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第百十九話『穿ち蝕む影』
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アストロアス近郊、ルルニアの縄張りの境界線。朝日を待つ暗がりの森にて、怪しい動きがあった。木々の影に身を潜めるのは悪い目つきの男たちであり、その手には剣や弓などの武器があった。
「お頭、部下たちの配置は完了しやした」
「おう、後は獲物が来るまで待機させろ」
威圧的な語気で喋るのは筋骨隆々な男性だ。年齢は四十前半で頭には髪がなく、目元や腕には濃い刺青がある。この集団……野盗を統率している頭目だった。
野盗の狙いはアストロアスへ向かう商会の馬車だ。各地から金を持った人間が集まってきていることに目をつけ、襲撃を仕掛けて略奪する計画を立てていた。
「……にしても大丈夫なんですかい? 森の中は言うなれば魔物どもの領域、管理された場所意外に長く留まってたら襲われるんじゃ?」
「おうよ。さすがの俺様だって魔物と戦えば負ける。森に潜んで襲撃なんてバカのやることだが、そこはアストロアス様さまってわけだ」
頭目の口から語られたのはアストロアスに関する噂だ。
魔物災害によって女神が降臨し、人類は勝利を手にした。付随して特定地域から魔物が姿を消し、住民は平穏を手にした。今いる場所もその恩恵に預かっているのだと言い切った。
「意外っすね。お頭はそういうの笑い飛ばす人だと思っていやしたが」
「より良き儲けのためなら俺様は神だって信じる。それだけのことよ」
「けどそんじゃあ、アストロアスに恩恵をもたらそうとする馬車を襲うおれらにも神罰が下るんじゃ? 頭上から雷とか落ちたら嫌ですぜ」
「だからこうしてギリギリの範囲に隠れ潜んでんだろうが。どうも女神様とやらはあの地にご執心、ここまで守るほどの余裕はないらしい」
数回の実地調査を経て、頭目は女神の加護が及ぶ範囲に当たりをつけていた。
「へぇ、神様なのにケチ臭い話っすね」
「実は魔物が女神に化けてるのかもな」
「はっ、そりゃ怖ぇ。顔を拝みてぇもんだ」
バカ笑いをして時間を潰していると、山向こうの空が白み始めた。目標とする馬車は早朝に道を通過する予定となっており、頭目は気合を入れるよう呼びかけた。
「…………ちっ、少しばかり飲み過ぎたな」
襲撃の時は間近に迫るが、急な尿意の催しがあった。頭目は馬車が現れたら声を掛けるように言い、単身で持ち場を離れた。適当な木の幹の前でズボンに手を掛けた時、仲間の悲鳴が聞こえた。
「ひ、ひぃ!? 何だこいつ!」
「化け物だぁ! 早く攻撃を……へ?」
「か、身体が動かねぇ!? 瞳が光って──……」
あちこちで断末魔が響き、数秒ごとに数を減らしていった。頭目は腰に差した短剣を抜き、無暗やたらと駆け出したりせず周囲の警戒をした。そして、
「…………声が消えやがった」
森は元の静寂を取り戻した。生き残りがいないか確かめたかったが、声を発することはできなかった。数々の修羅場を超えてきた経験と勘が、『何か』の脅威を痛いほど訴えていた。
「…………くそが、どこにいやがる!」
潜めた声で怒りを漏らすと、正面の茂みが揺れた。出てきたのは熊でも狼でもなく、奇怪な見た目の魔物でもなかった。見麗しい見た目の少女だった。
身長は百五十の中ごろと標準的で、作り物のように美しく無機質な顔立ちをしている。灰色の長髪を後ろ手に結び、薄紅色のドレスを着ていた。
頭目は夢でも見ているのかと己の目を疑った。この近くに町や村はなく、人が迷い込むことはありえない。微かに漂う血の匂いを嗅ぎ取り、仲間を殺したのが目の前の少女だと当たりをつけた。
「てめぇ、何者だ!!」
短剣を構えた瞬間、少女は口元だけを弓なりに持ち上げた。
「────あなたは遊んでくれるんだ。さっきの人たちは怖がるばかりだったからちょっと退屈だったけど少しは楽しめそうかも」
淡々としつつ一気にまくし立てる口調は人間のそれではなかった。
「アストロアスの女神って奴か?! ずいぶんなご挨拶じゃねぇか!」
