エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第九十八話『プレステス2』

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 家の軒下にはニーチャがおり、俺たちを見るなり駆け寄ってきた。
「おかえりなさ……ん? んー……?」

 目線は後ろ、縄で両腕を縛られているプレステスに向いた。顔を覗き込むとヒッと悲鳴が上がり、指で脇腹をつつかれるとピギュと鳴いた。

「あなた、だれ?」
「プ、プププ、プレステスと申しまひゅへっ!? か、噛みまひた……」
「この子、どこで拾ったの?」

 ニーチャに聞かれ、山道での経緯を話した。

「おー……、迷いサキュバス。今度から四人一緒に、暮らす?」
「どうだろうな。まだ処遇を決めかねている段階だ」
「暮らすなら、ニーチャの部屋とベッドある。寒くなってきたし、ルルニアとお兄さんみたいに抱き合って寝たかった。だからちょうどいい」

 ニーチャはプレステスをひと目見て気に入ったようだ。一緒に暮らしたいという願いを叶えてやりたかったが、それには人間と共存する意思が必要不可欠だ。

「プレステス、俺たちの言うことを聞けるって約束できるか?」
「し、しますし何でもさせていただきます! お掃除だってしますし、お買い物もします! 代わりにその、お食事はいっぱい欲しいです! できれば毎晩男性を一人食べたいです!」
「いや、それじゃダメだろ。何か頭が痛くなってきたな……」

 ルルニアに敵意を向けられてなお近寄ってきた時といい、臆病さの根底にしたたかさが見え隠れしている。処分すべきかどうか、いまいち判断が難しかった。

「もしもの時はドーラと同じ処遇にしましょう」
「実質的な島流しか、まぁ妥当ではあるな」

 玄関口に着き、食堂まで移動した。ニーチャにプレステスの縄を預けると、テーブルまで案内をして並んで座った。俺とルルニアはその対面に腰を掛けた。

「それではお手数ですが、お腹をめくってもらってもいいですか?」

 ルルニアに言われ、プレステスは縛られた腕で服の裾をめくった。腹とズボンの境界線には、サキュバスの淫紋があった。形状はルルニアの物より簡素に見えた。

「……やっぱり気のせいではなかったんですね」
「見覚えがあるのか?」
「その淫紋からは『クレア』の魔力を感じます」

 その名はかつて別れたという、ルルニアの友人の名だ。ずっと面倒を見てもらったことへの感謝と、迷惑を掛けたことに対する謝罪をしたいと言っていたのを覚えている。

「プレステス、お前はクレア・ボルデンと知り合いなのか」
「え、え? 何で人間さんがあの方を知ってるです……?」
「実はルルニアとクレアは知り合いなんだ。だいぶ前に別れたっきり会ってなくて、今も再会を望んでいる。顔合わせが叶うなら会わせてやりたい」

 プレステスが橋渡し役になれば、と思ったが無理そうだった。クレアによほど酷いことをされたのか、名前を聞いただけで怯えをより一層強めた。

「お、おお、お願いだからあそこには連れ戻さないで欲しいです! せっかく隙を見て逃げてきたのに、また捕まったら命を賭けた意味がありませぇん!!」
 まだ人間に殺される方がマシと、悲壮感漂う顔で言った。

「クレアはミーレみたいな性格って言ってたよな」
「ミーレさんをもうちょっと明るくした感じの子ですね。私より人の営みに紛れるのが上手くて、不自由なく精気の調達を行っていました」
「ルルニア以外の同族をイジめてたりしたのか?」
「そんなことをする子ではありませんが、この子を見ると自信がなくなりますね。私と別れた前後で何か心境の変化があったんでしょうか」

 居場所だけでも知ろうとするが、プレステスは首を横に振った。
 群れで各地を転々としていたと言われるが、これもまた変な話だ。

「サキュバスは個人個人で縄張りを持つ魔物だったよな」
「群れを作る前例がないと言うわけではないですが、基本は一人一つの町や村を持ちます。人間は非力なので、ゴブリン等の弱い魔物以外は利点がありませんし」

 例外は魔物災害ぐらいなものだ。あれは強い魔物のおこぼれを預かろうと、弱い魔物が後をつけることで始まる。ドラゴンを狼とするなら、他の魔物は死した獲物にたかるネズミやハエのようなものだ。

 サキュバスは強い寄りの魔物であり、クレアの行動は不可解だった。
 淫紋を刻まれるまでの経緯を聞くと、プレステスは鼻をすすって応えた。

「わたしその、群れに入る気なんてなかったんです。成人して人間さんを狩るぞって思っていたら、わけも分からぬうちに連れ去れて……ずっと」
「胸に溜めた栄養が持つのは一年そこららしいが、どうやって腹を満たしてきたんだ?」
「せ、精気を含んだ母乳を飲まされました。力を持たせ過ぎると離反の可能性があるからって、それ以外の食事は禁止されて……だからその……」

 俺を見た時に過剰に興奮してしまったらしい。他にもクレアは格下のサキュバス全員に男装を強要した。プレステスがズボンを履いているのもそれが理由だとか。

 群れのサキュバスは皆、成人したばかりで人間を喰った経験がない者ばかりとのこと。クレアの手足として人間を捕まえ、それを献上する。奴隷の同然の扱いだ。

「何であの子がそんなことを……」

 ルルニアは半信半疑な顔をしていた。淫紋の効力は『自分の意思でクレアの傍を離れられなくなる』だという。術者本人が移動する分には問題がないため、不在の隙をついて逃げたそうだ。

「わ、わたし……がんばりますから。……どうか、どうかご慈悲を……」

 人間目線でも悲惨な身の上であり、同情心が湧いた。
 ニーチャからもどうにかならないかとお願いされた。

「どうしますか、グレイゼル?」
「ここまで聞いて見捨てる、とは言い辛いな」
「そう言って下さると思ってました。なら提案があります」

 それは何か、疑問に答える前にルルニアは席を立った。身体の不調はだいぶ落ち着いたらしく、活力のある出で立ちでプレステスのお腹を指差した。

「────ひとまずその淫紋、私の力で上書きしましょう」
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