から精気のおこぼれをもらっていたと言いましたよね。あれをニーチャにも行います」
キスでもするのかと思うと、ルルニアは上着を脱いだ。なだらかな乳房を露出させ、乳首の周辺をギュッと指圧した。すると乳輪から白い液体が滲み、「んっ」という声で雫が垂れた。
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