エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第十六話『夜伽の時間1』

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 夕暮れの山を歩き、夜になる前に森の道を抜けた。木々を切り開いて作られた平地の一角には俺が住んでいる二階建ての家がある。食堂にはロウソクの明かりがあり、煙突からは白い煙が立ち昇っている。

 自然と足が速くなり、急いで玄関口に駆け寄った。
 扉を開けると足音があり、食堂からルルニア出てきた。

「おかえりなさい、あなた」
「ただいま、ルルニア」

 朝と違ってすっかり元気そうだ。以前の夕食と違ってエプロンを身に着けているが、とても様になっている。毛量の多い髪もひとまとめに結ってあった。
 籠を降ろすと両手を差し出してきた。意味を計りかねていると上着を脱ぐように言われた。一日着てて汗臭いからと断るが、一歩も引いてくれなかった。

「どうせ丸めて置く気でしょう。変なシワがついても嫌なので渡して下さい。食事が済んだらズボンも肌着も全部お願いしますね」
「わ、分かった」
「お仕事はどうでした?」
「持っていった薬は九割方売れた。これといった問題はなかったが、村で変わった動きがあった。詳しくは夕食を食べながら話す」

 一緒に廊下を歩き、体調について聞いた。

「お昼にはだいぶ良くなりました。無理しない範囲で家の掃除を行って、ベッドも綺麗にしておきました。納屋も掃除した方がいいかと思ったんですが、誤って棚の薬をダメにしたら大変なのでやめました」
 テーブルに案内され、数時間ぶりに腰を据えた。今日の献立も野菜のスープだったが、香りが昨日と違かった。良い意味で鼻腔にツンとくる感じだ。

「食料庫を見ていたら手つかずの香辛料があったんです。特に悪くなった様子はなかったので入れてみました。辛くて美味しいですよ」
「栄養は摂れなくても味は分かるのか?」
「人間ほどは分かりませんね。でも辛みだけは変わらない程度に味わえるんです。町にいた時は嗜好品としてたまに嗜んでました」
「……辛みは舌の痛みと言うがそれか?」

 人間と同じ部分もあると知って親近感が湧いた。
 ルルニアはスープとパンをテーブルに運び、追加で小さな樽を持ってきた。食事のお供に酒はいかがと言われ、カップに注いでもらった。ルルニアも自分のカップを用意して酒をついだ。

「芳醇な味わいの蒸留酒ですね。これはこの地域の地酒ですか?」
「あぁ、うちの村にも酒蔵が一箇所ある。たまに行商人が買い付けに来るし、これ目当てに住民も酒場に通う。まさに村の潤滑油だな」
「酒場、いいですね。賑やかな喧騒が目に浮かぶようです」

 遠い目をして語っていた。目的が人間を喰うことだとしても、仕事は本心から楽しんでしていた。それが言葉にせずとも伝わってきた。

(……あれが無かったら村で働けるか考慮しても良かったが)
 食事を一時中断し、降って湧いたロアの件を伝えた。魔物の討伐のための大遠征という大仰な内容だったが、ゴブリンを殺した時と同じで反応は薄かった。

「故郷が攻められたらと思うと不安にならないのか?」
「思うところが無いわけではないですが、それで行動を起こしたりはしないですね。私がここを離れたらあなたが別のサキュバスに襲われるでしょうし」
「それは勘弁してもらいたい。まぁ町には降りないでくれ」
 分かりました、と返事があった。これで当面は安心そうだ。

 香辛料多めの野菜スープを完食し、空のカップに酒を注ぎ合った。サキュバスだからかルルニアは酒に強く、欠片も酔う気配がない。酒場と違って落ち着いて酒を楽しめた。

 悪酔いする前に飲みを中断し、就寝前に用を足すことにした。
 裏口を通って食堂に戻るが、どこにもルルニアがいなかった。

「…………ルルニア?」
 名を呼んでみるが返事がない。外に出ているのかと思って身を翻すと、真後ろにルルニアがいた。さっきまで着ていた服を脱ぎ捨て、裸に角と翼と尻尾を生やしていた。

「グレイゼル、次は私の食事の番ですよ?」
 本名呼びは性行為の合図だ。今はサキュバスの力が最大に高まる時間帯であり、ルルニアは朝から何も食べず空腹だ。導かれる結論は一つだった。

「……せめて自室のベッドの上にしないか」
「嫌です」
「……床や土の上でするのは痛いって聞くぞ」
「構いません」

 そのひと声で飛び掛かられた。反射で避けてしまうが、ルルニアは楽しそうに舌なめずりした。兎を狙う鳶のごとく翼の羽ばたきを強め、俺を狩ろうと追いかけてくる。

「ふふふっ、夜伽前の良い準備運動ですね」
 さっきまでのおしとやかさは微塵もない。約束なので搾り取られるのはいいが、やはりベッドの上が良かった。俺は決死の思いで廊下を駆け、何とか階段にたどり着いた。が、

 段差に足を乗せた瞬間、身体が動かなくなった。
 首を後ろに向けると、翡翠の輝きが目に入った。

「もう逃げられませんねぇ。グ・レ・イ・ゼ・ル」

 階段で尻もちをつく俺の眼前にルルニアが立つ。息を呑んで出方を伺っていると、ベルトを外してズボンをずり下ろした。刻印のせいで立ち上がるアレを見て、ルルニアは甘美な吐息をついた。

「────さぁ、夜伽の時間を始めましょう」
 無力な俺に抗う術はなかった。
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