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第百六十九話『王城にて1』
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性行為を終えて服を着替えていると、ディアムが離れに顔を出した。昨夜の騒動は幽霊の仕業と説明してくれたらしく、伯爵家からは怪しまれずに済んだ。
状況報告もかねて朝食会をしていた時、食堂に一報が届いた。
手紙は王家から届いたものであり、宛先は明記されてなかった。
『────深夜の十二時、王城で祝いの席を設ける。書面に名が記載されている者は参加されたし』
ディアムの父親が拝読し、俺とルルニアとミーレの名前があるのを確認した。文の末尾には迎えを用意するとまで記載があった。
確実にヴァンパイアの仕業であり、許可をもらって頂戴した。朝食会の後にディアムを呼び、この件に関する話し合いを始めた。
「俺たちを一網打尽にする気なら、何でこんな回りくどいことをするんだ。ここに襲撃を仕掛ければいいだけだよな」
「罠……と言うにはいささか雑ですね。私とあなたの関係性を見て、直接話をしてみる気になったのかもしれません」
数百年ぶりに繋がった人間と魔物の絆、それを確かめるつもりなのではとルルニアが言った。あり得なくはない線だったが、あの無口なヴァンパイアがそんなことを考える気がしなかった。
「……この異様に遅い開始時刻は何だ?」
「その時間帯は夜の魔物の力が最も増すんです」
「……奇襲に対する備えは万全ってことか」
用意の周到さにため息が出た。フェイがわざわざ誘いに乗ることもないのではと言うが、相手方の意図を知れる機会でもあった。
「それとこの手紙、国王名義で送ってきたことになるんだよな。先に伯爵様が確認してしまった以上、適当な理由じゃ断れないよな」
俺の発言にディアムが同意した。本館では祝いの席に向けて準備を進めているらしく、午後に服選びが始まると知らされた。
「ロア様がアストロアスに滞在してた件は親父も知ってる。平民と祝いの席を共にするのは難しいから、人目につかない時間を選んだって解釈してたぜ」
「……かなりやる気がありそうな感じでしたか?」
「祝いの席の成功は滞在を預かった伯爵家の義務だって、分かりやすく張り切ってたな。これを断ったとなると、色んな意味で面倒なことになりそうだぜ」
迎えがくる前に逃げる方法もあるが、その場合は王都に滞在するのが難しくなる。俺はともかく他の皆を下水道で寝泊まりさせる真似はしたくなかった。結局は出向くしかないという結論になった。
「ディアムさん。相手の出方次第になりますが、もうここには戻れないかもしれません。無事を知らせるまでの間、フェイをお任せしていいですか?」
「もちろん構わないぜ。ただし交換条件だ」
「……交換条件?」
「その話し方は今日で終わりにしてくれ、グレイゼル。俺もロア様と同じで、そっちの事情を深く知った。そろそろ仲間として認めてくれないか?」
対等な目線で接し合おうと、ディアムが提案してきた。
身分差があるので抵抗はあったが、握手と共に応じた。
「分かった、ディアム。俺たちに力を貸してくれ」
「もちろんだ。これからは友人としてよろしくな」
それからの流れは忙しかった。本館に移動して王城で歩く時の注意点や、最低限の作法などを勉強させられた。昼食が済んだら服選びがあり、風呂に入って身体の汚れを落とすことになった。
夕食会が済んだら休憩を挟み、服の着つけが始まった。
青に銀と煌びやかな物が用意され、香水まで選ばされた。
「……馬車もそうだが、やっぱり貴族の生活は肌に合わないな」
暮らし慣れた木造の家と、アストロアスに住む皆の顔が目に浮かんだ。あてがわれた部屋の小窓から星空を眺めていると、扉が開かれた。
「あなた、もう戻ってたんですね」
ルルニアは赤紫色のドレスを着ていた。色は上下で別れており、胸元の方が赤くて腰より下が紫に寄っていた。色合いの変化が面白かった。
通常はコルセットとやらで腰を絞めるそうだが、ルルニアは妊娠中だ。お腹周りはゆったりしていたが、美貌はしっかりと引き立っていた。
「余裕があればするつもりでしたが、無理そうですね」
「ここは本館だし、どう見ても高級な服だからな」
朝にしておいて良かったと思っていると、扉がノックされた。
「グレにぃ、ルルちゃん。こっちの準備は済んだわよ」
ミーレは深紅のドレスを着ていた。顔には化粧が施されており、大人っぽさが強調されている。髪も屋敷にいた時のように細かく結われ、高貴な家柄の出の娘としか思えない気品を漂わせていた。
思い思いに時間を潰していると、扉がノックされた。
王城から迎えがきたとのことで、玄関口まで移動した。
「……それではどうか皆様、お気をつけて下さい」
