エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第百四十二話『旅立ちに向けて2』

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 旅立ちの朝、俺は空が白み始めた頃に目を覚ました。ルルニアを起こさないようにベッドから抜け出し、服を着こんで薄暗い家の中を歩いた。

「…………朝の四時ってところか、さすがに寒いな」

 物音を立てぬように階段を踏みしめ、一階へと降りる。
 裏口の扉と道具入れの棚を見流し、廊下を進んでいった。

 玄関口に向かわず右手に折れ、食堂に入った。開放的な造りなのもあって中は寒く、暖炉に薪とおがくずを入れて火をつけた。炎の揺らめきが強まったところで離れ、窓から庭先を眺めた。

「…………この景色も当分見納めだな」

 窓の縁に両肘を乗せ、ふぅと息をつく。薬草の栽培を終えた畑は霜で盛り上がっており、しぶとく生えた雑草の葉が白く冷たく覆われていた。
 せっせと畑をつつく小鳥の群れを見ていると、階段を下りる足音を聞いた。現れたのは薄い毛布を巻いたルルニアであり、俺の元へと歩いてきた。

「何を見ていたんですか、あなた」
 俺たちは肩と肩を合わせ、並んで景色を眺めた。出会いから四ヵ月以上が経過したことを口にすると、ルルニアは得心がいった様子で応えた。

「もっと前からここにいた気がしますね。愛し合って魔物災害を乗り越えて結婚して、クレアと仲直りしました。たくさんの思い出があります」
「そして次は王都への旅だ」
「旅立ちに一抹の不安はありますが、杞憂ですね。あなたが傍にいてくれるのなら、何も怖くはありません。無事にこの家へ帰ってきましょう」

 俺たちは頬と頭を密着させ、朝日が昇るのを待った。山向こうから光りが差し込んできたのを合図に動き出し、二人で朝食の準備を進めた。

 一時間経ったぐらいでニーチャが現れ、その少し後にプレステスが降りてきた。完璧に出来上がった朝食を見て寝坊したと涙目で謝られた。

「そう気負わなくていいですよ。しばらく家を離れますし、今日ぐらいは私が作りたかったんです。不在の間は家事を頼みますね」
「も、もちろんです! 完璧な状態にしてみせます!」
「帰りと言えば、プレステスに渡す物がありました。私にとって大切な物ですが、旅に持っていく意味もないので預けておきます」

 その言葉で取り出されたのは、この家の鍵だった。
 プレステスに渡し、ルルニアは手を覆いかぶせた。

「…………重ね重ねになりますが、私たちが帰ってくるまでこの家をお願いします。下っ端でも使用人でもなく、家族の一人としてこれを託します」

 プレステスは手元の鍵を見つめ、感極まった様子で泣いた。俺たちがいなくなることに辛さと寂しさを感じていたと、涙混じりに心情を吐露した。

「だ、旦那様と奥様と会ってから幸せなことばかりで……ひぐっ。やっぱりついて行くべきだったかもって、ずっと考えてしまって……うぅ」
「いいんだ。誰にでも得意不得意はあるものだしな」
「そうですよ。アストロアスの方もお願いしますね」
「絶対に言いつけを守りますので、無事に帰ってきて欲しいです! お二人がいなくなってしまったらなんて、わたしは考えるのも嫌です!」

 約束すると、二人で言ってやった。プレステスは安堵でまた泣き出し、なだめながら家族団欒の時を過ごした。そして別れの時を迎えた。

「────行ってらっしゃいです。旦那様、奥様」

 どうしても家の前で見送りがしたいとのことで、プレステスとは庭先で別れた。俺とルルニアとニーチャの三人で手を繋ぎ、山道を下りた。

 途中でガーブランドと合流し、四人で中央区画に向かった。歩きながら旅の道中でもできる修行方法を聞き、門を越えて大通りに足を運んだ。

 騎士団の詰め所前には乗車用の馬車と荷物運搬用の馬車が用意されていた。選抜された騎士も待機しており、年上の騎士を見つけた。こちらから声を掛けると挨拶を返してくれた。

「予定より早かったな。王都への帰還の指揮を執るのはこの俺、『ディアム・グド・シエント』だ。改めてよろしく頼むぜ」

 俺とルルニアが握手を交わすと、ミーレとフェイがきた。
 どちらも防寒着を着ており、旅立ちの準備は万全だった。

「ついにこの日がきたな」
「そうね。だいぶ待ちくたびれたわ」
「余計なお世話って言われたらどうする?」
「構わないわ。その言葉を聞くことに意味があるもの」

 折れぬ決意を聞き、俺たちは再会に向けて意欲を高めた。出立の時間まで話をして過ごしていると、大通りに住民が現れた。かなりの人数が詰め所前に集い、声援を送ってくれた。

「怪我すんでねぇど! 皆が帰ってくんの待ってからな!」
「おうさ! 王都での土産話、楽しみにしてっぞ!」
「ミーレちゃん! 上手くロア様を捕まえてくるんだよ!」

 住民はロアが王族と知らず、不敬と取られかねない発言をしてしまう。だが年上の騎士ディアムは軽く流し、部下に命令して馬車の扉を開けさせた。

「行ってらっしゃい」
「うむ、達者でな」

 乗車を促され、ニーチャとガーブランドと別れた。
 乗り方の作法はミーレから聞き、順に席へ座った。

 備えつけの椅子には赤い敷物があり、長時間座っていても腰が痛くなり辛い配慮が行き届いている。四人乗りでもそれなりの広さがあり、窓には極めて高価な薄いガラスがついていた。

 どう見ても平民が乗っていいものではないが、これを用意したのはディアムだ。余計な心配はしないことにし、旅の楽しみの一つとした。

「────点呼良し、天気良し、それじゃあ出発すっぞ!」

 ディアムの威勢の良い声が響き、馬の歩き出しに合わせて車輪が回る。後ろを追いかけてくる子どもたちに手を振り、俺たちは長い旅路へと繰り出した。
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