エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第百十五話『天使の神託2』

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 …………往来を行き交う人々を眺め、憂鬱なため息を吐く者がいた。名は『ラライ』、魔物災害で滅んだ町アレスタからアストロアスへ移り済んだ女性だ。

「────はぁ、早く世界が滅びないかな……」

 年齢は十八歳と若く、身体つきは痩せている。目立つのは顔を覆う包帯であり、その下には目元から肩にかけて火傷の痕がある。魔物災害でできた傷と周知されているが、実態は別物だった。

 ラライの父親は傍若無人であり、暇があれば暴言を浴びせて暴力を振るった。稼ぎはすべて賭け事に使い、借金を重ね続けた。我慢の限界がきた母親はラライを置き、別れも告げず家を出た。

『あの女、どぉこに行きやがった!!? ラライ、お前は知ってるんだろ!!』
『ひっ、し、知らない。知らないよぉ……!』
『いつまで泣いていやがる!! おれは腹が減ってんだ、早く飯を作れぇ!!』

 ある日スープの味が薄いと激怒し、それを顔面に投げつけた。出来立てな上に粉を溶いたスープだったため、一生モノの傷が残ってしまった。
 父親が問題ばかり起こすため、ラライも腫れ者扱いを受けた。直接的なイジメこそなかったが、遠巻きに同情の目を向けられるのが辛かった。

「…………でも死んだ。ちゃんとこの目で見た」

 ドラゴンによって町の壁が壊され、魔物が大量に侵入してきた。
 街道を進む難民の列に群れが追いつき、大勢の人が喰い殺された。

 ラライは足が遅く、我先にと逃げる父親の背を見送ることしかできなかった。石畳に足を引っかけて転んでも、助けを求めても振り返ってくれなかった。

『────あっ』

 だから目の前で魔物の牙に腹を貫かれた父親を見た時、心がスッと軽くなった。枷が外れたのだから生きねばと、ラライは無心で走って走って走りまくった。その果てに小さな村へと着いた。

 難民の中に見知った顔ぶれはおらず、温かく迎えられた。返り血を浴びていたおかげで顔の傷は古傷と認識されず、急患としてグレイゼルの元へ連れて行かれた。そしてラライは嘘をついた。

『この傷……魔物に体液を掛けられたせいでつきました! 最初からこんなだったわけではなくて、信じて下さい!』
 グレイゼルはいたわしい事情を察し、傷の正体を追求しなかった。

 ラライにとってアストロアスは故郷以上に居心地が良い場所だった。だが古傷の上に嘘を塗り固めたせいで、常に誰かを騙している罪悪感がつき纏った。自分は父親と同じ悪い人間なのだと追い詰められた。

「…………でも世界が滅んだら、ここの人たちも不幸になっちゃう。じゃあ死ぬのは私だけでいい……? そっか、何でこんなことに気づかなかったんだろう?」

 パン屋の仕事が終わり、帰路につく。新しい住居ができるまでの仮住まいの小屋に入り、天井を見上げる。そこに輪っかつきの縄が吊るされていた。
 ラライは胸中の罪悪感を薄めるため、毎晩自殺の真似事をしていた。椅子の上に立って輪っかに首を入れ、少ししたら降りる。それを繰り返していた。

「え?」

 しかしこの日は運がなかった。椅子は使い古しを譲ってもらった物であり、耐久に難があった。輪っかに首を通したところで足が壊れ、呼吸が断たれた。ラライは抵抗する間もなく意識を失った。

 次に目を覚ました時、ラライは豪華な一室の中にいた。
 夕方だったのに外は明るく、ここが天国かと錯覚した。

「…………お貴族様の家? ……見たことないけど」

 恐る恐るベッドに近づき、絹質のシーツに触れた。天国なら好きにしていいだろうと、ひと思いでベッドに飛び込んだ。腕を思いっきり伸ばすと、誰かの足にぶつかった。

「どうしましたですか? もっと寝転がっていいですよ?」
「…………女神様?」
「え、女神? す、すいませんが違いますです。た、立場的には何と言いますか、うーん。天使と呼んでもらうのが妥当かもしれないですね」

 ラライはベッドから離れ、首を垂れて謝罪した。顔を上げるようにプレステスが言うが、その場から動くことはできなかった。ごめんなさいと謝り続ける姿を見て、プレステスは苦笑した。

「……人間さんはわたしと似てるかもですね」

 プレステスはベッドを離れ、ラライの前に移動した。
 両手で肩を掴んで顔を上げさせ、包帯を外していった。
 ラライは顔を背けるが、プレステスは古傷に指で触れた。

「……やめて下さい。これ汚くて穢れてしまいます……から」
「そうなんですか? わたしは赤くて綺麗だと思いますけど」

 嘘偽りのない声にラライは動揺する。プレステスは目元の火傷にキスをした。表皮がないせいで感覚が敏感に伝わり、ラライは艶やかな声を発し始めた。

「……ひっ、んぁ!? ……天使様、何で……こんな」
「この傷からは悲しさと虚しさを感じますです。これがあったせいで、人間さんは死んでしまおうと思ったのではないですか?」
「……いいん、です。だって……私、皆を騙し……て」
「そう自分を卑下しなくていいです。騙したくて騙したわけじゃないって、ちゃんと分かりますから。あなたは素直で素敵な人です」

 服をはだけられ、乳房の上にキスをされた。そこでラライは驚き、反射で身を引いた。不敬なことをしたとまた謝罪するが、温かな抱擁を受けた。そこで繋ぎ止めていた心が決壊した。

「……私、死にたくない。……あんな男のせいで死にたくないよぉ」
「生きていいんですよ。辛い思いを吐き出せる場所がないなら、わたしが請け負うです。泣いても怒っても甘えても、全部聞いてあげますから」
「……何で天使様はそんなに優しいの……? こんな私に何で……」
「愛し合うことが大切だって教えられたです。人間さんは想像していたよりも脆くて儚くて、可愛いです。守ってあげたくなっちゃうです」

 力ある魔物ゆえの目線だったが、ラライには天使の慈悲にしか見えなかった。何をしたいかと問われ、強く抱きしめて欲しいと願った。ラライは時間が許される限り、温もりに包まれて過ごした。
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