フェイに見送られ、庭先に並んだ馬車に乗り込んだ。御者は眷属化されており、声を掛けても返事はなかった。行く先に起こるのは対話か決別か、沈黙の闇に没した王城へと歩を進めた。
状況報告もかねて朝食会をしていた時、食堂に一報が届いた。
手紙は王家から届いたものであり、宛先は明記されてなかった。
『────深夜の十二時、王城で祝いの席を設ける。書面に名が記載されている者は参加されたし』
ディアムの父親が拝読し、俺とルルニアとミーレの名前があるのを確認した。文の末尾には迎えを用意するとまで記載があった。
確実にヴァンパイアの仕業であり、許可をもらって頂戴した。朝食会の後にディアムを呼び、この件に関する話し合いを始めた。
「俺たちを一網打尽にする気なら、何でこんな回りくどいことをするんだ。ここに襲撃を仕掛ければいいだけだよな」
「罠……と言うにはいささか雑ですね。私とあなたの関係性を見て、直接話をしてみる気になったのかもしれません」
数百年ぶりに繋がった人間と魔物の絆、それを確かめるつもりなのではとルルニアが言った。あり得なくはない線だったが、あの無口なヴァンパイアがそんなことを考える気がしなかった。
「……この異様に遅い開始時刻は何だ?」
「その時間帯は夜の魔物の力が最も増すんです」
「……奇襲に対する備えは万全ってことか」
用意の周到さにため息が出た。フェイがわざわざ誘いに乗ることもないのではと言うが、相手方の意図を知れる機会でもあった。
「それとこの手紙、国王名義で送ってきたことになるんだよな。先に伯爵様が確認してしまった以上、適当な理由じゃ断れないよな」
俺の発言にディアムが同意した。本館では祝いの席に向けて準備を進めているらしく、午後に服選びが始まると知らされた。
「ロア様がアストロアスに滞在してた件は親父も知ってる。平民と祝いの席を共にするのは難しいから、人目につかない時間を選んだって解釈してたぜ」
「……かなりやる気がありそうな感じでしたか?」
「祝いの席の成功は滞在を預かった伯爵家の義務だって、分かりやすく張り切ってたな。これを断ったとなると、色んな意味で面倒なことになりそうだぜ」
迎えがくる前に逃げる方法もあるが、その場合は王都に滞在するのが難しくなる。俺はともかく他の皆を下水道で寝泊まりさせる真似はしたくなかった。結局は出向くしかないという結論になった。
「ディアムさん。相手の出方次第になりますが、もうここには戻れないかもしれません。無事を知らせるまでの間、フェイをお任せしていいですか?」
「もちろん構わないぜ。ただし交換条件だ」
「……交換条件?」
「その話し方は今日で終わりにしてくれ、グレイゼル。俺もロア様と同じで、そっちの事情を深く知った。そろそろ仲間として認めてくれないか?」
対等な目線で接し合おうと、ディアムが提案してきた。
身分差があるので抵抗はあったが、握手と共に応じた。
「分かった、ディアム。俺たちに力を貸してくれ」
「もちろんだ。これからは友人としてよろしくな」
それからの流れは忙しかった。本館に移動して王城で歩く時の注意点や、最低限の作法などを勉強させられた。昼食が済んだら服選びがあり、風呂に入って身体の汚れを落とすことになった。
夕食会が済んだら休憩を挟み、服の着つけが始まった。
青に銀と煌びやかな物が用意され、香水まで選ばされた。
「……馬車もそうだが、やっぱり貴族の生活は肌に合わないな」
暮らし慣れた木造の家と、アストロアスに住む皆の顔が目に浮かんだ。あてがわれた部屋の小窓から星空を眺めていると、扉が開かれた。
「あなた、もう戻ってたんですね」
ルルニアは赤紫色のドレスを着ていた。色は上下で別れており、胸元の方が赤くて腰より下が紫に寄っていた。色合いの変化が面白かった。
通常はコルセットとやらで腰を絞めるそうだが、ルルニアは妊娠中だ。お腹周りはゆったりしていたが、美貌はしっかりと引き立っていた。
「余裕があればするつもりでしたが、無理そうですね」
「ここは本館だし、どう見ても高級な服だからな」
朝にしておいて良かったと思っていると、扉がノックされた。
「グレにぃ、ルルちゃん。こっちの準備は済んだわよ」
ミーレは深紅のドレスを着ていた。顔には化粧が施されており、大人っぽさが強調されている。髪も屋敷にいた時のように細かく結われ、高貴な家柄の出の娘としか思えない気品を漂わせていた。
思い思いに時間を潰していると、扉がノックされた。
王城から迎えがきたとのことで、玄関口まで移動した。
「……それではどうか皆様、お気をつけて下さい」
フェイに見送られ、庭先に並んだ馬車に乗り込んだ。御者は眷属化されており、声を掛けても返事はなかった。行く先に起こるのは対話か決別か、沈黙の闇に没した王城へと歩を進めた。
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