「女神何それ違うけど」
「しらばっくれるんじゃねぇ! 俺様たちを殺しに来たんだろうが!」
無様に殺されるぐらいなら戦う道を選ぶ。叫びと共に刺突を繰り出すが、刃は横に逸らされた。少女は手に一本の槍を持ち、軽やかな体捌きで柄を頭目の腹にぶち当てた。
「ぐがっ!?」
「やっぱり人間は弱い食料以外の価値がない。でも果敢に立ち向かおうとした蛮勇は評価してあげる。最期のエッチはなるべくいい声で鳴いてね」
「何……言ってやがる!」
頭目は腹を抑えて立ち、少女に掴み掛かろうとした。だが接触の瞬間に瞳が輝き、身動きを封じられた。少女は槍を大きく振り回し、わざと致命傷にならない脇腹を裂いた。
戦いが終わり、少女は頭目を仰向けに転がした。かなりの出血だが息はあり、掠れ声で命乞いをしている。少女はそれを無視し、頭目のズボンを脱がして陰茎を膣に挿入した。
「もう少しぐらい生きられない? 少しは気持ち良くさせて欲しいんだけど」
「ぎ……が、ぐ……やめ……お……ぐぁっ」
タンタンタンタンという腰振りの抽挿音と共に死が近づいてくる。
「あ、出た。やっぱり死の間際の射精は良い味がするねごちそうさま」
「ひゅ……ふざ……け、な…………」
体内の精気を吸い上げられ、頭目は絶命した。少女は膣から陰茎を抜き、垂れた精子を指ですくった。微かに乱れた呼吸を整えながらスカートの土を払うと、空から新手のサキュバスが降りてきた。
「わっ、用心棒ちゃんつっよ! これ全部一人でやったの?」
「そうだけどそれが何?」
「人間を喰い殺せる力を持ってて羨ましいなって。探せば虫の息な人間が一人はいそうだけど、それはクレア様に止められてるからだめかぁ」
早く用件を言えと睨まれ、新手のサキュバスは答えた。
「探し人が見つかったってさ。逃げたプレステスにクレア様が意中とするルルニア様、それと用心棒ちゃんの狙いのサキュバス殺し」
「それは好都合ようやくこの手で殺せる」
「用心棒ちゃんが強いのは分かってるけどさ、相手はサキュバス殺しだよ。戦ったら負けちゃうかもって少しは思ったりしないの?」
「負けるはずがないだって知ってるから」
何が、という質問に少女は返事をせず歩いた。
ねぇ、という呼び掛けと共に名が告げられた。
「────槍使いのサキュバス、『トリエル・リゼット』ちゃん」
「お頭、部下たちの配置は完了しやした」
「おう、後は獲物が来るまで待機させろ」
威圧的な語気で喋るのは筋骨隆々な男性だ。年齢は四十前半で頭には髪がなく、目元や腕には濃い刺青がある。この集団……野盗を統率している頭目だった。
野盗の狙いはアストロアスへ向かう商会の馬車だ。各地から金を持った人間が集まってきていることに目をつけ、襲撃を仕掛けて略奪する計画を立てていた。
「……にしても大丈夫なんですかい? 森の中は言うなれば魔物どもの領域、管理された場所意外に長く留まってたら襲われるんじゃ?」
「おうよ。さすがの俺様だって魔物と戦えば負ける。森に潜んで襲撃なんてバカのやることだが、そこはアストロアス様さまってわけだ」
頭目の口から語られたのはアストロアスに関する噂だ。
魔物災害によって女神が降臨し、人類は勝利を手にした。付随して特定地域から魔物が姿を消し、住民は平穏を手にした。今いる場所もその恩恵に預かっているのだと言い切った。
「意外っすね。お頭はそういうの笑い飛ばす人だと思っていやしたが」
「より良き儲けのためなら俺様は神だって信じる。それだけのことよ」
「けどそんじゃあ、アストロアスに恩恵をもたらそうとする馬車を襲うおれらにも神罰が下るんじゃ? 頭上から雷とか落ちたら嫌ですぜ」
「だからこうしてギリギリの範囲に隠れ潜んでんだろうが。どうも女神様とやらはあの地にご執心、ここまで守るほどの余裕はないらしい」
数回の実地調査を経て、頭目は女神の加護が及ぶ範囲に当たりをつけていた。
「へぇ、神様なのにケチ臭い話っすね」
「実は魔物が女神に化けてるのかもな」
「はっ、そりゃ怖ぇ。顔を拝みてぇもんだ」
バカ笑いをして時間を潰していると、山向こうの空が白み始めた。目標とする馬車は早朝に道を通過する予定となっており、頭目は気合を入れるよう呼びかけた。
