117 / 170
第百十七話『天使の神託4』〇
しおりを挟む
…………男爵の嫡男『チャック』は机に座って頭を抱えていた。インクに浸したペンを手に持っては置きを繰り返し、気力を垂れ流すようにため息をついた。
「────何で、誰もおいらを認めないーのですか?」
窓の外にはレンガ造りの町並みが広がっている。ここは男爵領の中で最も栄えている町であり、チャックは中心部にある邸宅に住んでいた。
アストロアスまで馬車で二時間と、行き来にはそれなりの手間を要する。それでも定期的に通っていたのは、父からの言いつけが理由だった。
『よいーか、チャック。村一つまともに運用できぬようでは、誰もお前のことを認めん。次期当主として指揮を執り、二十歳になるまでに成果を上げてみせーるのだ』
チャックは自らの才気を示そうと意気込み、机上で考案した完璧な農業施策を実行しようとした。だが村人は「人手が足りない」や「説明が難しい」と言い、思い通りに動かなかった。
成果が出ぬまま四年が過ぎ、チャックは十九歳となった。また新たな農業施策を行おうとした時、王族のロアが現れた。そこからの展開は目まぐるしく、村は数ヵ月で生まれ変わった。
「お前に任せーていた村の件であるが、もう手出し無用だ。ロア様の逆鱗に触れるわけにいかぬし、女神様が降臨したという噂もあーる」
「ではおいらは?」
「望んでいた形ではないが、村は発展を遂げた。来月にも前年度の税収を超えるーため、これをもってお前は領主修行の任を解かーれる」
夕食の席で失望の目を向けられ、チャックは落ち込んだ。
「……何で誰も、おいらを認めてくれないーのですか?」
チャック考案の農業施策だが、内容は意外にまともだった。
失敗の原因は貴族と村人の貧富の差によって生じた認識の差だ。貧相な食事では新しい取り組みに挑む気力を捻出するのが難しく、また傲慢な態度のせいで信頼を築くことができなかった。
「……おいらは、どうすれば良かったんでーすか?」
家の中で居場所をなくし、村に行く理由すら失った。食い下がって年の終わりまで挑戦を続ける許可を得たが、新しい施策は思いつかなかった。
ベッドに寝そべって涙を流し、チャックは眠りついた。三時間が過ぎて町の明かりが消え去った頃、男爵の邸宅の上にプレステスが飛んできた。
「────良くないモヤモヤ、ようやく見つけたです」
ふと目を覚ますと、チャックは見慣れぬベッドに寄り掛かっていた。
顔を上げた先にはプレステスがおり、あまりの容姿端麗さに唖然とした。
「始めましてですね。人間さん」
「…………」
「あ、あれ? どうしたです? わたしの声、聞こえてますよね?」
プレステスは顔を覗き込もうと前かがみになった。連動して乳房がゆさっと揺れ、ほどよい形を保ったまま下に垂れる。それを見てチャックは暴走し、湧き立つ性欲のままプレステスに飛び掛かった。だが、
「ひ、ひぇぇ!? こ、怖いですぅ!?」
迫り来る顔面に鋭い平手打ちが飛び、チャックはベッドの外に飛んだ。
床に倒れてピクリともしないチャックの脇腹を、プレステスはプニプニとつついた。次第に身体がうずくまっていき、小太りな背中から嘆きの声が聞こえてきた。
「おいら……何をやってもうまくいーかないんです。これで領主になっても、虚しさを感じたまま生きることになーります。辛いーです」
「人間さんは、どうして欲しいですか?」
「あなたはアストロアスの女神……いや天使様でーすか? おいらの行いが正しかったのか間違っていーたのか、どうか教えてください」
チャックは威張らず驕らず、目の前のサキュバスを神の使いと勘違いして祈りを捧げた。プレステスは立ち上がって翼を広げ、温かな微笑みを送り……慌てた。
(……ど、どどどどど、どうしますです? エッチをしながらそれとなく言葉を投げ掛けるつもりだったのに、回答を求められてしまったですすすす!?)
