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第百十一話『未来への展望1』
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目覚めのまどろみの中、下半身から温もりを感じた。陰茎ははち切れんばかりに勃起しており、今にも射精しそうな状態となっている。俺は眠気と快感の狭間で身を震わせた。
「…………今のは危なかったですね」
足元からくぐもった声が聞こえ、クポクチュと水音が鳴る。シーツを握りしめて耐えようとするが、抵抗虚しく射精した。俺は気絶するように目を閉じ、ハッと起き上がった。
「────やばっ……って、あれ?」
慌ててシーツを剥がすが、パンツは履いた状態だった。
夢精したということもなく、陰茎は奇妙なほど萎えていた。
ルルニアは化粧台の方におり、鼻歌を奏でて髪をとかしていた。
「あなた、どうかされましたか?」
「……ついさっきまで俺に何かしてたか?」
「いえ、見ての通りここに座っていただけですが」
俺の問いかけにルルニアは首を傾げた。昨夜やりまくった影響で変な夢を見たのかと思っていると、ルルニアの口に黒い線がついているのを見つけた。
「口のここ、俺の髪の毛か何かがついてるぞ」
「え、あ、そうですね。気づきませんでした」
ルルニアは少し慌てた様子で口の毛をつまんで取った。それが済んだら羊皮紙に黒のインクで一本線を引くが、何かの回数を数えているように見えた。
「……何回までバレずにいけますかね。ふふっ」
楽し気に笑う顔を見て、色々とどうでも良くなってきた。
窓の外を見るとちょうどいい時間であり、一階に下りた。
朝食の準備を済ませて二階に声を掛けると、三人が同時に下りてきた。ルルニアとニーチャに挟まれる形で現れたのは、女性用の使用人服を身に着けたプレステスだった。
「どうです、あなた。似合うと思いませんか?」
色は白と黒を基調としており、肌の露出は全体的に抑えられている。足首の先まで伸びたスカートの中は三重構造になっており、裾をまくるとフリルが覗く。暖かそうな装いだ。
「こ、こんなお召し物いただいていいんでしょうか……?」
よほど気に入ったのか、遠慮がちな物言いに反して口が上ずっていた。
「この服はどこで手に入れたんだ?」
「ミーレさんが家から持ってきた衣装箱に混ざっていたんです。使おう使おうと思っているうちに忘れて、今朝引っ張り出しました」
元は村長の家で働いていた女性の使用人のための物らしい。大きさも見た目もプレステスに合っており、姿勢良く立たせれば熟練の使用人に見えた。
「プレステ、ズボンよりそっちの方が似合う」
「で、ですかね? お世辞でも嬉しくなちゃいますね、ふへへへ」
「スカート摘まんでお辞儀してみて、こんな感じ」
お披露目の後は朝食を摂り、それぞれの持ち場に移動した。
ルルニアが皿の片付けを行い、俺が前日の衣類を洗っていき、プレステスが籠の中身を竿に干した。ニーチャは薬草畑に水やりを行い、滞りなく朝の家事を終わらせた。
「意外に手慣れてるんだな」
「え、えと、服を洗うのは下っ端の仕事だったので、自然と身体が覚えました。わたしみたいな無能にはこれしか能がなくて……」
「そんなことはない。仮にサキュバスとして劣っていても、ここでは何の関係もない。強さ以上に隣人を思いやる気持ちが大事だ」
「上手くやれます、かね?」
もちろん、と返すとプレステスは口をニマニマさせた。
「そういえば初対面の時に感知能力が高いって言ってたな。クレアや群れのサキュバスがアストロアス周辺に現れたら気づけるのか?」
「は、はい。一定の距離に来れば何とか……」
「気配を察知したら逐一知らせてくれ。対処は俺たちでする」
「あ、ありがとうございます。それで他の子のことですが……えと」
捕まえたら同じように受け入れてくれるのかと、今後の処遇を尋ねてきた。俺は本人の意思次第だと応え、むしろ仲間に引き込めそうなサキュバスがいるか聞いてみた。
「む、群れの下っ端サキュバスは全部で八人です。クレアさんに忠誠を誓っている子は……たぶん一人二人しかいません。ただ説得に応じる子がいるかと言うと、その……」
難しそうだと言われた。予想はしていた解答だった。
「……だ、旦那様にはこれといった展望があるのですか?」
「展望?」
「……わたしが人数を言った時、期待の揺らぎが見えたので」
これも感知能力の賜物だろうか、プレステスは心の内に秘めていた思いすらも見抜いてみせた。俺は理想論だと前置きし、軒下の壁に背を預けて言った。
「魔物は動物を襲わず、人間のみを襲って血肉を喰らう。知能を持った魔物相手ならと共存を図った者はいたが、一例を除いて失敗に終わった」
肉を喰わぬというヴァンパイアですら、血の多量摂取が必要となる。だがこれがサキュバスとなれば話が変わる。淫紋による調整こそ必須だが、人体を傷つけずに精気の摂取が可能だ。
「俺が知る範囲で唯一、サキュバスのみが人類と共存できる。アストロアスが目指す理想の形として、そんな在り方も良いんじゃないかって思ったんだ」
「…………それは、えと」
「いい、無理なのは分かってるんだ。でももし俺が生きているうちに共存の基盤を築ければ、三人は何年でもここで暮らせる。そう考えて至った願望だ」
人間とサキュバスの寿命には五倍以上もの開きがある。昨日の夜にクレアとの別れ話を聞かされ、自分が死んだ後のことを考えるようになった。
ルルニアに言うと悲しませるため、口外しないように言いつけた。寒くなってきたので家に戻ろうとするが、プレステスは軒下で立ち尽くした。
