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第八話『ルルニアとの生活5』
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角はやや内巻きに曲がっている。表面には光沢があり、黒曜石然とした質感だ。昨夜から今朝までは生えてなかったはずなので驚いた。
「精気を吸ってお腹が満たされたおかげですね。どちらかと言うとこの状態が本来の姿に近いです。ほら私サキュバスなので」
「角はそれ以上に大きくなるのか?」
「同族を参考にするなら拳大ほどになるはずです。身長も伸びて胸や腰の肉つきが良くなります。あなた好みに近づけますね」
ルルニアの身体が貧相寄りな理由が分かった。サキュバスに限った話ではなく、一部の魔物には体力の消費を抑える小康状態の形態があるのだと知った。
「…………それ、触ってもいいか?」
いい、と言われて撫でた。滑らかで癖になる手触りだ。
「…………これ、削ってもいいか?」
えっ、と言われて引かれた。でもこれは仕方なかった。
生き物の骨は薬の材料になる。とりわけ魔物の骨は貴重だ。ゴブリンのように価値の無い魔物もいるが、大体は何らかの効能を有している。気質と飼料的に畜産不可能なため、市場に出ると恐ろしい値がつく。
「あの、そんな顔で近づかれると怖いんですが……」
「貴重な素材を見逃がせないのは薬屋の性分だ。絶対に根元から折らないし形が変わるほど削らない。だから少しだけ分けてくれないか? 先っちょだけでもダメか?」
熱心にお願いすると逃げられてしまった。
(……はっ、俺は何を)
正気に戻って謝罪すると許しをもらえた。
「サキュバスの角はどんな薬になるんです?」
「粉末を吸えば一瞬で性欲が高まる。基本的な用途は媚薬だが、調合や加工によっては難病の特効薬になる。先生から教えられた」
「へぇ、これにそんな価値があったんですね」
「ルルニアの角の粉を混ぜた薬なら、ルルニアに合う吐き気止め薬だって作れるかもしれない。試しても良くなったら言ってくれ」
「考えてはおきますけど期待しないで下さい」
拒絶されるのも覚悟の上だったため、可能性が残ったことに安堵した。二人で納屋を出ると突風が吹き、ルルニアが服代わりに巻いたシーツがまくれて丸みのある尻が露わになった。
「あ、もしかして見えちゃいました?」
「ミテナイ」
「好きなだけ撫でまわしてもいいですよ?」
応じようとする股間の猛りを静め、返事をせずに横を通り抜けた。
「俺はこれから倉庫に入ってルルニアに合う服がないか探してくる」
「お任せします。それなら私はお食堂で夕飯の準備をしていますね」
玄関口へ歩いていくルルニアを見送った。素足で土を踏みしめているのを見て、そちらも店で購入せねばと思った。出費はかさむが必要経費だ。
「…………一人で住むには広すぎる家だったからな」
言ってから気がついた。俺はこの共同生活を受け入れつつあった。
誤った思考を正すため倉庫に入り浸り、使えそうな品を見つけた。
食堂に入ると夕食の目玉となるスープを煮込んでいるところだった。もう十数分ばかり煮込みに時間が掛かるらしく、待っている間に試着してみる流れとなった。
「どうです? 私、可愛いですか?」
綿の白い上着にこげ茶色の革のベストを重ねて着ている。下は赤く染めたロングスカートを履いているが、その奥は素足のままに見えた。
「ズボンは履かなかったのか?」
「窮屈だから脱ぎました。こっちの流行は知りませんが、町だとスカートの下は下着以外何も履かないのが主流になってるんですよ」
「夏はいいが冬は寒そうだな」
「その時々で切り替える感じです。それにズボンを履いているといちいち脱ぐ手間がありますからね。こうした方が色々と楽です」
スカートの端と端を摘み、スラリと長い生足を見せつけてきた。
「誘ってるのか? さすがに夕食が先だぞ」
「先に私を食べてもいいんですよ」
「食べない。一日二回以上はしないからな」
えーと言ってしなを作り、性的な目を向けてくる。村娘風の格好で露出が減ったはずだが、シーツ一枚より所々の仕草に性的な魅力を感じた。何故だろうか。
「いいから後だ。それにしてもずいぶん濃い色のスープだな」
「野菜をふんだんに使って煮込みました。食料庫にイノシシか何かの骨がありましたのでそれも出汁に使ってます。よろしかったですか?」
「あぁ、どれも多めに余ってたからいい」
食材の備蓄や火の使い方など、この家のことは大体把握されたようだ。
ルルニアはスープをたっぷり皿によそい、俺の元に持ってきてくれた。
「はいどうぞ、冷めないうちに召しあがって下さい」
立ち昇った湯気に鼻腔をくすぐられ、反射でスプーンを掴んだ。具材は軽く噛むだけで崩れ、スープは複数の出汁による奥深い旨味で構成されている。
「ルルニアの腕は本職顔負けだな」
「ふふっ、褒めても何も出ませんよ」
「食材があれば他の料理も作れるのか?」