これなら最初の飛び掛かりを受けるべきだったと、自らの失態を後悔した。
「…………天使様?」
チャックは疑問符を浮かべて顔を上げた。プレステスは混乱のまま手に鞭を出現させ、上半身目掛けて振るった。バチリという接触音と共に「おふっ!?」と叫び声が上がった。
「い、いいですか! い、今からこれで人間さんの罪を払います、です!」
そこから始まったのは痛みと快感による絶叫の応酬だ。
チャックは自ら身体を晒し、鞭で打たれることを受け入れた。思いつく限りの過ちを口し、痛みを罪の証明として受け入れる。行いのすべてを否定されるが、それが心地よかった。
「何もかもが罪だとするなら、おいらは生まれ変わるべきと、そういうことなんでーすね!?」
ならばもっと痛みが必要だと、上半身の服を脱ぎ捨てた。
プレステスは鞭を引き絞り、小太りな肌に腫れ痕をつけた。
「ぷぎっ!? 申し訳ありません! 申し訳ありません、天使様!」
「謝罪の声がなってないですよ? 本当は生まれ変わる気なんてないんじゃないですか?」
「そんな……ぶひっ! どうか、どうかお許しをお願いします!!」
足で頭を踏まれるが、苛立つのは陰茎ばかりだった。
指先だけでも触れたいと願うが、冷たく見下ろされた。
「どうしますですかねぇ? 人間さんはダメダメさんなので、もっと皆と仲良くしてからにしましょうか。それまでお・預・け・です」
「わ、分かりまーした! もう二度と村の者を見下しません! おいらはこれから心を入れ替えて頑張って、次こそ天使様に……え?」
激しくまくし立てる顔に、プレステスは手を添えた。前髪の奥にある瞳に臆病な感情は一切なく、相手の心意を見定めるような鋭い眼光が宿っている。
「────約束、ですよ。『子豚』さん」
愛のある罵倒を受け、チャックはその場で絶頂した。ゆっくりと身体を傾けていき、床に倒れて気を失った。その顔は幸せに満ち満ちていた。
「────何で、誰もおいらを認めないーのですか?」
窓の外にはレンガ造りの町並みが広がっている。ここは男爵領の中で最も栄えている町であり、チャックは中心部にある邸宅に住んでいた。
アストロアスまで馬車で二時間と、行き来にはそれなりの手間を要する。それでも定期的に通っていたのは、父からの言いつけが理由だった。
『よいーか、チャック。村一つまともに運用できぬようでは、誰もお前のことを認めん。次期当主として指揮を執り、二十歳になるまでに成果を上げてみせーるのだ』
チャックは自らの才気を示そうと意気込み、机上で考案した完璧な農業施策を実行しようとした。だが村人は「人手が足りない」や「説明が難しい」と言い、思い通りに動かなかった。
成果が出ぬまま四年が過ぎ、チャックは十九歳となった。また新たな農業施策を行おうとした時、王族のロアが現れた。そこからの展開は目まぐるしく、村は数ヵ月で生まれ変わった。
「お前に任せーていた村の件であるが、もう手出し無用だ。ロア様の逆鱗に触れるわけにいかぬし、女神様が降臨したという噂もあーる」
「ではおいらは?」
「望んでいた形ではないが、村は発展を遂げた。来月にも前年度の税収を超えるーため、これをもってお前は領主修行の任を解かーれる」
夕食の席で失望の目を向けられ、チャックは落ち込んだ。
「……何で誰も、おいらを認めてくれないーのですか?」
チャック考案の農業施策だが、内容は意外にまともだった。
失敗の原因は貴族と村人の貧富の差によって生じた認識の差だ。貧相な食事では新しい取り組みに挑む気力を捻出するのが難しく、また傲慢な態度のせいで信頼を築くことができなかった。
「……おいらは、どうすれば良かったんでーすか?」
家の中で居場所をなくし、村に行く理由すら失った。食い下がって年の終わりまで挑戦を続ける許可を得たが、新しい施策は思いつかなかった。
