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第百六十話『戦いに備えて1』
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三十分ほどすると玄関口のベルが鳴った。現れたのは貴族の煌びやかな正装を着こんだディアムと、その後ろに控えた女性の使用人たちだった。
「……ふっ、似合ってませんね」
対面と同時にフェイが鼻で笑い、口元を片手で隠した。
ディアムは「ほっとけ」と言い、フェイの前に立った。
「それよりよ。俺の上着はいつ返してくれるんだ?」
「……はい? ……もらった物ですし、返しませんが」
「待て待て、いつ俺がそれをやった。この旅が終わったらどうせ替えようと思ってたし、別にいいけどよ。何か腑に落ちないぞ」
二人の間には独特な距離感があった。俺とルルニアとミーレの三人でヒソヒソしていると、ディアムがゴホンと咳ばらいした。
用件はご両親との夕食会だった。俺たちからも旅の話を聞きたいらしく、準備を進めているらしい。湯浴みの場も用意してくれるとのことだった。
「俺の妹は大の風呂好きでな。夕食前にはいつも浴びるんだ。今日は急な用事で帰れなくなったから、準備した湯が無駄にならなくて助かるらしいぜ」
長旅で身体の匂いが気になっていたため、ちょうど良かった。
夕食についても了承するが、告げられたのは遅い時間だった。
「どうにか日暮れの前にできませんか?」
「グレイゼルが警戒してんのは王都の幽霊騒動だな。俺もそれとなく聞いてみたが、王城では何も起きてない。いや起きなくなったって話だぜ」
「ロアが国王になったのを転機として……ですか」
「王位を継ぐ予定だった第一王子、次点の第二王子すら口を挟まなかったらしい。ロア様は人気だったから、この流れを喜ぶ者も多いみたいだ」
時間帯の件はディアムの方で何とかすると言ってくれた。
平民の身で要望を出すなど恐れ多かったため、助かった。
本館に帰るディアムを見送ると、女性の使用人が顔を出した。夕食会に使用する服を選ぶとのことで、俺たちは旅装から高級な服装に着替えた。
連れられた先の食堂は広く清潔で、天井にはシャンデリアがあった。白い布が敷かれたテーブルには芸術作品のような食事の数々が並んでいた。
「────では、息子の帰還を祝って……乾杯!」
料理の味に舌鼓を打っていると、ぜひ俺の技を見たいと頼まれた。蜘蛛の魔物との戦いでディアムの剣を折った経緯から、あの大立ち回りがバレたようだ。
伯爵の要望とあらば断われず、『壊していい物がないか』聞いた。渡されたのは壁に飾られた盾であり、許可を得てからへし折った。結果は大喜びだった。
「それほどの剛腕、並みの剣では耐えられぬのではないか?」
「ご明察です。ディアム様から預かった剣もそれで折ってしまって」
「となれば礼は武器で返すとしよう。この伯爵家には昔、オーガ殺しの異名を持った剣士がいた。その者が愛用していた剣ならば希望に応えられよう」
その言葉で運び込まれたのは黒い鞘に収まった剣だ。大きさは護身用に渡されたものと大差ないが、剣そのものの重さが違かった。
「それは大陸一の硬度を持った金属で作られている。この家で代々引き継がれてきたが、これだけの武器をいつまでも飾っておくわけにもいかぬ。持っていくがよい」
剣の譲渡はディアムの願いでもあると、父親は付け足した。
そういうことならと受け取り、深々とかしずいて受け取った。
夕食会はつつがなく進行され、空が赤らんだ頃に離れへ戻った。
「────あなた、嬉しそうですね」
部屋のベッドに座って剣を眺めていると、ルルニアが隣にきた。
俺は鞘から刃を出し、磨き上げられた表面に自分の顔を映した。
