エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第百三十四話『出会いを紡いだ物語』

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 クレアとの戦いを越え、二日が経った。事件らしい事件は野盗の全滅騒動と中央区画で目撃された女神と魔物の戦いしかなく、大きな被害を被った住民はいなかった。これにより、

「ねぇねぇ、ルルニア! そこのお店を見てみようよ!」
「わっ!? 腕を引っ張らないで下さい! 転びますから!」
「ルルニアが遅いのが悪いんだよ。また置いて行っちゃうからね!」

 ルルニアとクレアが仲睦まじく出店を回る姿を見ることができた。
 港町にいた時より距離が近く、互いに飾らぬ笑顔を交わしていた。

「…………良かったな。ルルニア」

 俺は離れた位置で二人の様子を見守っていた。元々は家で帰りを待つつもりだったが、ルルニアから監視役になってくれと声を掛けられた経緯がある。

 クレアが足を運んだのは装飾品屋であり、煌びやかな品々に目を移ろわせた。遅れて息を切らせたルルニアが追いつくが、何かに気がついた顔をした。

「この店は前にプレステスが……」
 売り物が偽物かもしれないと、注意喚起してくれた場所だ。視線が店主の方へと向くが、そこには晴れやかな笑顔があった。

「お客さん、お目が高い。ここにある装飾品はここアストロアスで売られている魔物の素材を買い取り、このおれ自らが加工した一品だ」
「へぇ、できはいいね。でもこれ、お手頃価格過ぎて怪しくない?」
「クレア、そういうことをお店の人の前で言うべきでは……」
「もちろん全部本物だ。……と言いたいが、前は半分ぐらい偽物を混ぜてたんだ。そしたら天使様が夢に現れて過ちを諫めて下さってな」

 人を騙して金を稼ぐ行為に罪深さ感じていたところに、プレステスが現れた。
 もっと自分の腕前を信じて商売してもいいと言われ、心を入れ替えたそうだ。
 
 住民に売りつけた品は可能な限り返品や交換を行い、アストロアスの議会に足を運んで罪を告白した。初犯ということで罰則は軽く、今後は真面目な商売を始めたそうだ。

「…………ここの住民でもないのに慈悲を下さるなんて、さすがは天使様だ」
 感極まった様子の店主を、クレアが感心した様子で見ていた。

「でもそんなに暴露しちゃたら、お客さん逃げちゃうでしょ?」
「ぐっ、だが罪は罪だ! それは認めなくちゃならん! 商品の出来栄えには自信を持てたんだから、後は価値を分かってもらえるお客に売ればいいんだ!」
「へぇ、良い心意気じゃない。なら一つ買って行こうかな」

 クレアは並べられた品を物色し、ああでもないこうでもないと悩んだ。
 ルルニアもここで一品買うと決めたらしく、二人で意見を交わし合った。

「うーん。せっかくの贈り物だし、よそ行きの時にも使える物がいいよね」
「……私はこれにしますかね。あ、こちら代金です」
「え、早くない? ちょっと今何を買ったの? 被ったら嫌だから見せてよ」
「ダメです。私は前からこういう品と決めてたので」

 ルルニアが買ったのは桃色の石がはめ込まれた首飾りだ。祭りの夜に渡す予定だった首飾りと似た雰囲気があり、クレアによく似合いそうだった。

 少し経ってクレアが選んだのは真っ赤な石がはめ込まれた腕輪だ。石には『永遠の愛』という意味が込められているらしく、二人で微妙な顔をした。

「……いや、そういうつもりじゃなくってね。ただ似合うと思っただけで」
「……振った振られた、の後に永遠の愛はなかなか重いものがありますね」
「別のにする? でもこれ一個しかないんだけど」
「私は気にしませんよ。クレアが選んだ品ですし」