ベッドに寝そべって涙を流し、チャックは眠りついた。三時間が過ぎて町の明かりが消え去った頃、男爵の邸宅の上にプレステスが飛んできた。
「────良くないモヤモヤ、ようやく見つけたです」
ふと目を覚ますと、チャックは見慣れぬベッドに寄り掛かっていた。
顔を上げた先にはプレステスがおり、あまりの容姿端麗さに唖然とした。
「始めましてですね。人間さん」
「…………」
「あ、あれ? どうしたです? わたしの声、聞こえてますよね?」
プレステスは顔を覗き込もうと前かがみになった。連動して乳房がゆさっと揺れ、ほどよい形を保ったまま下に垂れる。それを見てチャックは暴走し、湧き立つ性欲のままプレステスに飛び掛かった。だが、
「ひ、ひぇぇ!? こ、怖いですぅ!?」
迫り来る顔面に鋭い平手打ちが飛び、チャックはベッドの外に飛んだ。
床に倒れてピクリともしないチャックの脇腹を、プレステスはプニプニとつついた。次第に身体がうずくまっていき、小太りな背中から嘆きの声が聞こえてきた。
「おいら……何をやってもうまくいーかないんです。これで領主になっても、虚しさを感じたまま生きることになーります。辛いーです」
「人間さんは、どうして欲しいですか?」
「あなたはアストロアスの女神……いや天使様でーすか? おいらの行いが正しかったのか間違っていーたのか、どうか教えてください」
チャックは威張らず驕らず、目の前のサキュバスを神の使いと勘違いして祈りを捧げた。プレステスは立ち上がって翼を広げ、温かな微笑みを送り……慌てた。
(……ど、どどどどど、どうしますです? エッチをしながらそれとなく言葉を投げ掛けるつもりだったのに、回答を求められてしまったですすすす!?)
これなら最初の飛び掛かりを受けるべきだったと、自らの失態を後悔した。
「…………天使様?」
チャックは疑問符を浮かべて顔を上げた。プレステスは混乱のまま手に鞭を出現させ、上半身目掛けて振るった。バチリという接触音と共に「おふっ!?」と叫び声が上がった。
「い、いいですか! い、今からこれで人間さんの罪を払います、です!」
そこから始まったのは痛みと快感による絶叫の応酬だ。
チャックは自ら身体を晒し、鞭で打たれることを受け入れた。思いつく限りの過ちを口し、痛みを罪の証明として受け入れる。行いのすべてを否定されるが、それが心地よかった。
「何もかもが罪だとするなら、おいらは生まれ変わるべきと、そういうことなんでーすね!?」
ならばもっと痛みが必要だと、上半身の服を脱ぎ捨てた。
プレステスは鞭を引き絞り、小太りな肌に腫れ痕をつけた。
「ぷぎっ!? 申し訳ありません! 申し訳ありません、天使様!」
「謝罪の声がなってないですよ? 本当は生まれ変わる気なんてないんじゃないですか?」
「そんな……ぶひっ! どうか、どうかお許しをお願いします!!」
足で頭を踏まれるが、苛立つのは陰茎ばかりだった。
指先だけでも触れたいと願うが、冷たく見下ろされた。
「どうしますですかねぇ? 人間さんはダメダメさんなので、もっと皆と仲良くしてからにしましょうか。それまでお・預・け・です」
「わ、分かりまーした! もう二度と村の者を見下しません! おいらはこれから心を入れ替えて頑張って、次こそ天使様に……え?」
激しくまくし立てる顔に、プレステスは手を添えた。前髪の奥にある瞳に臆病な感情は一切なく、相手の心意を見定めるような鋭い眼光が宿っている。
「────約束、ですよ。『子豚』さん」
愛のある罵倒を受け、チャックはその場で絶頂した。ゆっくりと身体を傾けていき、床に倒れて気を失った。その顔は幸せに満ち満ちていた。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる