エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第十五話『山のふもとの村3』

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 昼食を済ませた後はお年寄りの家を訪問して診察をこなした。夜の山を歩くのは相当な危険が伴うため、日が傾く前に帰られねばならない。これ以上の長居は禁物だ。

「……いつもは村の飲み会に参加して翌日に帰るんだが」

 家でルルニアが待ってくれているので帰宅以外の選択肢はない。時間が経って元気になっただろうか、飢えて苦しんでないかと気が気ではなかった。
 村の門を目指して歩き、とある店の前で立ち止まった。吹きさらしの店内に並んでいる商品は年季のある食器や補修した古着等々、村では親しみを込めて『中古屋』と呼ばれている。

「女性用の服も置いてるんだな」

 需要と供給が釣り合っているのかと疑問が湧く。未使用さながらな品も多く、ルルニアの身長に合う服もあった。
 靴を探したが見つからず、店の奥に声を掛けた。返事が無いので不在かと思っていると、のんびりした足取りで髭長の老人が顔を出した。

「お主がここに来るとは珍しいのぉ。今日は薬の押し売りに来たか?」
「あんたはどれだけ勧めても買わないから諦めた。ちゃんと薬を飲めばもっと長生きできるだろうに、後で後悔しても知らないぞ」
「ほっほっ、長生きなんぞ食事と睡眠を毎日しっかりするだけで達成可能じゃて」

 国の平均年齢の五十五歳を二十も超えているから説得力が違う。いつもなら世間話に興じるところだが今日は時間がない。靴はこれだけかと聞くと、男物が置いてある棚を指差された。

「いや、そっちは間に合ってるんだ。だから俺が欲しいのは……」
「女物か? お前さんまさか、意中の女性でもできおったか?」
 失言だった。この村で女性用の靴が欲しいと言えば誤解されて当然だ。

(……ロアの件もある。今ルルニアの存在が村人にバレるのは不味い。でもこの状況で怪しまれないように靴を買う方法なんてあるのか?)

 何でもないと言って逃げるのはどうか、村中に噂が回るだけだ。興味があるから買いたかったと言うのはどうか、明日から変人と後ろ指を差されかねない。だから機転を利かせた。

「実は別の村の子から頼まれたんだ。村を離れられないから商品を持ってきてくれないかってな。年頃の子の願いを無下にするのも可哀想だから、行商人の真似事をすることにしたんだ」
 何故直接本人が買いに来ないと聞かれるが、そこは織り込み済みだ。

「爺さんは店にいたから知らないんだな。村長の家にお貴族様が来ていて、村を遠征の中継地にするかもしれないって話をしてる。近隣の村三つが候補だから、どこも互いを競争相手と見ているんだ」
 村同士の仲はお世辞にも良いと言えない。なので今後の展開の予想はしやすかった。

「ほぉ、また変な流れになったもんじゃのう」
「安請け合いした俺も悪いし、手数料を取ったりはしない。今後も女性用の衣類を何点か運ぶことになるが、爺さんは構わないか?」
「それは構わんが、一回で終わらんのか」
「まぁ多くても三回ぐらいで終わらせるつもりだ。欲しい靴の足の大きさと細さはこんなものだが、店の裏に置いてるか?」

 爺さんは予算を聞き、「待っていろ」と言って奥に引っ込んだ。
 店内を見て時間を潰していると、箱を何段にも重ねて持ってきた。

「女物の靴はこれで全部じゃな。気に入った物を持って行くといい」
 婚礼の祝い品として町から取り寄せたが出番の無くなった赤い靴、魔女の妬みで亡くなった奥方が最期に作った黒い靴、流れの行商人が不良在庫として買い取りを頼んだ変わり種など、品数は豊富だ。

(……ルルニアにはこの赤い靴が似合いそうだな)
 桃色の髪と白い肌に引けを取らない紅さが気に入った。

「時にグレ坊、村長とこの娘さんに贈り物はせんのか」
「贈り物?」
「成人の儀は目前じゃぞ。これ以上の機会はあるまいて」

 村長の娘は今年で十五歳となる。魔女の妬みで死に掛けていたところを救い、その時から交流があって慕われている。明るく元気な性格をした村の看板娘だ。

「そういえばそうだったな。最近忙しくて忘れてた」
「あの娘に思うところは無いのか。町に降りた時はずっと一緒におるじゃろ」
「病を治した縁で懐かれてるだけだ。俺にとっては妹みたいものだし、あっちも似た感覚でいるだろ。そもそも年齢が十も離れてるじゃないか」

 俺とあいつが仲良しなのは事実だ。けれど恋愛感情はお互いに抱いていない。
 きっぱり言い切ると微妙そうな顔をされた。こういった話題が出る度に否定しているが、誰からも理解してもらえない。爺さんには分かってもらいたかったが時間がなかった。

「その話はまた後でしよう。ここにある靴とこれ、こっちの靴も貰っていく。担保として今日の売り上げの一部を置くがこれでいいか?」

 了承を得て銀貨を十枚渡した。籠に箱が入りきらなかったため、一部は紐で括ってもらった。店を出る頃には日の傾きがさらに増しており、俺は脇目も振らず山への帰路を突き進んだ。
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