エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第百五十三話『信徒たちとプレステス』

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 …………グレイゼルたちが王都へと旅立ち、十二日が経過した。

 アストロアスは平和そのものであり、日々発展を遂げていた。簡易的な造りではあるが家を失った住民と難民用の家が複数建ち、来訪者用の宿屋も用意された。

 しかし活気に満ちた空気に相反するように、苦悩する者たちがいた。長テーブルに座すのは大工頭のサハクとパン屋のラライと、男爵の嫡男であるチャックだ。

「────今回の件、そろそろ決めるべきでありまーすな」

 そう言ってチャックが手にしたのは一枚の羊皮紙だ。
 紙面には『女神様と天使様の名称決定』と題があった。

「天使様の石像を建てると決めーた日から、我々は女神様の信徒として活動を始めました。魔物災害の戦闘風景を唄にしたり、女神様と天使様の尊さを広める布教活動を行いまーした。ですが」

 女神と天使の名前は何なのかと、方々から質問を受けた。だが直接聞き出す方法はなく、また適当な名を口にするわけにはいかなかった。

 議会にも同じ質問が飛び、対応はチャックたちに丸投……一任された。これ以上ない名誉と気合を入れるが、決定の難易度に頭を抱えた。

「そんなの俺たちが知りてぇよな。女神様が姿を現したのはあの一夜限り、遠目だったから顔もよく分からねぇ」   
「でも仕方ないと思います。見ず知らずの相手を知ろうとした時、まず名前から知りたくなりますし」 
「恐れ多い行いではありまーすが、試練の一つとして受け入れるべーきですね。しかして……」

 チャックがした含みのある発言に、二人は頷きを見せた。
 サハクが席を立ち、扉の外に誰もいないことを確認した。
 ラライはカーテンを閉め、卓上のロウソクに火をつけた。

「……前置きはここまで、ご存じの通り我らが天使様の素性は確定していーます」
 小声で口にしたのはプレステス・フォルライアという名だ。チャックの声音には確信があり、サハクとラライも目線で同意を示した。

 プレステスの正体が見抜かれたのは最近だ。身バレを防ぐために淫夢の内容を曖昧にする措置を取っていたが、とある抜け道があった。きっかけは三人が行った神託の感想会だった。

 サハクが天使の顔を思い出そうとし、「目元が隠れていた」と言った。ラライが「怯えがちな口調をする」と言い、チャックが「こんな肩幅」と言い、それらの要素を繋ぎ合わせた。

「該当の人物は一人だけでーした。天使降臨伝説でも、神の使いは人の営みに紛れるという言い伝えがあーります。となれば、あの家の方々の素性に察しがつきます」
「先生の妻のミハエルさんが俺たちの女神様で」
「中古屋の子がもう一人の天使様となりますね」

 ルルニアたちの正体を見抜きつつ、三人は傍観を決めていた。女神と天使は己と民の心の支えであり、アストロアスから去られる事態は避けるべきと考えていた。

「ただまぁ、本名を知っちまった以上は無関係の名にするわけにはいかねぇよな。元から離れ過ぎない感じでそれっぽいのにするか」
「プレステス様なら、プリエステスみたいに文字を足しますか」
「良い案ですね。一文字足しただけでは気づく者が出ると思いまーすし。もう少し語感を意識したり並べ替えたりして決めまーすか」

 三人は時間を掛けて議論を交わし、仮となる名を決めた。

 ルルニアの名は『ルーラニアス』とし、勝利と繁栄を司る神とした。ニーチャの名は『ニムフィスチャ』、守護と安寧の天使とした。
 さらに議論を重ね、プレステスは『プリエステラ』と呼称を決めた。慈愛と寛容の天使とし、紙に連ねた名を見つめ……また唸った。

「……悪くはないでーすが、これをあの方々が気に入るかは懐疑的でーすね。議会に通す前に、神託で訂正がないか待つとしーますか」
 賛成の声が上がり、名称決定会議は終わった。ロウソクの火を消して扉を開け、中央区画の一角にある建物から外に行き、並んで大通りを歩いた。

「お、噂をすればだな」
 進行方向には買い物のために山から下りてきたプレステスがいた。挨拶だけして通り過ぎようとした時、横から飛び出す人影があった。

「ねぇ、そこの君! よく見たら超可愛いっしょ!」
「へ? へひゃぁ!? あ、あなた誰ですか……?」
「今日このアストロロス……? だかに着いたばっかりでさ! まだどこに何があるのか分かんないんだよ! 君に道案内をして欲しいんだけど、どうかな?」

 キザったらしい笑みに怯え、プレステスはきた道を戻ろうとした。
 無作法な男はその背中を走って追いかけ、乱暴に腕を掴んだ。
 痛いと声が上がった瞬間、両側からガシリと肩を掴まれた。

「おい、道案内が必要だってな。特別に俺が付き合ってやんよ」
「……え? あんたら誰……」
「余すことなくアストロアスの魅力をお伝えしーます。あの方に二度と手を出さぬよう、日が暮れるまで語り合いまーしょう。さぁさぁこちーらへ」

 ラライは道の途中で転んだプレステスを介抱していた。無作法な男は腕を振って逃げ出すが、走り出した足はほんの数歩で止まった。

「……おい、男爵様の誘いを断ってどこに行こうってんだ?」

 眼前に立ちはだかったのは装飾品屋の店主を務める男性だ。
 他にも数名の住民が男を取り囲み、完全に退路が断たれた。

「────まぁまぁ、パンでも食べてお話をしましょう。ね?」

 能面のような笑みでラライが戻ってきた。無作法な男は両腕を掴まれ、引きずられるように連行され、『お話し』を聞かされて清く正しく生まれ変わった。
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