「…………ちっ、少しばかり飲み過ぎたな」
襲撃の時は間近に迫るが、急な尿意の催しがあった。頭目は馬車が現れたら声を掛けるように言い、単身で持ち場を離れた。適当な木の幹の前でズボンに手を掛けた時、仲間の悲鳴が聞こえた。
「ひ、ひぃ!? 何だこいつ!」
「化け物だぁ! 早く攻撃を……へ?」
「か、身体が動かねぇ!? 瞳が光って──……」
あちこちで断末魔が響き、数秒ごとに数を減らしていった。頭目は腰に差した短剣を抜き、無暗やたらと駆け出したりせず周囲の警戒をした。そして、
「…………声が消えやがった」
森は元の静寂を取り戻した。生き残りがいないか確かめたかったが、声を発することはできなかった。数々の修羅場を超えてきた経験と勘が、『何か』の脅威を痛いほど訴えていた。
「…………くそが、どこにいやがる!」
潜めた声で怒りを漏らすと、正面の茂みが揺れた。出てきたのは熊でも狼でもなく、奇怪な見た目の魔物でもなかった。見麗しい見た目の少女だった。
身長は百五十の中ごろと標準的で、作り物のように美しく無機質な顔立ちをしている。灰色の長髪を後ろ手に結び、薄紅色のドレスを着ていた。
頭目は夢でも見ているのかと己の目を疑った。この近くに町や村はなく、人が迷い込むことはありえない。微かに漂う血の匂いを嗅ぎ取り、仲間を殺したのが目の前の少女だと当たりをつけた。
「てめぇ、何者だ!!」
短剣を構えた瞬間、少女は口元だけを弓なりに持ち上げた。
「────あなたは遊んでくれるんだ。さっきの人たちは怖がるばかりだったからちょっと退屈だったけど少しは楽しめそうかも」
淡々としつつ一気にまくし立てる口調は人間のそれではなかった。
「アストロアスの女神って奴か?! ずいぶんなご挨拶じゃねぇか!」
「女神何それ違うけど」
「しらばっくれるんじゃねぇ! 俺様たちを殺しに来たんだろうが!」
無様に殺されるぐらいなら戦う道を選ぶ。叫びと共に刺突を繰り出すが、刃は横に逸らされた。少女は手に一本の槍を持ち、軽やかな体捌きで柄を頭目の腹にぶち当てた。
「ぐがっ!?」
「やっぱり人間は弱い食料以外の価値がない。でも果敢に立ち向かおうとした蛮勇は評価してあげる。最期のエッチはなるべくいい声で鳴いてね」
「何……言ってやがる!」
頭目は腹を抑えて立ち、少女に掴み掛かろうとした。だが接触の瞬間に瞳が輝き、身動きを封じられた。少女は槍を大きく振り回し、わざと致命傷にならない脇腹を裂いた。
戦いが終わり、少女は頭目を仰向けに転がした。かなりの出血だが息はあり、掠れ声で命乞いをしている。少女はそれを無視し、頭目のズボンを脱がして陰茎を膣に挿入した。
「もう少しぐらい生きられない? 少しは気持ち良くさせて欲しいんだけど」
「ぎ……が、ぐ……やめ……お……ぐぁっ」
タンタンタンタンという腰振りの抽挿音と共に死が近づいてくる。
「あ、出た。やっぱり死の間際の射精は良い味がするねごちそうさま」
「ひゅ……ふざ……け、な…………」
体内の精気を吸い上げられ、頭目は絶命した。少女は膣から陰茎を抜き、垂れた精子を指ですくった。微かに乱れた呼吸を整えながらスカートの土を払うと、空から新手のサキュバスが降りてきた。
「わっ、用心棒ちゃんつっよ! これ全部一人でやったの?」
「そうだけどそれが何?」
「人間を喰い殺せる力を持ってて羨ましいなって。探せば虫の息な人間が一人はいそうだけど、それはクレア様に止められてるからだめかぁ」
早く用件を言えと睨まれ、新手のサキュバスは答えた。
「探し人が見つかったってさ。逃げたプレステスにクレア様が意中とするルルニア様、それと用心棒ちゃんの狙いのサキュバス殺し」
「それは好都合ようやくこの手で殺せる」
「用心棒ちゃんが強いのは分かってるけどさ、相手はサキュバス殺しだよ。戦ったら負けちゃうかもって少しは思ったりしないの?」
「負けるはずがないだって知ってるから」
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