エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第百十二話『未来への展望2』

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 ニーチャに留守を任せ、ルルニアとプレステスを連れて山を下りた。アストロアスの門番には使用人を雇ったと説明し、怪しまれることなく中へ入った。
 大通りに足を踏み入れてすぐ、プレステスは辺りを見回した。建築中の建物にはさほど興味を示さず、往来を行き交う人々を真剣な顔で見定めていった。

「……旦那様やサキュバス殺しさんみたいな人はいないですね」

 上質な精気持ちの人間は極めて稀だ。失望されてしまったかと思うが、違った。この人は安全だとかこの人は要注意だとか、明らかに食欲以外の物差しで人を見ていた。

「プレステスは人の感情の動きが分かるのか?」
「……立ち昇る精気の揺らぎで分かります。例えばそこの出店の主人ですが、揺らぎが不規則です。お客さんを騙そうとしてるかもです」
「ちょっと待ってろ。何を売ってるか見てくる」

 店先には魔物の素材を加工して作ったという装飾品が並んでいた。
 完成度はそれなりに高く、素人の目線では粗が見つからなかった。

(……値段はややお高めってとこか。俺の目じゃ偽物だという理由を説明できないし、酒場に寄った後でミーレに話をしておくか。最近はロアの騎士団との連絡係も担ってるしな)

 何品か物色して戻ると、プレステスは路地に向かって歩き出した。
 ルルニアと顔を見合わせて後を追うと、そこには村の大工衆がいた。

「だからぁ! 何度も言ってんだろ! もっと早く建物を建てなきゃな! 冬に間に合わねぇんだよ! せっかくの機会を棒に振る気かよ!!」
「でもよ、サハク。こっちだって全力でやってんだ」
「はっ、家に帰って恋人と乳繰り合う時間があるのにか? アストロアスの噂を聞きつけて女が入ってきたからって絆されてんじゃねぇぞ!!」

 怒号を発しているのは大工頭に抜擢された『サハク』だ。血気盛んで仕事の腕前も一流だが、いささか性格に難がある。

 物陰で聞き耳を立てていると、三年以内にここを町にしようとするサハクの思惑を知った。議会では五年以内と見込みを立てており、建築を早めるよう催促もしてないはずだった。

「誰だってお前のようには動けないんだ。こっちはやりたいようにやらせてもらう」
「んだとぉ!?」
「サハク、やめるべ! こうやって喧嘩する方が時間の無駄だだ、仕事に戻っぞ!」
「ちっ、くそ!」

 持ち場に戻った後もサハクは不機嫌だった。このままの流れが続けば厄介なことが起きそうだと、そう思った時のことだった。
「────大きな揺らぎが一つ。旦那様の未来のため、修正しないと。わたしにできること、あの人の揺らぎを直すには…………」

 プレステスが淡々と呟きを発した。大丈夫かと声を掛けるが、返事をするより早く小走りで駆けた。路地を直進して道を折れ、大通りに戻ってきた。

 立ち止まった背中に追いつくと、香ばしい香りが鼻腔をくすぐった。近くには破損した家屋を修繕して作ったパン屋があり、外部のお客が店内を覗いていた。

「いらっしゃいませ、美味しいパンを食べませんか?」

 親しみのある声に客は顔を上げ、ヒッと息を呑んだ。店の奥から現れた女性店員の顔には何重にも巻かれた包帯があり、露出しているのは口と目元だけとなっていた。

「あぁ……いや、今回はやめておくかな。なぁ?」
「そ、そうだな。悪いな、次の機会に立ち寄るよ」

 逃げるように去る客を見て、女性店員は落ち込んだ。俺に気がつくと頭を下げ、買った傷薬がとても良いものだったと言ってくれた。そして店内に戻った。

「あなた、今の女性は?」
「……アレスタから来た難民だ。顔に大きな怪我を負って家族を失って、それでもめげずに働いている。アストロアスの皆は分かってくれるが……」

 外部から来た人はそうもいかない。顔の古傷については色々と込み入った事情があるが、それは口にはしなかった。

「────大きな揺らぎが二つ。これは怒りじゃなくて、悲しみ。もっと揺らいでしまう前に、わたしの力でできることを…………」
 プレステスはさっきの繰り返しのように呟き、また走った。

 到着した場所は女神と天使の像が置かれる予定の広場だ。ベンチも設置されて住民の憩いの場となっているが、今日は閑散としていた。理由の大部分を占めるのは花壇の前にいる男性だ。

「ここに我が父の像を置く案、議会に提出してくれましーたか?」
「あぁ、すいません。そっちはロア様が戻ってこないとどうにもならないんですわ。職人も手配できなくて、早くて五年先になりますかね?」
「五年!? ここの像が半年なら、もっと早くできーるはずです!」
「そんなことを言われましても、俺たちはロア様の直轄なので。アストロアスの警備に男爵さんの護衛もこなして、色々と手いっぱいでして」
「何が護衛ですーか! おいらを監視しているだけーではないですか!」

 変な語彙でわめいているのは領主の嫡男『チャック』だ。年は十九歳と若く、小太りな体型をしている。度々村に来て厄介事を振り撒く人物だが、ここ最近で被害を被った者はいなかった。

 防壁となってくれているのはロアの騎士たちだ。チャックが男爵の邸宅を出た瞬間に警戒態勢を発令し、護衛という名目で四六時中張りついてくれている。

(……ロアの騎士団には貴族の次男や三男が数人いる。男爵は爵位の中で最も低い位置にあるから、おいそれと暴力は振るえない。が、)

 身に沁みた暴言が口をついて出てしまっているようだ。ロアの騎士団の心労を察し、後でお礼をしようと決めた。そこでプレステスが言った。

「────大きな揺らぎが、三つ」
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