エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第九話『ルルニアとの生活6』

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 夕食を終えて皿を片付け、食堂の明かりを消した。外はもうすっかり暗く、段差を踏み違えぬよう火を灯したランプを手に二階へ上がった。
 開けっ放しの窓の前を通り、二人で静かな夜の風景を眺めた。遠くの空の雲の流れが速く、明日は風が強い一日になりそうだと予想した。

「ようやく私たち、夜の魔物の時間ですね」
 差し込む月明りを浴び、ルルニアの髪が淡く輝いている。
 心なしか漆黒の角と翼の大きさが昼間より増して見えた。

「普段この時間はどう過ごされてます?」
「自室で新薬の調合をしたり、研究結果を紙にまとめてる。大体は成果が出ず徒労に終わるが、何だかんだ実験している時が一番楽しいな」
「お薬はご自分で摂取なさってるので?」
「そこらのネズミを罠で捕まえて試す。人間とは勝手が違うが、ある程度の効能は調べられる。後は数をこなして安全性を念密に検証する」

 衝立を外して窓を板で閉ざし、真後ろにある扉を開けた。そこは前の住民が使用していた空き部屋であり、奥に未使用のベッドが置かれている。

「このお部屋は?」
「何かに使うかもと思って放置してたんだ。家具の希望があれば村で買ってくる。同居してる間はルルニアの好きに使ってくれ」
「え、要りませんけど」
「埃まみれだからそんな感想にもなるよな。明日は薬を売りに山を下りるようだから、明後日から掃除を進めていく。だから……」

 話の途中でルルニアが脇をすり抜け、俺の自室に入った。
 追いかけると服をポイポイと脱ぎ捨て、裸でベッドの上に横たわった。次いで仰向けの姿勢になって両手を広げ、一緒に寝るよう促してきた。

「私の寝床はここですよ」
「このベッドは二人用じゃないぞ」
「密着すれば大丈夫です。ほら早く来て下さい」

 俺はランプを台に置き、ベッドの縁に腰を下ろした。
 ルルニアは俺の側に身体を傾け、よろしいと言った。

「こうすれば同族への牽制にもなるんですよ。私に分け合いの精神はないので、知り合いが来ても追い返します。同衾してれば守りは万全です」

 実質的に魔物の護衛を得たことになる。大陸全土を見渡してもこんな経験をしているのは自分ぐらいかもしれない。それだけ数奇な事例だ。
 諦めて横になると、右腕にルルニアの髪の毛がフサッと当たった。かなり細い毛質であるため、どこに触れてもふわっと柔らかく心地良かった。

「前に一度触れた北方の白い犬がこんな毛並みだったな」
「それって褒めてます? そんなに気に入ったなら髪の毛に顔をうずめても構いませんよ。私の髪、友達からも評判が良かったので」

 そう言い、ルルニアは寝返りを打った。俺に背を向く形となったため、頭の先から腰付近の範囲が髪の毛で埋まる。極上のフワフワに心が揺れた。
 導かれるまま両手を伸ばして触ると、あまりの質感に吐息が漏れた。抱き着けばもっと良い気分になると言われ、ルルニアの腹に手を回して密着した。

「……何か昼間の時より積極的じゃありません?」

 声に若干の呆れがあったが、振り払われたりはしなかった。
 鼻をうずめて深く息を吸うと、一日の疲れが取れる気がした。

「そんなに吸われると恥ずかしいんですが……」

 分かりやすく耳の裏が赤くなっていた。サキュバスなので生殖に類する行為は恥ずかしくないが、それ以外だと人間並みの羞恥心が湧くのか。
 他にもルルニアのことを知りたくなり、サキュバスの生態について聞いてみた。幼少期はどう過ごすか質問すると、面白い話をしてくれた。

「生まれたばかりのサキュバスは親の母乳で育ちます。人間と違い、サキュバスの胸は人間から奪った精気の貯蔵庫になってるんです」
「それが飲めたのに直接人から吸うのは無理なのか」
「人体からサキュバスの身体に精気を取り込む際にどうしても味が薄まってしまうので、それがちょうど良かったのかもしれません」
「餓死するぐらいなら母乳をもらうのが良くないか」
「人間だって成人が自分の母親から乳をねだりはしないでしょう。そもそも私たち魔物は、人間と比較して同族意識が希薄ですし」

 親とは乳児期しか一緒に過ごさないらしい。独り立ちを済ませたら後は他人同然、二度と顔を合わせることはないのだとか。

「血を分け合った家族なのに不思議だな」
「サキュバスの食べ物は元気な雄だけ、分け合いには限界があります。ある意味では同族すべてが競争相手なんです。自分の親も敵です」
「なら何で子どもを作って……ふぁ」

 会話の途中で眠くなった。ずっとルルニアの匂いを嗅いでいたからだろうか。

「え、眠くなっちゃったんですか? 今日の夜伽は?」
「……悪い。明日の朝に、して……くれ」
「サキュバスは夜が本分です。お預けは許しませんよ」

 後ろ手に俺の股間をまさぐられた。だが今は性欲より睡眠欲が勝った。何度触られても陰茎は反応を示さず、ルルニアは身を起こして抗議の声を上げた。

「おかしい。サキュバスのフェロモンには催淫作用があるんです。前戯の一環と思って髪の匂いを嗅がせたのに、これじゃ嗅がれ損じゃないですか」
「すぅすぅ、すうぅぅぅ……すぅ」
「ちょっ、それはさすがに吸い過ぎ」

 抵抗するルルニアを強く抱きしめ、またベッドに寝かせた。ルルニアの身長は百五十ちょうどほど、俺より二十ばかり小さい。体温が低めで最高の抱き心地だった。

「あぁもう、分かりました。不服ですけど今夜は諦めます。代わりに明日の朝は私の要求に従ってもらいますから覚悟して下さいね」
 俺は感謝を口にし、目を閉じてまどろみへと落ちていった。
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