 クレアは別の装飾品を手に持って眺め、ああだこうだと悩んだ。
 結局は永遠の愛の腕輪を選び、ルルニアに指を突きつけて言った。

「言っておくけどね! あたしは諦めたわけじゃないから! 寿命はこっちの方が断然長いんだし、ずっと先に機会が巡ってくるかもだし!」
「……それ、何年先だと思ってるですか?」
「あ、酷い! どうせ無理と思ったでしょ! 独り身になった時に後悔したくなかったら、大人しくこれを受け取っておきなさい! ほら!」

 腕輪と同じぐらい真っ赤になったクレアを見て、ルルニアがクスッと笑った。
 差し伸べた右腕に腕輪が通されると、垂れた首に首飾りがそっと掛けられた。

「私の首飾りには『親愛と感謝』という意味が込められています。ずっと面倒を見てくれたこと、深い愛情で接してくれたこと、親友でいてくれることへの感謝です」
「……嬉しいけどさ、ルルニアも負けず劣らず重くない?」
「重いぐらいでいいんですよ。私たちはこの贈り物を手に、それぞれの明日へと進むんですから。何年でも何十年先でも、この日の思い出を振り返って行きましょう」

 湖から家に帰り、二人はとかく話し合った。これからクレアはどうするのか、捕えた群れのサキュバスの処遇についてなど、色んなことを決めたようだった。

『納屋で捕まってる子たちと話をしてきたんだけど、三人はここに残ってもいいんだってさ。他の子は迷惑にならないように連れて行くよ』
『……やはり行ってしまわれるんですね』
『まずいなくなった用心棒ちゃんを探して、ここを狙わないように説得しなきゃだしね。二人のお熱い夫婦生活の邪魔をするも心苦しいし』

 ルルニアは「傍にいて欲しい」という言葉を飲み込み、見送りを決めた。別れの前に贈り物を交換するという話になり、今の流れに繋がる。
 二人は出店から移動し、最後に女神と天使の広場を訪れた。陽光の下で平穏を享受する人々を眺め、目線を交わさずに手と手を繋ぎ合った。

「そういえばお腹の中の子どもだけど、どんな感じ?」
「少しお腹に張りが出てきたので確定かと」
「サキュバスだと三ヵ月程度だけど、人間はどれぐらいなの?」
「およそ十ヵ月と十日、と言われているそうですね」
「十ヵ月かぁ。じゃあそれぐらいしたらまた顔を出しにこよっかな」
「それじゃあ遅すぎです。二ヵ月に一回は顔を出して下さい」
「ルルニアの子どもだし、最高に可愛いんだろうね。あたしも人間の男だったらなぁ」
「その場合は出会えてませんよ。最悪は私に精気を吸われて死んでます」

 冗談を言って笑みをこぼし、クレアから繋いだ手を離した。

「せっかくのお招きだし、次は二ヵ月後ね。お土産いっぱい持ってくるから」
「無理はしないで下さいね。約束ですよ」
「分かってるって、今のあたしはだいぶ格下なサキュバスになっちゃたし」

 その言葉でめくられた服の裾の下には、ルルニアの淫紋があった。刻まれるのを望んだのはクレア自身であり、下っ端サキュバスのものより凝った見た目となっている。二人の愛と絆の証だ。

「これのおかげで彼氏くん以上の人、見つけてくるかもよ」
「そんなのいるわけないじゃないですか、頬をひっぱたきますよ」
「ひどっ、ここは頑張れって送り出すところじゃないの?」

 永遠に続きそうな会話は、何のきっかけもなく終わった。

「……さて、それじゃあ」
「……えぇ、そうですね」
「行ってくるよ、ルルニア。これからも元気で」
「行ってらっしゃい、クレア。無事を祈ります」

 ルルニアが手を振るのに合わせ、クレアは振り返ることなく歩き出した。時間が経つごとに背中が小さくなっていき、グスッと涙を呑む音が聞こえた。

 完全に姿が見えなくなったところでルルニアは目元を拭い、隣に立った俺の手を取った。今日の献立は何にしようかと、他愛のない会話で前に進んだ。

「────二人で続けていきましょう。クレアに誇れるような日々を、ずっと」
 俺たちの出会いを紡いでくれた物語が、幕を閉じた。
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