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第百五十四話『王都を前にして1』
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旅立ちから半月、俺たちは街道沿いの村に入った。すでに王都は目と鼻の先に迫っており、いよいよ旅も大詰めとなる。ここでの一泊を経て半日進めば門前に着く予定だ。
「……足止めを喰らったのに早く着いたな」
すべてはルルニアと騎士団のおかげだ。
道中で起きた魔物との遭遇戦は片手で数えるほどであり、野盗に襲われることもなかった。これが一人旅なら追加で半月は掛かる道のりだった。
俺たちはディアムが用意した宿に移動し、食事を摂った。夜になったのを見計らって部屋の外へ行き、待機していたフェイにルルニアを頼んだ。
「ミーレと外に出る。一時間ぐらいで戻るつもりだ」
「……承知しました。……どうかお気をつけて下さい」
そう言い、フェイは扉の前に立った。部屋の中で休んでいいと何度も言っているのだが、一度も聞き入れてもらえてない。かなりの寒さなのに立って本を読み始めた。
「フェイがいいなら……いいのか?」
「長居はせずに用事を済ませましょ」
ミーレは廊下の先におり、二人で宿を後にした。
外は夜の帳が落ちていたが、一定の人通りがあった。
村の建物の大半はレンガ造りとなっており、道には隙間なく石が敷いてある。場所によってはランプ式の街灯が眩い明かりを放っていた。
「この規模感で村扱いなんだな。こう言うのはあれだが、男爵が住んでいる町に迫る勢いじゃないか?」
「王都と僻地の貧富の差を実感させられるわね。二日前に寄った町なんて窓にガラスがついてて驚いたわ」
街灯の下を通り、曲がり角を一つ折れた。通りの先には平屋の酒場があり、両開きの扉を開けて中に入った。そして空いてる席に座った。
「グレにぃ、飲み過ぎはダメだからね」
「その言葉、そっくりそのまま返すぞ」
ここにきた目的は飲み食いではない。ロアの王位継承にまつわる話や幽霊騒動など、王都に関する情報収集をする必要があったためだ。
「はいよ、ご注文は?」
上着を脱いでいると店員が現れ、軽めの食事と酒を一杯頼んだ。
ひと息ついて耳を澄ませ、周囲の声を慎重に聞き取っていった。
「……うちの家畜……が狼……群れ……襲われてよ」
「……の川で……魚が大漁……商売繁盛……だ」
「……家……婆さんが体調を崩し……それ」
「……王都で……夜に幽霊が……見て」
大体は雑談だったが、気になる会話があった。俺は料理がきたら呼ぶように言い、席を立って斜め向かいの席まで移動した。そこには旅装の中年男性が三人いて酒を飲んでいた。
「────今のお話し、詳しくお聞かせ願えますか?」
新顔なのもあり警戒されたため、酒代を奢ると言った。
すでに酔っていたこともあり、諸手を打って喜ばれた。
俺はおおよその話をまとめ、大判銀貨を置いて去った。
「最近、王都の様子がおかしいらしい。夜になると町を幽霊が徘徊して、住民をどこかに連れ去っていくそうだ」
「……王都の衛兵は何をしてるの?」
「何もしないって言ってた。昼間だけそれっぽい仕事をして、肝心の夜には誰一人として姿を見せないみたいだ」
幽霊の目撃情報は一部の区画に限られており、王都全体が大騒ぎとまではいっていない。だがもし王族や貴族が操られているのなら、何らかの情報統制が敷かれている可能性があった。
(……ここにつくまで幽霊の噂は聞かなかった。外部からの干渉を防ぐために中枢から抑えたのなら、かなり頭が回る相手だ)
もはや王都に強大な力を持った『何か』がいるのは確実だった。
ロアの安否が気になるが、不幸中の幸いと言える一報があった。
「王位継承についても話があった。病床に臥せった国王に代わって、ロアスタット・エルク・カーズエラが次期国王になるそうだ」
「……手紙は本当だったのね。でも」
「間違いなく本心ではないな。ロアが自分の意思で国王になることを決めたなら、王都で起きてる問題を放置しているはずがない」
そこで話を区切り、テーブルに運ばれた料理に手を伸ばした。ハムを挟んだパンは白く柔らかかったが、考えることが多くて味が分からなかった。
酒場を出た後は気分転換もかね、行きと別の道を選んでみた。通りがかった広場には精巧な造りの石像があり、台座には天使の降臨像と名があった。
「────本当に敵は天使様なのかしらね」
王都にいる敵が天使かもしれないと言った時、ミーレは絶句した。
ロアの口から語られた正体を言っても、なかなか信じてもらえなかった。
「偽物だったらいいのにって、今でも考えてしまうのよ。あたしたちにとって天使様っていうのは、それだけ大切な存在だから」
