エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

文字の大きさ
102 / 170

第百二話『仇敵の名2』

しおりを挟む
 前世の記憶がないと聞かされていたため、乗っ取りは起きないだろうと安心していた。だがそれは楽観的な考えだったと、悲哀ある語り口によって思い知らされた。

「リゼットは強靭な精神の持ち主だった。が、バーレスクはそれすらも上回った。心の隙を突かれて肉体を奪われ、元の人格が戻ることはなかった」
「もしかして、その死因は……」
「夫である吾輩自身が引導を渡した。だがバーレスクはそれで滅せられず、魔物の輪廻へと還った。幾度となく転生を繰り返し、お主の妻に宿った」
「……それでサキュバス殺しを」
「バーレスクの名を持つサキュバスを狩り続けた結果だ。無限によみがえるならその度に殺せばいいと、半ば自暴自棄になって旅をしていた」

 殺戮に意味がなかったとしても、バーレスクだけは許せなかった。怒りの炎を燃え盛らせて剣を振るうが、終わりなき復讐譚は唐突に幕を引いた。

「…………吾輩の憎悪を晴らしたのは、お主らの情事だ」

 雨の止んだ森で愛し合う俺たちを見て、ガーブランドは正気に戻った。自分が辿れなかった結末へと、俺たちを導くのが先達の責務だと考えるようになった。

「グレイゼルがまだ寝ていた時、良いものを見せてもらったと言いましたよね」
「言ったな」
「ずっと意味が分かりませんでしたが、ようやく腑に落ちました。エッチをしているだけで誰かを救うなんて、冗談みたいなお話ですね」

 ガーブランドは次のバーレスクを討つため、山に入った。大蛇の魔物との戦いで大怪我を負わねば、対面と同時にルルニアを殺していたかもしれないと語った。

 何故バーレスクの位置を特定できたのか聞くと、ガーブランドは兜に手を掛けた。
 古傷があるという顔面は見せず、兜を少し持ち上げて顎の下部分を見せてくれた。

「ここに刻印があるだろう。これはリゼットが刻んだものだ」

 リゼットの刻印は刺々しい見た目をしていた。ルルニアに刻印と淫紋の違いを聞いてみると、呼び方が違うだけで同じものだと教えてくれた。

「しいて言うなら、男性に使う時は刻印で女性に使う時は淫紋と呼びます。厳格な決まりがあるわけではないので、地域によって微妙に異なります」
「リゼットはこれを戦闘時の意思疎通の手段として活用した。声も目線も交わさず完璧な連携を取る吾輩らは、はたから見れば異様だったであろう」

 戦鬼と美姫、二人一緒に名を語られるのも当然だ。ガーブランドは刻印を手で撫で、上げた兜を戻した。そして位置を特定するに至った理由を紡いだ。

「この刻印はリゼット・バーレスクのものだ。これがある限り、吾輩は刻印を刻んだ者の位置を見失うことはない。この意味が分かるか」
「魔物は魂を二つ持って生まれる。リゼットが死んでもバーレスクが生きてるなら、位置を特定するのは可能。……ということですか?」

 ガーブランドは然りと言った。何故こんな重大な話を伏せていたのか聞くと、俺たちの関係性に亀裂が出るのを避けるためと答えた。

「人間と魔物の恋など、水面に浮く泡のようなものだ。出会ったばかりの頃に魂を乗っ取られると告げられて、それで今のように愛することができたか?」
「それは……確実にできたとは言い難いです」
「私も同意です。良い判断だったと思います」

 納得はするが、未だ重大な懸念があった。それほど魂の乗っ取りを成功させているバーレスクなら、事実が明るみになった今こそ姿を現すのではと思った。

「可能性はあった。だがそれはもう過去のことだ」

 すでにバーレスクは姿を見せていたと、恐ろしいことを言った。最も危険だったのは湖での出来事、ルルニアの処女を奪って膣内射精した時だと知った。

「バーレスク出現の予兆を感じ取り、吾輩は湖の近くの森で隠れていた。肉体の変貌に合わせて瞳が赤くなるのを見て、一度は大剣の柄に手を掛けた」
「……あの暴走はサキュバスの本能ではなかったんですね」
「意識が奪われる瞬間、お主は逆にバーレスクの意識を刈り取った。あれほど痛快な光景はなかった。吾輩は監視を続け、朝の遭遇戦に繋がるわけだ」

 ドーラに精気を奪われかけていた時、何の前触れもなくガーブランドが現れた。俺たちを見守ってくれていたがゆえの結果と知り、深く頭を下げた。

 ここまでの話を聞いてニーチャが「だから会えた」と喜んだ。温かな二人のやり取りを眺め、俺は今後のために取れる対策は何かないのかと聞いた。

「やる気に水を差すようで悪いが、これといった対策を打つ必要はない。現時点での話にはなるが、バーレスクが復活する可能性はなくなった」
「どういう意味でしょう?」
「お主の妻の力がバーレスクを上回ったのだ。奴は確かに強力だが、歴然とした差があれば封じ込める。ある意味で吾輩の仇討は終わったのだ」

 予想もしていなかった言葉を受け、ルルニアと脱力した。
 これで一件落着だと思うが、ガーブランドは忠告した。

「奴は今、あの手この手で肉体の主導権を奪おうとしているところであろう。魔力の低下に体調不良に精神の弱まり、それらが重なれば」
「……身体を乗っとられるかもしれないんですね」
「が、しかしだ。さして構えることもなかろう。体調が悪い程度でどうこうなるものではない。今まで通りに過ごして問題はないはずだ」

 よほど不測の事態が起きない限りは、と言われた。
「…………食べれば治りますし、悪いことにはなりませんよね?」

 何とも言えなかった。俺たちを慮ってか、ガーブランドはしばらく家の近くに修行の場を移すと言った。こうしてバーレスクの話は一度終わった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...