エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第十三話『山のふもとの村1』

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 金髪の騎士は軽やかに馬から降りた。どこぞの王子様と見紛うほどの美貌があり、田舎風景の中で浮いた存在感を放っている。
 騎士団を率いているのも金髪の騎士らしく、ひと声で団員を下がらせた。許しを得て姿勢を直すと、友好的な声で話しかけられた。

「いきなりで驚かせてしまったね。僕の名はロアだ」
「グレイゼル・ミハエルです。お初お目に掛かります」

 握手を求められたため応じた。貴族がこんな気安い距離感で接することはあり得ず、ロアは平民上がりの騎士かもしれないと分析した。

「敬語が使えるのか、この辺りでは珍しいね」
「以前は町で暮らしていたのでその折に」
「へぇ、町に。南にあるグラドス町の出身かな」
「違います。どちらかというと西の方です」

 ロアは納得の頷きをし、ここに来た目的を説明した。
 近いうちに魔物討伐の大遠征が計画されているらしく、今日は拠点とする村の下見にきた。交通の便や地形の防衛力を調べ、必要な設備を築く。候補地は周辺三つの村と言われた。

「じゃあそこにうちの村が選ばれれば」
「兵士の宿舎に大きな酒場に道路の敷設、儲けを狙った商会の屋敷も建つだろうね。土地の価格は一瞬で何倍にもなり、村には多額の富がもたらされる」
「村の人が追い出されたりとかは……」
「そこは安心していいよ。こう見えても僕はそれなりの爵位持ちでね、ある程度は口出しできる権限がある。元いた住民を追い出したりしないと誓うよ」

 すでに他の村を回って計画の概要を説明してきたそうだ。
 うちの村にはこれから訪れるらしく、馬に乗るかと誘われた。

「武装した騎士団は村民を怖がらせる。ついさっき別の村で学びを得たばかりさ。君が良ければ村長の邸宅までの案内を頼まれて欲しいけれど、どうかな?」
 貴族からのお願いは命令と同義だ。

 ならば馬に乗るのが正解かと言われればそれも違う。貴族と下々の民は別世界の人間、簡単に気を緩めると痛い目を見る。無礼講と言われて従った人間が罰せられる場面を前に見た。

(……貴族が性悪というより、それだけ住む世界が違うんだ)
 村人の『多い』と貴族の『多い』は意味合いが違う。言葉を額面通りに受け取っていては命がいくらあっても足りない。だから慎重に努めて損はなかった。

「我々のような者が貴重な馬の鞍にまたがるなど許されません。案内が必要と言うなら前を歩きます。申し出を断る不徳をお許し下さい」
 黙して返事を待つ間、脳裏に帰りを待つルルニアの姿が浮かんだ。唾を呑み込んで審判を待っていると、ロアが顔を上げるように言った。

「すまなかった。今のは常識のない申し出だったようだ」
 副官らしき騎士がロアに耳打ちをしていた。俺の行動を試していたわけではなく、世俗に疎いが故に常識外れな発言をしてしまったようだ。

「同じ任務ばかりこなしているといけないね。ものの見方を忘れてしまう」
「いえそんなことは」
「ありがとう、グレイゼル。じゃあ案内のためについて来てくれるかい?」

 仰せのままに、と言って騎士団を先導して歩いた。よく見ると副官以外の騎士は若く、装備している軽装の甲冑についた傷も少なかった。

(……中継地の選別、それそのものに命の危険はない。貴族の親が箱入り息子の経歴に箔をつけるため、渋々この任務に送り出したってところか?)

 顔つきは様になっているので訓練は真面目にやっているようだ。行進の足並みも揃っており、団員がロアに尊敬の念を向けているのが伝わってくる。

「良い部下だろう。僕の自慢の戦友たちだ」
「えぇ、どんな魔物が相手でも蹴散らせそうです」
「さすがにドラゴン相手はどうにもならないけどね。いずれは王国最強の騎士団として名を馳せるのが夢だ。実現はそう遠くないと思っているよ」

 俺らの会話を聞いた団員が勝どきを上げた。実現が難しいどころの話じゃないが、団員たちもロアが語る夢を信じて邁進しているようだ。

(……平民である俺を蔑む目がない。団員全員が差別意識を持っていないのか。遠征の中継地の調査にロアたちが来てくれてのは僥倖かもしれないな)
 そう考えて籠を背負い直すと質問がきた。

「大きな籠だけど中には何が入っているのかな」
「村に売るための薬です。他には喉に効く飴もあります」
「薬に飴か、それはいい。グレイゼルみたいに礼節をわきまえた人間がそういった仕事を担ってくれるなら、町づくりをする上での障害が少なくなる」

 そんなこんな会話していると田畑が並ぶ区域まできた。畑仕事をしている村人が騎士団を見て驚き、脇道まで駆け寄ってきて頭を下げた。
 子どもが興味津々にはしゃいで親が焦るが、ロアは笑顔と共に手を振った。騎士団の面々もそれに倣い、何事もなく村の門をくぐった。

「お初お目に掛かります。わたしがここの村長であります」
 門番が呼びに行ったのだろう。村中の人が出迎えに駆けつけていた。村長の案内で屋敷へと進む道すがら、俺は薬売りに戻る旨をロアに伝えた。

「グレイゼルも話し合いに参加して欲しかったけど仕方ないね。しばらくは数日置きにここ一帯を回るから、時間がある時に話をしよう」
 もったいないお言葉だと感謝し、ロアと別れた。悪い人間じゃないのはよく分かったが、それはそれとして貴族の相手は緊張で胃が痛かった。
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