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第百四十話『ロアからの手紙2』
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今後の方針を決め、プレステスたちを屋敷に置いて騎士団の詰め所へ向かった。建物は畜産農家の家を改修したものであり、敷地内には立派な馬小屋がある。
騎士用の宿舎も建っており、中央区画では魔物の素材市場に次ぐ敷地面積を誇っていた。俺もミーレも来訪する機会が多く、警戒されることなく中に入った。
「すいません。火急でお伝えしたい用件があってきました」
受付にいた騎士に呼び出してもらったのは、ドーラの一件と野盗の検死で立ち会った年上の騎士だ。三十分ほど待って応接室で顔を合わせ、恭しく首を垂れた。
「いいっていいって、俺はロア様と同じでそういうのあんま好きじゃないからな。楽に座って話をしてくれていいぜ。堅苦しいと肩がこるってもんだ」
ミーレと俺とルルニアの順でソファに座り、ロアから連絡がなかったか聞いた。年上の騎士は思い当たる節がある顔をし、腕組みをして答えた。
「それが不思議でな。今回はミーレちゃん宛の手紙しかなかったんだ。いつもは王国での近況と隠語での愚痴と、事細かな指示が送られてくるんだが」
「……どこかに送り間違ったという線は?」
「そりゃまぁ、有り得はするだろうな。でも何か嫌な予感がすんだよ。これって理由さえあれば数人の騎士を連れて王都まで帰還するところなんだが」
期せずして望む言葉を引き出すことができた。
俺たちは顔を合わせ、ミーレ宛の手紙を渡した。
年上の騎士は文面を確かめ、眉間にシワを寄せた。
「……何だこりゃ。ロア様らしくもない文章だな」
副官目線でも違和感があると知り、疑惑は確信となった。騎士団総出でアストロアスから去るのかと聞くと、多くても十人ほどと返事があった。
「これが本人の意思で書かれたものって確証がないからな。俺たちをここから遠ざける目的かもしれんから、半分は残すことになると思うぜ」
王都への帰還に俺たちも同行できないかと頼んでみた。最初は難色を示されるが、ルルニアとミーレにも頭を下げられて年上の騎士は天井を仰いだ。
「まぁ……うーん、そうだな。ロア様にミハエル一家からのお願いはなるべく叶えて欲しいって頼まれてたし、どうにかしてやるよ」
「ありがとうございます!」
「感謝するのは早いぜ。王都には連れて行くと約束するが、王城に入れるかはロア様次第だ。そこの保証はできないと分かってくれ」
加えて同行者は四人までと言われた。護衛の負担や道中の食料、馬車の乗車限界を鑑みた結果らしい。それ以上の人員増加はできないと釘を刺された。
「……仲間との話し合いや諸々の引継ぎを考えると、旅立ちは四日目の朝か。俺が指揮を執るかは分からんが、今言った約束は守る。同行する時はよろしくな」
固く握手を交わし、俺達は騎士団の詰め所を出た。
屋敷に戻った後はプレステスたちを呼び、ミーレの部屋で一連の流れを説明した。トゥリとニャンはさして興味を示さなかったが、フェイが同行の進言をした。
「……わたし、できればついて行きたいです。……皆様の足手まといにはならないと約束しますので、どうかよろしくお願いします」
まとめ役不在でトゥリとニャンを放置するのは危険だが、プレステスが対応すると言った。感知能力に頼りたい場面が多そうだったが、大の人見知りという問題があった。
「な、何日も見知らぬ人と過ごすなんて無理です! 旦那様と奥様の頼みなら全力を尽くしますが、できればここに残りたいです!」
「仕方ありません。プレステスは残しましょう。守護者であるガーブランドが全力を出せないので、不在時の守りは任せますからね」
ニーチャはガーブランドの傍にいさせたいため、適任はフェイしかいなかった。ミーレもその方が助かるとのことで、旅の人員が決まった。帰宅後は俺から二人に話をした。
「王都に着くまでおよそ半月掛かります。問題事の解決に三日と見込んでも、帰還には一ヵ月以上の時間を要することになります。ですので」
「吾輩を家に置いておきたいということか」
「ガーブランドさんには暖炉の管理をお任せしたいと思います。火事になったら困るので、なるべく外ではなく中にいて下さると助かります」
「ニーチャなら教えれば覚えると思うが?」
最もな意見を口にされるが、ニーチャが首を高速で横に振った。すべては満足な環境で療養させるための方便であるため、無理と言っておいた。
「……そこのプレステスはどうだ」
「わ、わたしはお昼にミーレさんの屋敷に出かけることになってるんです。か、帰りが遅くなりますし疲れてすぐに眠っちゃいましゅ!」
「……そうか、ならば請け合おう」
押し問答をするかと思ったが、早い段階で諦めてくれた。ニーチャは首の横振りを止め、ガーブランドの腕に抱きついて一緒に寝ないかと誘った。が、逡巡の間もなく断られた。