「……旦那様の願い、わたしたちの未来……ですか」
最後の呟きは吹きつける風でよく聞こえなかった。
「…………今のは危なかったですね」
足元からくぐもった声が聞こえ、クポクチュと水音が鳴る。シーツを握りしめて耐えようとするが、抵抗虚しく射精した。俺は気絶するように目を閉じ、ハッと起き上がった。
「────やばっ……って、あれ?」
慌ててシーツを剥がすが、パンツは履いた状態だった。
夢精したということもなく、陰茎は奇妙なほど萎えていた。
ルルニアは化粧台の方におり、鼻歌を奏でて髪をとかしていた。
「あなた、どうかされましたか?」
「……ついさっきまで俺に何かしてたか?」
「いえ、見ての通りここに座っていただけですが」
俺の問いかけにルルニアは首を傾げた。昨夜やりまくった影響で変な夢を見たのかと思っていると、ルルニアの口に黒い線がついているのを見つけた。
「口のここ、俺の髪の毛か何かがついてるぞ」
「え、あ、そうですね。気づきませんでした」
ルルニアは少し慌てた様子で口の毛をつまんで取った。それが済んだら羊皮紙に黒のインクで一本線を引くが、何かの回数を数えているように見えた。
「……何回までバレずにいけますかね。ふふっ」
楽し気に笑う顔を見て、色々とどうでも良くなってきた。
窓の外を見るとちょうどいい時間であり、一階に下りた。
朝食の準備を済ませて二階に声を掛けると、三人が同時に下りてきた。ルルニアとニーチャに挟まれる形で現れたのは、女性用の使用人服を身に着けたプレステスだった。
「どうです、あなた。似合うと思いませんか?」
色は白と黒を基調としており、肌の露出は全体的に抑えられている。足首の先まで伸びたスカートの中は三重構造になっており、裾をまくるとフリルが覗く。暖かそうな装いだ。
「こ、こんなお召し物いただいていいんでしょうか……?」
よほど気に入ったのか、遠慮がちな物言いに反して口が上ずっていた。
「この服はどこで手に入れたんだ?」
「ミーレさんが家から持ってきた衣装箱に混ざっていたんです。使おう使おうと思っているうちに忘れて、今朝引っ張り出しました」
元は村長の家で働いていた女性の使用人のための物らしい。大きさも見た目もプレステスに合っており、姿勢良く立たせれば熟練の使用人に見えた。
「プレステ、ズボンよりそっちの方が似合う」
「で、ですかね? お世辞でも嬉しくなちゃいますね、ふへへへ」
「スカート摘まんでお辞儀してみて、こんな感じ」
お披露目の後は朝食を摂り、それぞれの持ち場に移動した。
ルルニアが皿の片付けを行い、俺が前日の衣類を洗っていき、プレステスが籠の中身を竿に干した。ニーチャは薬草畑に水やりを行い、滞りなく朝の家事を終わらせた。
「意外に手慣れてるんだな」
「え、えと、服を洗うのは下っ端の仕事だったので、自然と身体が覚えました。わたしみたいな無能にはこれしか能がなくて……」
「そんなことはない。仮にサキュバスとして劣っていても、ここでは何の関係もない。強さ以上に隣人を思いやる気持ちが大事だ」
「上手くやれます、かね?」
もちろん、と返すとプレステスは口をニマニマさせた。
「そういえば初対面の時に感知能力が高いって言ってたな。クレアや群れのサキュバスがアストロアス周辺に現れたら気づけるのか?」
「は、はい。一定の距離に来れば何とか……」
「気配を察知したら逐一知らせてくれ。対処は俺たちでする」
「あ、ありがとうございます。それで他の子のことですが……えと」
捕まえたら同じように受け入れてくれるのかと、今後の処遇を尋ねてきた。俺は本人の意思次第だと応え、むしろ仲間に引き込めそうなサキュバスがいるか聞いてみた。
「む、群れの下っ端サキュバスは全部で八人です。クレアさんに忠誠を誓っている子は……たぶん一人二人しかいません。ただ説得に応じる子がいるかと言うと、その……」
難しそうだと言われた。予想はしていた解答だった。
「……だ、旦那様にはこれといった展望があるのですか?」
「展望?」
「……わたしが人数を言った時、期待の揺らぎが見えたので」
これも感知能力の賜物だろうか、プレステスは心の内に秘めていた思いすらも見抜いてみせた。俺は理想論だと前置きし、軒下の壁に背を預けて言った。
「魔物は動物を襲わず、人間のみを襲って血肉を喰らう。知能を持った魔物相手ならと共存を図った者はいたが、一例を除いて失敗に終わった」
肉を喰わぬというヴァンパイアですら、血の多量摂取が必要となる。だがこれがサキュバスとなれば話が変わる。淫紋による調整こそ必須だが、人体を傷つけずに精気の摂取が可能だ。
「俺が知る範囲で唯一、サキュバスのみが人類と共存できる。アストロアスが目指す理想の形として、そんな在り方も良いんじゃないかって思ったんだ」
「…………それは、えと」
「いい、無理なのは分かってるんだ。でももし俺が生きているうちに共存の基盤を築ければ、三人は何年でもここで暮らせる。そう考えて至った願望だ」
人間とサキュバスの寿命には五倍以上もの開きがある。昨日の夜にクレアとの別れ話を聞かされ、自分が死んだ後のことを考えるようになった。
ルルニアに言うと悲しませるため、口外しないように言いつけた。寒くなってきたので家に戻ろうとするが、プレステスは軒下で立ち尽くした。
「……旦那様の願い、わたしたちの未来……ですか」
最後の呟きは吹きつける風でよく聞こえなかった。
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