「……そうだな」
「愛する人を失って何年も戦い続けて、守ってきた人を襲う。もし本物だとすれば、そこにどんな葛藤があったのかしらね」
ミーレは台座に触れ、対応は俺たちに任せると言った。自分は自分のすべきことだけをやると、強い想いで言った。その出で立ちに心強さを感じていた時、異変が起きた。
「……足止めを喰らったのに早く着いたな」
すべてはルルニアと騎士団のおかげだ。
道中で起きた魔物との遭遇戦は片手で数えるほどであり、野盗に襲われることもなかった。これが一人旅なら追加で半月は掛かる道のりだった。
俺たちはディアムが用意した宿に移動し、食事を摂った。夜になったのを見計らって部屋の外へ行き、待機していたフェイにルルニアを頼んだ。
「ミーレと外に出る。一時間ぐらいで戻るつもりだ」
「……承知しました。……どうかお気をつけて下さい」
そう言い、フェイは扉の前に立った。部屋の中で休んでいいと何度も言っているのだが、一度も聞き入れてもらえてない。かなりの寒さなのに立って本を読み始めた。
「フェイがいいなら……いいのか?」
「長居はせずに用事を済ませましょ」
ミーレは廊下の先におり、二人で宿を後にした。
外は夜の帳が落ちていたが、一定の人通りがあった。
村の建物の大半はレンガ造りとなっており、道には隙間なく石が敷いてある。場所によってはランプ式の街灯が眩い明かりを放っていた。
「この規模感で村扱いなんだな。こう言うのはあれだが、男爵が住んでいる町に迫る勢いじゃないか?」
「王都と僻地の貧富の差を実感させられるわね。二日前に寄った町なんて窓にガラスがついてて驚いたわ」
街灯の下を通り、曲がり角を一つ折れた。通りの先には平屋の酒場があり、両開きの扉を開けて中に入った。そして空いてる席に座った。
「グレにぃ、飲み過ぎはダメだからね」
「その言葉、そっくりそのまま返すぞ」
ここにきた目的は飲み食いではない。ロアの王位継承にまつわる話や幽霊騒動など、王都に関する情報収集をする必要があったためだ。
「はいよ、ご注文は?」
上着を脱いでいると店員が現れ、軽めの食事と酒を一杯頼んだ。
ひと息ついて耳を澄ませ、周囲の声を慎重に聞き取っていった。
「……うちの家畜……が狼……群れ……襲われてよ」
「……の川で……魚が大漁……商売繁盛……だ」
「……家……婆さんが体調を崩し……それ」
「……王都で……夜に幽霊が……見て」
大体は雑談だったが、気になる会話があった。俺は料理がきたら呼ぶように言い、席を立って斜め向かいの席まで移動した。そこには旅装の中年男性が三人いて酒を飲んでいた。
「────今のお話し、詳しくお聞かせ願えますか?」
新顔なのもあり警戒されたため、酒代を奢ると言った。
すでに酔っていたこともあり、諸手を打って喜ばれた。
俺はおおよその話をまとめ、大判銀貨を置いて去った。
「最近、王都の様子がおかしいらしい。夜になると町を幽霊が徘徊して、住民をどこかに連れ去っていくそうだ」
「……王都の衛兵は何をしてるの?」
「何もしないって言ってた。昼間だけそれっぽい仕事をして、肝心の夜には誰一人として姿を見せないみたいだ」
幽霊の目撃情報は一部の区画に限られており、王都全体が大騒ぎとまではいっていない。だがもし王族や貴族が操られているのなら、何らかの情報統制が敷かれている可能性があった。
(……ここにつくまで幽霊の噂は聞かなかった。外部からの干渉を防ぐために中枢から抑えたのなら、かなり頭が回る相手だ)
もはや王都に強大な力を持った『何か』がいるのは確実だった。
ロアの安否が気になるが、不幸中の幸いと言える一報があった。
「王位継承についても話があった。病床に臥せった国王に代わって、ロアスタット・エルク・カーズエラが次期国王になるそうだ」
「……手紙は本当だったのね。でも」
「間違いなく本心ではないな。ロアが自分の意思で国王になることを決めたなら、王都で起きてる問題を放置しているはずがない」
そこで話を区切り、テーブルに運ばれた料理に手を伸ばした。ハムを挟んだパンは白く柔らかかったが、考えることが多くて味が分からなかった。
酒場を出た後は気分転換もかね、行きと別の道を選んでみた。通りがかった広場には精巧な造りの石像があり、台座には天使の降臨像と名があった。
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ロアの口から語られた正体を言っても、なかなか信じてもらえなかった。
「偽物だったらいいのにって、今でも考えてしまうのよ。あたしたちにとって天使様っていうのは、それだけ大切な存在だから」
「……そうだな」
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