ガーブランドは行動範囲を玄関と廊下と食堂のみと定めた。よほど俺たちの居場所を壊したくないようだ。洞窟よりマシな環境を提供できた時点で勝ちであり、それで良しとした。
「それでは旅立ちに向け、それぞれ準備を始めましょうか」
全員で不在時の取り決めを交わし、今日という一日を終えた。
騎士用の宿舎も建っており、中央区画では魔物の素材市場に次ぐ敷地面積を誇っていた。俺もミーレも来訪する機会が多く、警戒されることなく中に入った。
「すいません。火急でお伝えしたい用件があってきました」
受付にいた騎士に呼び出してもらったのは、ドーラの一件と野盗の検死で立ち会った年上の騎士だ。三十分ほど待って応接室で顔を合わせ、恭しく首を垂れた。
「いいっていいって、俺はロア様と同じでそういうのあんま好きじゃないからな。楽に座って話をしてくれていいぜ。堅苦しいと肩がこるってもんだ」
ミーレと俺とルルニアの順でソファに座り、ロアから連絡がなかったか聞いた。年上の騎士は思い当たる節がある顔をし、腕組みをして答えた。
「それが不思議でな。今回はミーレちゃん宛の手紙しかなかったんだ。いつもは王国での近況と隠語での愚痴と、事細かな指示が送られてくるんだが」
「……どこかに送り間違ったという線は?」
「そりゃまぁ、有り得はするだろうな。でも何か嫌な予感がすんだよ。これって理由さえあれば数人の騎士を連れて王都まで帰還するところなんだが」
期せずして望む言葉を引き出すことができた。
俺たちは顔を合わせ、ミーレ宛の手紙を渡した。
年上の騎士は文面を確かめ、眉間にシワを寄せた。
「……何だこりゃ。ロア様らしくもない文章だな」
副官目線でも違和感があると知り、疑惑は確信となった。騎士団総出でアストロアスから去るのかと聞くと、多くても十人ほどと返事があった。
「これが本人の意思で書かれたものって確証がないからな。俺たちをここから遠ざける目的かもしれんから、半分は残すことになると思うぜ」
王都への帰還に俺たちも同行できないかと頼んでみた。最初は難色を示されるが、ルルニアとミーレにも頭を下げられて年上の騎士は天井を仰いだ。
「まぁ……うーん、そうだな。ロア様にミハエル一家からのお願いはなるべく叶えて欲しいって頼まれてたし、どうにかしてやるよ」
「ありがとうございます!」
「感謝するのは早いぜ。王都には連れて行くと約束するが、王城に入れるかはロア様次第だ。そこの保証はできないと分かってくれ」
加えて同行者は四人までと言われた。護衛の負担や道中の食料、馬車の乗車限界を鑑みた結果らしい。それ以上の人員増加はできないと釘を刺された。
「……仲間との話し合いや諸々の引継ぎを考えると、旅立ちは四日目の朝か。俺が指揮を執るかは分からんが、今言った約束は守る。同行する時はよろしくな」
固く握手を交わし、俺達は騎士団の詰め所を出た。
屋敷に戻った後はプレステスたちを呼び、ミーレの部屋で一連の流れを説明した。トゥリとニャンはさして興味を示さなかったが、フェイが同行の進言をした。
「……わたし、できればついて行きたいです。……皆様の足手まといにはならないと約束しますので、どうかよろしくお願いします」
まとめ役不在でトゥリとニャンを放置するのは危険だが、プレステスが対応すると言った。感知能力に頼りたい場面が多そうだったが、大の人見知りという問題があった。
「な、何日も見知らぬ人と過ごすなんて無理です! 旦那様と奥様の頼みなら全力を尽くしますが、できればここに残りたいです!」
「仕方ありません。プレステスは残しましょう。守護者であるガーブランドが全力を出せないので、不在時の守りは任せますからね」
ニーチャはガーブランドの傍にいさせたいため、適任はフェイしかいなかった。ミーレもその方が助かるとのことで、旅の人員が決まった。帰宅後は俺から二人に話をした。
「王都に着くまでおよそ半月掛かります。問題事の解決に三日と見込んでも、帰還には一ヵ月以上の時間を要することになります。ですので」
「吾輩を家に置いておきたいということか」
「ガーブランドさんには暖炉の管理をお任せしたいと思います。火事になったら困るので、なるべく外ではなく中にいて下さると助かります」
「ニーチャなら教えれば覚えると思うが?」
最もな意見を口にされるが、ニーチャが首を高速で横に振った。すべては満足な環境で療養させるための方便であるため、無理と言っておいた。
「……そこのプレステスはどうだ」
「わ、わたしはお昼にミーレさんの屋敷に出かけることになってるんです。か、帰りが遅くなりますし疲れてすぐに眠っちゃいましゅ!」
「……そうか、ならば請け合おう」
押し問答をするかと思ったが、早い段階で諦めてくれた。ニーチャは首の横振りを止め、ガーブランドの腕に抱きついて一緒に寝ないかと誘った。が、逡巡の間もなく断られた。
ガーブランドは行動範囲を玄関と廊下と食堂のみと定めた。よほど俺たちの居場所を壊したくないようだ。洞窟よりマシな環境を提供できた時点で勝ちであり、それで良しとした。
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