「これで肩を並べて戦えると思ってな。大切な人が傷ついているのに、後ろで見ている真似はしたくなかったんだ。バーレスクの件もあるしな」
本当は万全の状態のルルニアを守れるぐらい強くなりたかった。それが叶わないなら、せめて妊娠中の今だけでも頼れる夫でいたかった。
刃を鞘にしまうと、ルルニアが俺の身体にもたれ掛かってきた。押されるままベッドに倒れ込み、キスをしながら互いの服を脱がし合った。
「ルルニア……これ」
上着の下にあったのは透けた布地の下着だった。胸元から太もも辺りまでを覆っているが、奥の裸体が見えている。薄く伸びたシワがお腹の丸みを強調し、普段と違ったエッチさを感じた。
「お風呂が終わった後、この家の使用人の方にお願いしてみたんです。やはり伯爵家ともなれば、こういった品も多様に揃っているみたいですね。いかがですか?」
「……凄くいい。裸体とそんな変わらないのに何でだ」
「隠すことによるエッチさ、とでも言いましょうか。村で使う下着はただの布ですが、これは私も好きですね。裸が基本のサキュバスでは思いつけない発想力です」
俺はルルニアの太ももに触れ、下着の中に手を潜り込ませた。股周りに丸みを帯びてきたお腹と移動し、最後に膨らんできた乳房に触れた。
「これ、サキュバスの力で大きくしてるわけじゃないよな」
「そうですね。妊娠してから少しずつ大きくなってるみたいです。乳首の色もだいぶくすんできましたが、グレイゼルは前の方がお好きですか?」
「これはこれで好きだ。ルルニアの全部が魅力的だからな」
「ふふふ、嬉しいことを言ってくれますね。サキュバスの力を使えば色を誤魔化すことはできるので、黒ずんだ乳首が嫌だったら言って下さいね」
乳首を指でイジっていると、ルルニアの息が乱れてきた。俺の陰茎も勃起し、挿入を心待ちにした。軽めの絶頂が起きたところでルルニアがベッドにこてりと寝そべった。
「────宿と違って部屋は離れてますし、夜には幾分の猶予があります。今後の戦いに備え、半月ぶりに淫夢ではない身を貪るエッチをしませんか?」
「……ふっ、似合ってませんね」
対面と同時にフェイが鼻で笑い、口元を片手で隠した。
ディアムは「ほっとけ」と言い、フェイの前に立った。
「それよりよ。俺の上着はいつ返してくれるんだ?」
「……はい? ……もらった物ですし、返しませんが」
「待て待て、いつ俺がそれをやった。この旅が終わったらどうせ替えようと思ってたし、別にいいけどよ。何か腑に落ちないぞ」
二人の間には独特な距離感があった。俺とルルニアとミーレの三人でヒソヒソしていると、ディアムがゴホンと咳ばらいした。
用件はご両親との夕食会だった。俺たちからも旅の話を聞きたいらしく、準備を進めているらしい。湯浴みの場も用意してくれるとのことだった。
「俺の妹は大の風呂好きでな。夕食前にはいつも浴びるんだ。今日は急な用事で帰れなくなったから、準備した湯が無駄にならなくて助かるらしいぜ」
長旅で身体の匂いが気になっていたため、ちょうど良かった。
夕食についても了承するが、告げられたのは遅い時間だった。
「どうにか日暮れの前にできませんか?」
「グレイゼルが警戒してんのは王都の幽霊騒動だな。俺もそれとなく聞いてみたが、王城では何も起きてない。いや起きなくなったって話だぜ」
「ロアが国王になったのを転機として……ですか」
「王位を継ぐ予定だった第一王子、次点の第二王子すら口を挟まなかったらしい。ロア様は人気だったから、この流れを喜ぶ者も多いみたいだ」
時間帯の件はディアムの方で何とかすると言ってくれた。
平民の身で要望を出すなど恐れ多かったため、助かった。
本館に帰るディアムを見送ると、女性の使用人が顔を出した。夕食会に使用する服を選ぶとのことで、俺たちは旅装から高級な服装に着替えた。
