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第二十一話『慌ただしい朝3』
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ルルニアは普段着に着替えており、初対面の相手でも物怖じせずに歩いてきた。諸々の説明を行おうとする俺の腕を抱き、これは自分の物だと主張するような視線を送った。
「な、なな、な」
突然のことにミーレは目を丸くし、唖然と俺たちを見る。
ルルニアは薄く笑い、これ見よがしに身体を密着させた。
「すいません。寝室で待っていたんですが一向に戻らなかったので」
「ルルニア、こいつは」
「この方のお世話は私がしています。だからもうこの家には……」
「そうじゃない。俺たちは違うんだ」
違うとは何か、ルルニアから疑問を向けられた。答えようとした矢先にミーレが意識を回復させ、俺とルルニアを交互に見つめて叫んだ。
「グレにぃ、こんな綺麗な人どこで捕まえて来たの!」
「あー……、数日前の薬売りの帰りで拾ってな」
「マジ? すご! やる時はやるじゃん!」
ぐっと親指を突き立てられ、俺も似た反応を返してやった。
予想した展開と違かったのか、今度はルルニアが困惑した。
「あなたどこの出身? 初めて見る髪色だけど、そんなに綺麗に染められるものなの?」
「ええっと、その、これは地毛です」
「地毛!? よっぽど高貴な血筋とか? それとも土地柄が特別な感じ?」
矢継ぎ早に質問するミーレの頭頂部を鷲掴みにした。ミーレは汚い絶叫を発して暴れ、俺の脇腹に回転蹴りをお見舞いし、それで生まれた隙をついて跳び退いた。
「それであたしを捕まえたつもり? グレにぃ、腕鈍ったんじゃないの?」
「顔だけ女らしくなりやがって、この野生児が」
「成人まであと一ヵ月以上あるのよ。大人らしく振舞うだけ損でしょ」
こうなった以上村に逃げられる方が面倒であり、家の中で話をすると決めた。
俺とルルニアは並んでテーブルに座り、対面にミーレを配置した。ミーレは好奇心旺盛な目でルルニアをジッと見定め、テーブルの下で足をパタつかせて質問した。
「それでそれで? 二人はどうやって知り合ったの?」
夜這いされて殺され掛けた関係とは言えぬし、人間を喰えない魔物とも説明できない。適当に話をでっち上げるしかなく、夜道を旅するルルニアに声を掛けて家に招いたと教えた。
「うわ、大胆。一歩間違えれば誘拐だよ、それ」
言っている途中で同じことを思ったが、ここは押し通した。
「でもさ、山に入る前なら村に送る方が近くない?」
「……と、途中で魔物を見たんだ。送った先で襲われる危険性を考えれば、俺の家まで案内するのはそんなにおかしい話じゃないだろ」
「えー、一目惚れで家に連れ込んだんじゃないの?」
違う、とは言い切れなかった。ルルニアを目の敵にしていたのは最初だけ、三日目の夜には完全に惚れていた。一目惚れと大して変わらなかった。
ミーレはテーブルから身を乗り出し、何故夜道を歩いていたのか聞いた。ルルニアは数秒だけ思案し、俺の作り話に便乗した旅の事情を語ってみせた。
「実は私、遠方の町で暮らしていたんです。ある日父と母が事故に巻き込まれて亡くなってしまって、親戚に借金のカタとして売られそうになったんです」
「え、そうなの? じゃあ夜なのに外を歩いてたのは……」
「借金取りや奴隷商に追われているため、目立たない時間を選んでいました。そんな折りにこの人と出会い、一緒に暮らす契りを交わした次第です」
俺とミーレの間に恋愛感情が無いと分かってか、語り口が丁寧になっていた。ミーレは悲惨な身の上に心を痛め、悲しみの演技をするルルニアの手を取った。
「本当に災難だったわね。でもここにいれば大丈夫よ! グレにぃは抜けてるとこあるけど頼りになるし、私も村の人にルルニアさんのことを言いふらしたりしないから!」
