エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第百二十話『邂逅1』

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 安穏とした日々を切り裂くように、不穏な一報が入った。ルルニアの縄張りの境界線となる山中にて、複数人の死体が発見されたのだ。

 俺は騎士団の面々に協力を依頼され、現地に赴いた。魔物や動物に襲われたにしては逃げ惑った痕跡がなく、全体的に死体が綺麗だった。

「……身動きを封じられて、順に殺されたみたいだな」

 傷はどれも鋭利な刃物でつけられており、細い貫通痕が散見された。
 剣というより槍で殺された可能性が高く、かなりの腕前と推測した。

「槍? こんな森の中でよくもまぁそんな得物を振り回したな」
「騎士様の目線でもやはり難しいですか?」
「そりゃまぁ、槍は平地でこそ真価を発揮するもんだからな。ここまで木と木の間が詰まっていたら、満足に振り回すことはできないだろうぜ」

 年上の騎士はそんな見立てを語った。ふと目についた場所の土を観察すると、小さな靴跡を見つけた。少女が履く靴のようだが、死体にそれらしき人物はいなかった。

 気になって足跡の始まりを探ってみるが、どれも途中で途切れた。見落としがあったのかと思って来た道を戻っていると、遠くで別の騎士の声がした。

「────おい、こっちに来てくれ!」
 年上の騎士と向かった先には筋骨隆々な男性が倒れていた。下半身が丸出しになっており、用を足している最中に殺されたのでは話が出た。

「よく見るとこいつ、野盗団の頭目じゃないか?」
 聞けばかなりのお尋ね者だったそうだ。どこぞの賞金稼ぎが倒したのではという説まで出てくるが、それは年上の騎士によって却下された。

「首がないんじゃどこの町も賞金は出さないだろうぜ。荷物を持てない事情があったにしても、せめて耳ぐらいは回収したはずだ。普通ならな」

 騎士たちの会話を横耳に死体を調べ、一つ気になる点を見つけた。血の気の失せた陰茎のすぐ上、陰毛に乾いた精子が絡みついていたのだ。

(……死の間際に射精したのか? 仲間が殺されている状況で自慰なんてするはずがないし、もしかしてサキュバスに襲われて殺されたのか?)

 脳裏をよぎったのはクレアの名だ。下っ端のサキュバスは全部で八人、それだけ数がいるなら一人ぐらい槍使いがいてもおかしくはない。
 逃げ惑った痕跡がなかったのは、瞳の拘束術で動きを封じられたからだ。標的が棒立ちしているのなら、森の中だろうと楽に槍が振れる。

「クレアの群れが、ルルニアの縄張りに侵入したのか」
 そう断定し、俺は野盗の頭目の検死を終えた。

 群れの行動理由として考えられるのは、ルルニアとの再会とプレステスの回収だ。説得が通じるなら事態を丸く収める方法もあるが、無理な場合は厄介だ。

(……町中で暴れられたら、正直言って収拾がつかない。それを止めるためにルルニアとニーチャが力を使えば、サキュバスだってことがバレる)

 俺は焦りを抑え、アストロアスに帰還すべきと進言した。
 年上の騎士も同意し、迅速に野盗の死体を片付けていった。
 馬を駆って来た道を戻り、三十分ほど掛けて門前に到着した。

 検死の依頼料は後日受け取ることにし、大通りを走った。途中で中古屋に寄るが、ニーチャは無事だった。俺は仕事が終わっても中で待っているように言いつけた。

「むー……? よく分かんないけど、分かった」

 ニーチャと別れ、近道をして酒場へ向かった。まだ開店には早く、店先に並んでいる人はいなかった。俺は何事もないことを祈って扉を開けた。

「────すいません。まだ準備中で……って、あなた?」

 店の中には給仕服姿のルルニアがいた。近寄るとハンカチを取り出し、額の汗を拭ってくれた。何があったのか聞かれたため、包み隠さず状況を伝えた。

「……アストロアス内にクレアの群れが侵入したかもしれない。縄張りの境界線に野盗の死体があって、性行為らしき痕跡もあった」
「……プレステスは無事でしょうか?」
「……家にはガーブランドの守護がある。ある意味で一番安全だ。俺はこれから家に帰って、群れの気配を察知したか聞くつもりだ」

 声を潜めて会話していると、裏口から店長が出てきた。ルルニアは目を閉じて逡巡し、今日は日暮れを境に帰宅してもいいか聞いた。すると快い返事がきた。

「サキュバスは夜の魔物ですし、昼に大きな動きはないと思います。あなたは家で守りを固め、私が飛んで帰宅するのを待っていて下さい」
「…………それでいいのか? 一度戻ってきた方が……」
「私はドラゴンを上回る力を持ったサキュバスですよ。クレアだろうと下っ端のサキュバスだろうと、敵ではありません。ご心配なく」

 不安ではあったが、今はプレステスに確認を取るのが急務だ。ルルニアの傍を離れて出入り口を目指そうとした時、コンコンとノックがあった。 

 近くにいたのは店長であり、扉を開けた。逆光を背に立っていたのは女性であり、どこか見覚えがあった。そして続く声で警戒心が跳ね上がった。

「────やっほ、ルルニア。元気してた?」
 そこにいたのはクレア・ボルデンその人だった。
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