聞くといくつか聞き知った料理の名前が出た。この辺りでは手に入らない食材の料理もあったため、老夫婦の酒場とやらは遠方にあると察せられた。
(……そこら辺の話も後で聞いておくか)
そんな思考を浮かべ、最後のひと口を呑み込んだ。
「精気を吸ってお腹が満たされたおかげですね。どちらかと言うとこの状態が本来の姿に近いです。ほら私サキュバスなので」
「角はそれ以上に大きくなるのか?」
「同族を参考にするなら拳大ほどになるはずです。身長も伸びて胸や腰の肉つきが良くなります。あなた好みに近づけますね」
ルルニアの身体が貧相寄りな理由が分かった。サキュバスに限った話ではなく、一部の魔物には体力の消費を抑える小康状態の形態があるのだと知った。
「…………それ、触ってもいいか?」
いい、と言われて撫でた。滑らかで癖になる手触りだ。
「…………これ、削ってもいいか?」
えっ、と言われて引かれた。でもこれは仕方なかった。
生き物の骨は薬の材料になる。とりわけ魔物の骨は貴重だ。ゴブリンのように価値の無い魔物もいるが、大体は何らかの効能を有している。気質と飼料的に畜産不可能なため、市場に出ると恐ろしい値がつく。
「あの、そんな顔で近づかれると怖いんですが……」
「貴重な素材を見逃がせないのは薬屋の性分だ。絶対に根元から折らないし形が変わるほど削らない。だから少しだけ分けてくれないか? 先っちょだけでもダメか?」
熱心にお願いすると逃げられてしまった。
(……はっ、俺は何を)
正気に戻って謝罪すると許しをもらえた。
「サキュバスの角はどんな薬になるんです?」
「粉末を吸えば一瞬で性欲が高まる。基本的な用途は媚薬だが、調合や加工によっては難病の特効薬になる。先生から教えられた」
「へぇ、これにそんな価値があったんですね」
「ルルニアの角の粉を混ぜた薬なら、ルルニアに合う吐き気止め薬だって作れるかもしれない。試しても良くなったら言ってくれ」
「考えてはおきますけど期待しないで下さい」
拒絶されるのも覚悟の上だったため、可能性が残ったことに安堵した。二人で納屋を出ると突風が吹き、ルルニアが服代わりに巻いたシーツがまくれて丸みのある尻が露わになった。
「あ、もしかして見えちゃいました?」
「ミテナイ」
「好きなだけ撫でまわしてもいいですよ?」
応じようとする股間の猛りを静め、返事をせずに横を通り抜けた。
「俺はこれから倉庫に入ってルルニアに合う服がないか探してくる」
「お任せします。それなら私はお食堂で夕飯の準備をしていますね」
玄関口へ歩いていくルルニアを見送った。素足で土を踏みしめているのを見て、そちらも店で購入せねばと思った。出費はかさむが必要経費だ。
「…………一人で住むには広すぎる家だったからな」
言ってから気がついた。俺はこの共同生活を受け入れつつあった。
誤った思考を正すため倉庫に入り浸り、使えそうな品を見つけた。
食堂に入ると夕食の目玉となるスープを煮込んでいるところだった。もう十数分ばかり煮込みに時間が掛かるらしく、待っている間に試着してみる流れとなった。
「どうです? 私、可愛いですか?」
綿の白い上着にこげ茶色の革のベストを重ねて着ている。下は赤く染めたロングスカートを履いているが、その奥は素足のままに見えた。
「ズボンは履かなかったのか?」
「窮屈だから脱ぎました。こっちの流行は知りませんが、町だとスカートの下は下着以外何も履かないのが主流になってるんですよ」
「夏はいいが冬は寒そうだな」
「その時々で切り替える感じです。それにズボンを履いているといちいち脱ぐ手間がありますからね。こうした方が色々と楽です」
スカートの端と端を摘み、スラリと長い生足を見せつけてきた。
「誘ってるのか? さすがに夕食が先だぞ」
「先に私を食べてもいいんですよ」
「食べない。一日二回以上はしないからな」
えーと言ってしなを作り、性的な目を向けてくる。村娘風の格好で露出が減ったはずだが、シーツ一枚より所々の仕草に性的な魅力を感じた。何故だろうか。
「いいから後だ。それにしてもずいぶん濃い色のスープだな」
「野菜をふんだんに使って煮込みました。食料庫にイノシシか何かの骨がありましたのでそれも出汁に使ってます。よろしかったですか?」
「あぁ、どれも多めに余ってたからいい」
食材の備蓄や火の使い方など、この家のことは大体把握されたようだ。
ルルニアはスープをたっぷり皿によそい、俺の元に持ってきてくれた。
「はいどうぞ、冷めないうちに召しあがって下さい」
立ち昇った湯気に鼻腔をくすぐられ、反射でスプーンを掴んだ。具材は軽く噛むだけで崩れ、スープは複数の出汁による奥深い旨味で構成されている。
「ルルニアの腕は本職顔負けだな」
「ふふっ、褒めても何も出ませんよ」
「食材があれば他の料理も作れるのか?」
聞くといくつか聞き知った料理の名前が出た。この辺りでは手に入らない食材の料理もあったため、老夫婦の酒場とやらは遠方にあると察せられた。
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