エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第百二十一話『邂逅2』

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「…………クレア、本当にクレアですか?」

 ルルニアは冷静さを欠き、クレアの元に駆け寄ろうとした。俺が腕を横に出して行く手を阻むと、正気を取り戻してその場に留まってくれた。
 警戒心を露わにして睨みつけるが、クレアは人当たりの良い笑みを崩さなかった。俺たちの様子を見て店長は困惑し、ルルニアに声を掛けた。

「この方はミハエルさんのお知り合いかな?」
「……友人です。久しぶりの再会で驚いてしまって」
「込み入った事情がありそうだし、開店まで話をしていくかい?」

 流れ次第ではここで戦闘が起きかねず、申し出を断ろうとした。するとクレアが先に動き出し、店長の眼前にズイと近づき、魅惑の上目遣いで感謝を述べた。

「ありがとうございます! 実は歩き通しで疲れてたんですよ!」
「あ……と、そうかい。自分は倉庫で荷物の整理をしているから、何かあったら声を掛けてね。代金を支払うなら飲み物は好きに出していいから」

 サキュバスの美貌にたじろぎ、店長は倉庫の中に消えた。
 しばらく戻らなさそうと思っていると、クレアが動いた。

 微笑はそのままに俺を見つめ、前かがみになった。わざときつい服を着ているのか、胸がはち切れんばかりに強調されている。表情を観察した後は距離を取り、近くのテーブル席に座った。

「ほらほら、そんなとこに立ってないでこっちきてよ!」
 一緒に話をしようと誘ってきた。戦闘の意思がないならこちらから仕掛ける理由もなく、ルルニアと頷きを交わしてから対面の席に座った。

「……………………」

 積もる話があるはずだが、なかなか会話が始まらなかった。
 クレアは天板に両肘をつき、黙してルルニアの言葉を待った。

「……クレアはその、元気にしてましたか?」
「うん、元気だったよ」
「……お祭りの夜に何で、急にいなくなったんですか?」
「何だっけ、忘れちゃった」
「……私のことが、嫌いになったんですか?」

 心の奥深くに刺さっていた疑問が問われた。ここで初めてクレアは明るい表情を崩し、たははと笑って頭の後ろを掻いた。「ルルニアを嫌いになるわけない」と、お茶を濁さず回答した。

「そんなことよりさ、やるじゃん。信じられない量の精気を持った人間を捕まえてるし、こんなひっろい縄張りを作るなんて驚き」
「……私も心境の変化があったんです」
「ふぅん、よっぽどその人間が大事なんだね。あまりにも前と匂いが違うから、近くにくるまでルルニアだって気づけなかったよ」

 群れで何度か近くを通ったが、危険な魔物だと勘違いして避けていたそうだ。

「サキュバスなのに食料以上の感情を抱いた感じ? 変わり者のルルニアらしいと言えばらしいけど、それってどうなんだろうね? おめでとうって言うべきなのかな?」

 口調こそ親し気だが、どことなく圧を感じた。力ではルルニアが勝っているはずだが、完全に委縮してしまっていた。だから俺が口を挟んだ。

「ここに現れた理由は何だ。観光とは言わないよな?」
「決まってるでしょ。逃げた下っ端ちゃんの回収と、友達のルルニアを迎えに来たの。やっと戦力も整ったし、これからは一緒に暮らそうと思って」
「……戦力? 何を始める気なんだ?」
「誰もあたしとルルニアの仲を邪魔しない楽園を作るの。いくつか根づく町の目星をつけてたんだけど、それは不要になっちゃったかな」

 アストロアス以上の縄張りはないと、大手を振って言った。

「女神と天使に扮したサキュバスと、それを信仰する人間。ここにあたしの群れが加われば、どんな敵にも負けない聖地が完成すると思わない?」
「…………何を言って」
「噂を耳にした感じ、人間は食べさせない方針なんでしょ? そこの人間がいればお腹は満たせるだろうし、ルルニアらしい合理的な考えだね」

 クレアは窓の外を眺め、「決めた」と言った。
 視線を俺に向け、テーブルに身を乗り出した。

「────ねぇ、あたしたちを仲間として迎え入れてよ」
 俺に同意を求めてくるとは思っておらず驚いた。

「もちろん何の見返りもないわけじゃないよ。あたしは群れのサキュバスを魔物災害に苦しむ人間の元に派遣する。あの子たちを人類の天使にしてあげる」
「了承も取らずそんな大事なことを決めていいのか?」
「ちゃんとした利点があればいいんだよ。人間を助けるに足る報酬、例えばあなたの精気を下っ端ちゃんたちに分けてあげるのはどうかな」

 人類の未来のため、俺の身体を差し出せと言ってきた。
 ルルニアが席を立つが、クレアは顔色を変えなかった。

「そんな提案は飲めません! 同族を奴隷扱いしたばかりでなく、私のグレイゼルさえ同じ扱いをする気ですか! クレアとて許しませんよ!」
「それでたくさん人間が死んでも? あたしたちが力を合わせれば、人類は繁栄の道を切り開ける。今以上に多くの人間たちが喜ぶと思うけど」

 ねぇ、とクレアは再び俺に問うた。
「────数十万の人間を救える可能性を、あなたは捨てられる? エッチするだけで英雄になれるなら、選択肢は一つしかないんじゃないかな?」
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