エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第百八話『クレア1』

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 遅めの昼食を済ませた後は採取に出かけた。帰宅後は裏庭で斧を振り、割った薪を軒下に積み上げた。山から持ってきた分を片付け終えると、食堂から夕食の良い香りが漂ってきた。

「…………今日はこの辺で切り上げるか」

 家に入ろうとすると、裏手の森から物音がした。冬眠前で殺気立った熊が現れたかと思って身構えると、暗がりからガーブランドが現れた。
 太腕に携えていたのは薪に使える木の束だ。修行中に俺が拾い集めているのを見たらしく、近くを通りがかったついでに持ってきたそうだ。

「ついでですか、それにしてはずいぶん多いですね」
「本音を言えばお節介を焼きたくなったのだ。朝に言った通り、お主たちが幸せに生活しているのを見るだけで吾輩の心が救われる」
「取り戻せなくても、新しく始めることはできますよ」
「ニーチャか。好かれて悪い気はせねが、諦めてもらう他あるまい。何と言われようと何をされようとも、吾輩にそんな意思はない」

 ガーブランドは達観した声で言い、夕暮れ時の空を眺めた。
 その出で立ちは儚く寂しく、ニーチャでなくても放っておけなかった。

「俺たちのために尽くして、本当にそれだけでいいんですか?」
「無論だ」
「ニーチャじゃなくても、他の誰かと添い遂げてもいいのでは?」
「それはリゼットに対する裏切りに他ならぬ。あやつ自身の口から叱咤激励でもされれば別だが、そんな奇跡は起こりえまいよ」

 ガーブランドの心には強固な壁があった。今後どれだけ親しくなっても、先の関係に進むための鍵は死したリゼットの手にしかない。俺は保護者として何かできないか考え、言質を取った。

「だったらリゼットさん本人からニーチャを認めていいと言われたら、真剣にお付き合いを考えていただけますか?」
「……お主、何を言っている」
「バカバカしいことだと俺も思います。ですが魔力に不可能はありません。死者との対話が叶うことだって十分あり得ます」

 食い気味に言う俺を見て、ガーブランドは兜越しに苦笑した。

「ふっ、いいであろう。再びリゼットとの会話が叶うなら吾輩の未練は消える。その時はニーチャの想いに正面から向き合うと約束しよう」
「ありがとうございます!」
「その礼は受け取らんぞ。吾輩はお主ほど魔力に対して期待してはおらん。あれは人を殺すための力、この背にある大剣とさして変わらぬ」

 十人に聞けば十人がガーブランドの考えを正とするだろう。だが俺はルルニアとの間に子ができたと信じると決めた。この約束は大きな前進だった。

 森に帰ろうとするガーブランドを引き止め、一緒に夕食を食べないか誘った。逡巡もなく断られるが、めげずに声を掛け続けた。そこで援軍が到着した。

「お兄さん、おじさん、二人でどうしたの?」
「実は夕食を食べて行かないかって誘ってたんだ。俺のお願いだけじゃ聞いてくれそうにないから、ニーチャからも言ってくれないか?」
「待て、そんなことを言うな。卑怯であろう」
「え、え! おじさん、一緒にごはん食べてくれるの! やった、じゃあ早くお家入ろ。ルルニアにはニーチャがお願いするから、ね!」

 根気強く手を引かれ、ガーブランドは困った。俺は隙をついて背中側に回り、闘気の力で身体を押した。力を合わせて玄関口まで連れて行くと、ルルニアが扉を開けた。

「どうぞ、お皿の用意もしてありますよ」

 夕食はシチューであり、一人増えても問題なかった。俺とルルニアが並んで座り、対面にニーチャとガーブランドが座った。残されたプレステスは顔を右往左往させ、俺の隣に座ろうとした。が、

「まさかそこに座る気じゃないですよね?」
「はひっ!? ご、ごめんないです!」
「では夕食も冷めますし、食べましょうか」

 ガクガクブルブル震えるプレステスを視界の端に置き、楽しい夕食を摂った。ガーブランドは炊き出しの場にすら顔を出さなかったため、全員から興味関心を向けられた。

「そんな目を向けられたところで、吾輩ができる話はないぞ」
「奥さんの話、ニーチャよく知らない。教えて?」
「それは構わぬが、夕食の場でするような話題ではあるまい」

 遠回しに断られるが、ルルニアも知りたいと言った。ガーブランドは兜の面頬の隙間にスプーンを入れ、以前に語り聞かせてくれた戦姫と美姫の話をした。途中からは酒樽も開けて語り明かした。

 ガーブランドが帰った後は食堂の片づけを行った。それが済んだら二階に上がり、ニーチャとプレステスにお休みを告げた。自室に入って見たのは、憂い気に外の月を見上げているルルニアだった。

「…………クレアのことを考えていたのか?」

 扉を閉めながら聞くと、ルルニアは無言で頷いた。回り込むように歩いて窓の前に行くと、ベッドの縁を叩いて隣に座るよう促してくれた。

「ずっと話をしなかったのは、思い出すと辛くなるからか?」
「……そうですね。本当に変わったのか私相手なら変わらず接するのか、悩みがつきませんでした。今すぐにでも会って確かめたいですが、それはできません」

 これが結婚式の直後ぐらいならば、快くルルニアを送り出せた。今は急な不調がつき纏うため、アストロアスから出すわけにはいかない。だから夫として言った。

「向こうから来た場合を除いて、クレアと会うようなことはしないで欲しい。どれだけ辛い思いを抱えていても、今は俺とお腹の中の子を優先してくれ」

 家族か友人か、我ながら酷い二択を突きつけたものだと思った。だがルルニアは安心した顔をし、そう言ってくれる俺が好きだと肩に頭を乗せて言った。

「────ではどうか、クレアとの思い出話を聞いて下さいますか?」
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