エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第九十七話『プレステス1』

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「…………あのぉ、レイプ中によろしいでしょうか?」

 背後で聞き慣れぬ声がし、ルルニアと同時に振り返った。
 幻影の酒場に突如現れたのは、見知らぬサキュバスだった。

 身長は百六十ぐらいで髪は淡い紫色をしている。長い前髪が目元を隠しており、臆病そうな印象を際立たせる。服越しの胸はそれなりに大きく、一人二人は人間を喰ったサキュバスに見えた。

「あ、わ、わたしその、実はお腹がとっても空いてまして。そ、そちらの男性をちょっとだけ味見したいんですけど、よろしいですかね……なんて……」

 ドーラの時と違い、人間を見下している様子がなかった。服装は厚手の長袖にズボンと、男性のような装いである。仕立てたように丈が合っているが、正直なところ似合ってはいなかった。

(……誰かに無理矢理着せられた。そんな雰囲気を感じるな)
 簡単な分析をし、俺は警戒を露わに身構えた。 

「あれ、えと、何でそんなに怖い顔をしてらっしゃるのですか?」
「………………」
「わ、わわわたし、何か間違いましたか!? おこぼれをもらう時は挨拶が肝心って、そう聞いていたから試して、あぁいや、ごめんなさいでずぅ!!」

 連続で頭を振って謝罪するのを見て、毒気が抜かれた。

「こいつが強力なサキュバスってことは……」
「ないですね。出会ったばかりのニーチャよりは強いみたいですが、せいぜいそのぐらいです。もしかすると一人も食べていないのかもしれません」
「にしてはデカく見えるが、個人差か?」

 名を問うてみると『プレステス・フォルライア』と答えた。
 ドーラを外に放流してからだいぶ経つが、初遭遇となるサキュバスだ。ルルニアの強さを理解してなお縄張りに近づいてきたということは、何らかの秘策がある可能性があった。

「プレステス、お前はどうやってここに来た」
「えとその、ずっと怖い空気が漂っていたんですけど、最近になって緩和されたんです。だから入ってもいいのかなーって、思いまして、はい」
「緩和? 縄張りに綻びが出ているのか?」
「あ、いや、他の魔物は気づいていないと思います! わたしは見ての通りゴミ虫みたいなサキュバスですが、感知能力はそれなりなので!」

 痛いほど発せられていた魔力の殺気が、部分的にだがピリピリになったと語った。
 体調不良か何かと思っていると、問いかけの前にプレステスが「あの」と言った。

「それでその、人間さんを味わってもいいでしょうか? 初めては特別美味しい男性って決めていたので、そろそろ我慢の限界なんですよね……あはは」

 返事は当然拒絶、そう思った時のことだ。ルルニアは急に口を手で抑え、吐き気を催すように呻いた。それに合わせて幻影の酒場も消え去った。
 射精時に不調を来たすことはあるが、今回は挿入すらしてない。プレステスが何かしたのかと思うが、キョトンとした顔でルルニアを見ていた。

「あれ、えっと、具合が悪い感じでしょうかね? こ、こういう時は横になった方がいいと聞きます。動くとその、余計に酷くなりますし」
「それ以上グレイゼルに近づいたら許さな……うぅ」
「う、うわ!? 凄い殺気です! サキュバスってこんなに強くなれるんですね。わたしもこの人を食べれば、同じになれるでしょうか?」

 そう言って俺を見る目には、捕食者然とした意思があった。
 臆病な性格でも魔物は魔物なのだと、改めて理解させられた。

「……大丈夫ですよぉ。ちょっとだけ、先っちょだけでやめますから……」

 絶対に先っちょだけでやめる気のない者の発言である。歩みに合わせて後退すると、プレステスは藍色の瞳を輝かせた。俺を拘束して精気を奪う気のようだ。

「……な、何て美味しそうな人間さんなんですか。ずっとお預けを喰らっていたのは、今日この日のためだったんですか。……これなら納得です、えへえへ」

 表情を緩め、勝利を確信した顔でよだれを垂らす。挿入間近で出しっぱなしになっていた陰茎に触れようとするが、接触は叶わなかった。俺が涼しい顔で一歩下がったからだ。

「え、あれ? 何で動けるんですか? わたしの瞳、光ってますよね?」
「あぁ、光ってるな」
「力が弱かったんです……かね? じゃあもっと魔力を込めます、ね?」

 より強い力で拘束しようとするが、効果なしと示すように腕を振った。仕掛けは単純、身に溜めた膨大な闘気でプレステスの拘束術を跳ね除けただけだ。

(……結婚式から毎晩やって、精気の量は常人の五十倍にまで増えた。プレステス程度の魔力量なら、何人来ようとも俺の動きを止めることはできない)

 膣内射精したばかりだったら危なかったが、今日はする直前でプレステスが現れた。体内には精気が潤沢に残っており、負ける要素がなかった。
 俺は困惑するプレステスを無視し、地面に置いていたポーチを拾った。一投分の投げナイフを取り出し、それをプレステスのすぐ傍へと投擲した。

「へ……え、ひゃひっ!?」

 狙ったのは斜め後方にあった木の幹だ。投げナイフは表面に深々とめり込み、貫通して次の木の幹に刺さる。枝についた葉っぱが派手に揺れるを見て、プレステスは青ざめた顔で尻もちをついた。

「ば、ばばばばばっば、化け物ですぅ……!」

 俺が行ったのはガーブランドから聞かされた『武器の闘気纏い』だ。精気に余裕がある日を見計らって練習し、最大で三投分だけ使えるようにしていた。

「これでもまだ俺の精気を吸う気か?」

 プレステスは完全に意気消沈し、尻を突き出す形でうずくまっている。涙声で謝罪を連呼されると悪いことをしている気になり、二投目をポーチに戻した。

 ズボンを履き直すと、ルルニアが苦しそうに歩いてきた。
 よろけた身体を支えてやり、額に手を当てて熱を測った。

「熱は……ないな。幻影で酒場を再現したせいで疲れたのか?」
「どうでしょうか。体内の魔力に異常はないですし、あなたの精気も吸っていません。原因は……、特に思いつかないですね」
「まずは家で休もう。それでこいつだが、どうする?」
「人間を喰った個体ではなさそうですし、一度話を聞いてみましょう。殺すにしても先に調べたいことがありますし」

 ルルニアの目線はプレステスの下腹部に向けられていた。そこに何かあるようだが、調べるのは帰宅してからでいい。俺はポーチから縄を取り出し、嘆くプレステスの両腕に巻いて連行した。
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