エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

文字の大きさ
162 / 170

第百六十二話『初雪1』

しおりを挟む
 王都の空が黒く塗り潰されるのを待ち、俺たちは行動を開始した。ミーレとフェイに不在時の対応を任せ、三階の窓を開け放った。
 警備は本館側に集中しており、離れは手薄だった。これなら目撃されることもないと判断し、ルルニアの翼で敷地から飛び立った。

「────あなた、寒くないですか?」

 俺の首にはルルニアのマフラーが巻いてある。全身にも闘気を纏っているため、この程度は何ともなかった。ルルニアの方こそ大丈夫か聞くと、先ほどのエッチで身体を温めてもらったと返事がきた。

「それはそれとしてずいぶん冷えましたね。夕方から急に雲が流れてきたと思ったら、あっという間に空が覆われてしまいました」
「もう秋も終わりだ。そろそろ雪が降るのかもな」
「あの家で初雪を迎えると思っていましたが、なかなか予定通りには行きませんね。向こうの皆は元気にやっているでしょうか?」

 そんな会話をしているうちに商業区画についた。ルルニアと一緒に四階建ての建物の上に着地し、大通りで蠢く複数の影を確認した。

「ごぅ……ぐ……あぁ……ぐ」
「……うぅ、がっ……ぐぅぉ」
「…………がが……ぐご、ら」

 パッと計算しただけでも総数は十を超える。中には寝間着姿のまま歩き回っている者もおり、凍傷にならないか心配した。風が吹いてないことだけが幸いだと思っていると、真下でガァンと音が鳴った。

 誰かがゴミ箱を倒したらしく、全員の視線が集った。おぼつかない足取りで密集するが、何もないと分かると解散した。

「……あれ、音にも反応するんだな」
「……ですね。使えそうな情報です」

 念のために顔を引っ込めて会話した。おかしくなった人たちの状態について聞くと、『眷属化』という単語が出てきた。

「ヴァンパイアの食事方法は血の摂取です。首筋に噛みついて動脈から精気を吸い上げますが、眷属化の場合は逆に自分の魔力を注ぎます」
「だからあの村の人たちは強かったのか」
「注ぐ魔力の量が多いほど眷属化した対象は強くなります。自分の力を分け与える行為であるため、どうしても手駒が必要な時だけ使うと聞きます」

 基本は魔物相手に使うそうだ。人間と魔力は相性が悪く、強化の幅が狭い。サキュバスの淫紋が持つ行動の制限・強制に近しい能力と教えてもらった。

「……そう聞くとサキュバスとヴァンパイアの類似点は多いな。昼より夜の方が本領を発揮できる点や、人型をしてることもそうだ」
「元は同じ種族から分岐したのかもしれませんね」
「……初めて魔物が確認されたのは千年以上前だ。前触れもなく深淵の闇から這い上がってきたって文献があるが、それはつまりだ」

 遥か昔には魔物がいない時代が存在したことになる。どういう経緯を辿って出現したのか、何故動物を襲わずに人間だけを喰うのか、今まで『そういうもの』と流していた部分に疑問が湧いた。

(……ヴァンパイアなら全部知ってるかもな)

 内心で呟いて立ち上がろうとした時、視界を横切る影があった。広げた手の平に乗って溶けたのは、冬の訪れを知らせる初雪だった。
 雪はゆらゆら揺蕩い、みるみる間に数を増やしていった。吐いた息の白さが濃くなり、闘気込みでも若干の寒さを感じた。その時だ。

「────え?」
 俺たちがいる屋上に見知らぬ女の子がいた。

 年齢は十歳に届かないぐらいで、髪は屋上の床に触れそうなほど長い。目線は俺たちに向いていたが、虚空を見つめるような空虚さがあった。

 髪に眉毛に肌に服と、何もかもが純白に包まれていた。外見こそサキュバスに負けず劣らずだが、身に纏う雰囲気の異様さが段違いだった。

「…………天使、いや」
 ヴァンパイアと、そう口にした。流れてきた雪が目に当たり、瞬きをしてしまった。そんな一瞬の間に、ヴァンパイアは翼を大きく広げた。

「────っ!? ルルニア!!」

 目の前にルルニアがおり、奥にヴァンパイアがいる位置関係だ。とっさの判断でルルニアの背中と腰を抱え、闘気の力で別の屋上に跳んだ。

 着地と同時に閃光が起き、轟音が鳴った。振り返って見たのはさっきまで立っていた場所だ。屋上の一角が『跡形もなく』消し飛んでいた。

「……これが、ヴァンパイアの力……」

 失われた四階部分は高温で融解しており、煙が立ち昇っていた。
 攻撃の音と光を感じ取った眷属が叫びを上げ、緊張の空気が流れた。

 鞘からオーガ殺しの剣を抜くと、ルルニアが隣に立った。表情に静かな怒りを映し、瞳を輝かせてヴァンパイアの身動きを封じてみせた。

「……おや? 派手さの割に大したことありませんね。戦闘力はそちらが上のようですが、魔力の総量は私の圧勝といったところですか」
「………………」
「これだけ眷属を増やせばそうもなりますよね。あなたの意図は分かりませんが、これで終わりです。朝まで付き合っていただきますよ」

 ヴァンパイアは何の返事もしなかった。
 逆転の一手を警戒するが、腕も足も動かさず棒立ちしていた。本当にこれで終わりかと、そう考えた時のことだ。背後で金属か何かが落下する音が鳴った。

「…………お前」

 そこには漆黒の鎧を着た騎士がいた。鞘から剣を抜き放ち、切っ先を俺たちに向けた。美しい金髪をなびかせて立つのは、完全に眷属化されたロアだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...