エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第百十七話『天使の神託4』〇

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 …………男爵の嫡男『チャック』は机に座って頭を抱えていた。インクに浸したペンを手に持っては置きを繰り返し、気力を垂れ流すようにため息をついた。

「────何で、誰もおいらを認めないーのですか?」

 窓の外にはレンガ造りの町並みが広がっている。ここは男爵領の中で最も栄えている町であり、チャックは中心部にある邸宅に住んでいた。

 アストロアスまで馬車で二時間と、行き来にはそれなりの手間を要する。それでも定期的に通っていたのは、父からの言いつけが理由だった。

『よいーか、チャック。村一つまともに運用できぬようでは、誰もお前のことを認めん。次期当主として指揮を執り、二十歳になるまでに成果を上げてみせーるのだ』

 チャックは自らの才気を示そうと意気込み、机上で考案した完璧な農業施策を実行しようとした。だが村人は「人手が足りない」や「説明が難しい」と言い、思い通りに動かなかった。

 成果が出ぬまま四年が過ぎ、チャックは十九歳となった。また新たな農業施策を行おうとした時、王族のロアが現れた。そこからの展開は目まぐるしく、村は数ヵ月で生まれ変わった。

「お前に任せーていた村の件であるが、もう手出し無用だ。ロア様の逆鱗に触れるわけにいかぬし、女神様が降臨したという噂もあーる」
「ではおいらは?」
「望んでいた形ではないが、村は発展を遂げた。来月にも前年度の税収を超えるーため、これをもってお前は領主修行の任を解かーれる」

 夕食の席で失望の目を向けられ、チャックは落ち込んだ。
「……何で誰も、おいらを認めてくれないーのですか?」

 チャック考案の農業施策だが、内容は意外にまともだった。
 失敗の原因は貴族と村人の貧富の差によって生じた認識の差だ。貧相な食事では新しい取り組みに挑む気力を捻出するのが難しく、また傲慢な態度のせいで信頼を築くことができなかった。

「……おいらは、どうすれば良かったんでーすか?」

 家の中で居場所をなくし、村に行く理由すら失った。食い下がって年の終わりまで挑戦を続ける許可を得たが、新しい施策は思いつかなかった。
 ベッドに寝そべって涙を流し、チャックは眠りついた。三時間が過ぎて町の明かりが消え去った頃、男爵の邸宅の上にプレステスが飛んできた。

「────良くないモヤモヤ、ようやく見つけたです」

 ふと目を覚ますと、チャックは見慣れぬベッドに寄り掛かっていた。
 顔を上げた先にはプレステスがおり、あまりの容姿端麗さに唖然とした。

「始めましてですね。人間さん」
「…………」
「あ、あれ? どうしたです? わたしの声、聞こえてますよね?」

 プレステスは顔を覗き込もうと前かがみになった。連動して乳房がゆさっと揺れ、ほどよい形を保ったまま下に垂れる。それを見てチャックは暴走し、湧き立つ性欲のままプレステスに飛び掛かった。だが、

「ひ、ひぇぇ!? こ、怖いですぅ!?」

 迫り来る顔面に鋭い平手打ちが飛び、チャックはベッドの外に飛んだ。
 床に倒れてピクリともしないチャックの脇腹を、プレステスはプニプニとつついた。次第に身体がうずくまっていき、小太りな背中から嘆きの声が聞こえてきた。

「おいら……何をやってもうまくいーかないんです。これで領主になっても、虚しさを感じたまま生きることになーります。辛いーです」
「人間さんは、どうして欲しいですか?」
「あなたはアストロアスの女神……いや天使様でーすか? おいらの行いが正しかったのか間違っていーたのか、どうか教えてください」

 チャックは威張らず驕らず、目の前のサキュバスを神の使いと勘違いして祈りを捧げた。プレステスは立ち上がって翼を広げ、温かな微笑みを送り……慌てた。

(……ど、どどどどど、どうしますです? エッチをしながらそれとなく言葉を投げ掛けるつもりだったのに、回答を求められてしまったですすすす!?)
 これなら最初の飛び掛かりを受けるべきだったと、自らの失態を後悔した。

「…………天使様?」

 チャックは疑問符を浮かべて顔を上げた。プレステスは混乱のまま手に鞭を出現させ、上半身目掛けて振るった。バチリという接触音と共に「おふっ!?」と叫び声が上がった。

「い、いいですか! い、今からこれで人間さんの罪を払います、です!」

 そこから始まったのは痛みと快感による絶叫の応酬だ。
 チャックは自ら身体を晒し、鞭で打たれることを受け入れた。思いつく限りの過ちを口し、痛みを罪の証明として受け入れる。行いのすべてを否定されるが、それが心地よかった。

「何もかもが罪だとするなら、おいらは生まれ変わるべきと、そういうことなんでーすね!?」

 ならばもっと痛みが必要だと、上半身の服を脱ぎ捨てた。
 プレステスは鞭を引き絞り、小太りな肌に腫れ痕をつけた。

「ぷぎっ!? 申し訳ありません! 申し訳ありません、天使様!」
「謝罪の声がなってないですよ? 本当は生まれ変わる気なんてないんじゃないですか?」
「そんな……ぶひっ! どうか、どうかお許しをお願いします!!」

 足で頭を踏まれるが、苛立つのは陰茎ばかりだった。
 指先だけでも触れたいと願うが、冷たく見下ろされた。

「どうしますですかねぇ? 人間さんはダメダメさんなので、もっと皆と仲良くしてからにしましょうか。それまでお・預・け・です」
「わ、分かりまーした! もう二度と村の者を見下しません! おいらはこれから心を入れ替えて頑張って、次こそ天使様に……え?」

 激しくまくし立てる顔に、プレステスは手を添えた。前髪の奥にある瞳に臆病な感情は一切なく、相手の心意を見定めるような鋭い眼光が宿っている。

「────約束、ですよ。『子豚』さん」

 愛のある罵倒を受け、チャックはその場で絶頂した。ゆっくりと身体を傾けていき、床に倒れて気を失った。その顔は幸せに満ち満ちていた。
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