連れられた先の食堂は広く清潔で、天井にはシャンデリアがあった。白い布が敷かれたテーブルには芸術作品のような食事の数々が並んでいた。
「────では、息子の帰還を祝って……乾杯!」
料理の味に舌鼓を打っていると、ぜひ俺の技を見たいと頼まれた。蜘蛛の魔物との戦いでディアムの剣を折った経緯から、あの大立ち回りがバレたようだ。
伯爵の要望とあらば断われず、『壊していい物がないか』聞いた。渡されたのは壁に飾られた盾であり、許可を得てからへし折った。結果は大喜びだった。
「それほどの剛腕、並みの剣では耐えられぬのではないか?」
「ご明察です。ディアム様から預かった剣もそれで折ってしまって」
「となれば礼は武器で返すとしよう。この伯爵家には昔、オーガ殺しの異名を持った剣士がいた。その者が愛用していた剣ならば希望に応えられよう」
その言葉で運び込まれたのは黒い鞘に収まった剣だ。大きさは護身用に渡されたものと大差ないが、剣そのものの重さが違かった。
「それは大陸一の硬度を持った金属で作られている。この家で代々引き継がれてきたが、これだけの武器をいつまでも飾っておくわけにもいかぬ。持っていくがよい」
剣の譲渡はディアムの願いでもあると、父親は付け足した。
そういうことならと受け取り、深々とかしずいて受け取った。
夕食会はつつがなく進行され、空が赤らんだ頃に離れへ戻った。
「────あなた、嬉しそうですね」
部屋のベッドに座って剣を眺めていると、ルルニアが隣にきた。
俺は鞘から刃を出し、磨き上げられた表面に自分の顔を映した。
「これで肩を並べて戦えると思ってな。大切な人が傷ついているのに、後ろで見ている真似はしたくなかったんだ。バーレスクの件もあるしな」
本当は万全の状態のルルニアを守れるぐらい強くなりたかった。それが叶わないなら、せめて妊娠中の今だけでも頼れる夫でいたかった。
刃を鞘にしまうと、ルルニアが俺の身体にもたれ掛かってきた。押されるままベッドに倒れ込み、キスをしながら互いの服を脱がし合った。
「ルルニア……これ」
上着の下にあったのは透けた布地の下着だった。胸元から太もも辺りまでを覆っているが、奥の裸体が見えている。薄く伸びたシワがお腹の丸みを強調し、普段と違ったエッチさを感じた。
「お風呂が終わった後、この家の使用人の方にお願いしてみたんです。やはり伯爵家ともなれば、こういった品も多様に揃っているみたいですね。いかがですか?」
「……凄くいい。裸体とそんな変わらないのに何でだ」
「隠すことによるエッチさ、とでも言いましょうか。村で使う下着はただの布ですが、これは私も好きですね。裸が基本のサキュバスでは思いつけない発想力です」
俺はルルニアの太ももに触れ、下着の中に手を潜り込ませた。股周りに丸みを帯びてきたお腹と移動し、最後に膨らんできた乳房に触れた。
「これ、サキュバスの力で大きくしてるわけじゃないよな」
「そうですね。妊娠してから少しずつ大きくなってるみたいです。乳首の色もだいぶくすんできましたが、グレイゼルは前の方がお好きですか?」
「これはこれで好きだ。ルルニアの全部が魅力的だからな」
「ふふふ、嬉しいことを言ってくれますね。サキュバスの力を使えば色を誤魔化すことはできるので、黒ずんだ乳首が嫌だったら言って下さいね」
乳首を指でイジっていると、ルルニアの息が乱れてきた。俺の陰茎も勃起し、挿入を心待ちにした。軽めの絶頂が起きたところでルルニアがベッドにこてりと寝そべった。
「────宿と違って部屋は離れてますし、夜には幾分の猶予があります。今後の戦いに備え、半月ぶりに淫夢ではない身を貪るエッチをしませんか?」
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