十割嘘な話をミーレは鵜呑みにした。
「私のお父さんは村長なの。だから怪しい借金取りが現れたら、グレにぃが村に降りてきた時に伝えるわ。これなら少しは安心できるでしょ?」
「ありがとうございます」
「ルルニアさんはもう私たちの村の仲間よ。安心して暮らせるよう協力するわ。欲しい物があったら何でも言って、あたしが運んであげるから!」
ミーレはルルニアを同年代の女子として扱っていた。実際見た目の雰囲気はそれぐらいなため、この地域の成人年齢である十五歳と言っておいた。
「つかぬことをお聞きしますが、グレイゼルとミーレさんは……」
どんな関係か聞かれた。俺から妹みたいなものと言うと、ミーレから兄みたいなものと返事があった。俺たちの間にそれ以上もそれ以下もなかった。
「大病を患っていた時に助けて、それからずっと仲良くしているんだ。そのせいか村人にはいずれ結婚するはずって勘違いされててな」
「そそ、あたしとグレにぃが付き合うはず無いのにねー。そりゃ好きは好きだけどさ、友情と恋愛を一緒くたに考えないで欲しいわよ」
ねぇ、と言う声に同意の頷きをした。
「でも三十になる前に素敵な出会いがあって良かったじゃん」
「うるせ、女性だからって余裕こいてると婚期を逃すぞ」
「年頃の子があたししかいないのに? ないない」
「中継地に選ばれたらそれも分からないけどな」
俺とミーレは悪態をつき合い、おもむろに拳を打ち合わせた。ルルニアは終始奇妙なやり取りを見せられているような顔で目を瞬かせていた。
「……こんな男女の仲もあるんですね」
そうして俺たちは和気藹々とここ数日の話をした。
「な、なな、な」
突然のことにミーレは目を丸くし、唖然と俺たちを見る。
ルルニアは薄く笑い、これ見よがしに身体を密着させた。
「すいません。寝室で待っていたんですが一向に戻らなかったので」
「ルルニア、こいつは」
「この方のお世話は私がしています。だからもうこの家には……」
「そうじゃない。俺たちは違うんだ」
違うとは何か、ルルニアから疑問を向けられた。答えようとした矢先にミーレが意識を回復させ、俺とルルニアを交互に見つめて叫んだ。
「グレにぃ、こんな綺麗な人どこで捕まえて来たの!」
「あー……、数日前の薬売りの帰りで拾ってな」
「マジ? すご! やる時はやるじゃん!」
ぐっと親指を突き立てられ、俺も似た反応を返してやった。
予想した展開と違かったのか、今度はルルニアが困惑した。
「あなたどこの出身? 初めて見る髪色だけど、そんなに綺麗に染められるものなの?」
「ええっと、その、これは地毛です」
「地毛!? よっぽど高貴な血筋とか? それとも土地柄が特別な感じ?」
矢継ぎ早に質問するミーレの頭頂部を鷲掴みにした。ミーレは汚い絶叫を発して暴れ、俺の脇腹に回転蹴りをお見舞いし、それで生まれた隙をついて跳び退いた。
「それであたしを捕まえたつもり? グレにぃ、腕鈍ったんじゃないの?」
「顔だけ女らしくなりやがって、この野生児が」
「成人まであと一ヵ月以上あるのよ。大人らしく振舞うだけ損でしょ」
こうなった以上村に逃げられる方が面倒であり、家の中で話をすると決めた。
俺とルルニアは並んでテーブルに座り、対面にミーレを配置した。ミーレは好奇心旺盛な目でルルニアをジッと見定め、テーブルの下で足をパタつかせて質問した。
「それでそれで? 二人はどうやって知り合ったの?」
夜這いされて殺され掛けた関係とは言えぬし、人間を喰えない魔物とも説明できない。適当に話をでっち上げるしかなく、夜道を旅するルルニアに声を掛けて家に招いたと教えた。
「うわ、大胆。一歩間違えれば誘拐だよ、それ」
言っている途中で同じことを思ったが、ここは押し通した。
「でもさ、山に入る前なら村に送る方が近くない?」
「……と、途中で魔物を見たんだ。送った先で襲われる危険性を考えれば、俺の家まで案内するのはそんなにおかしい話じゃないだろ」
「えー、一目惚れで家に連れ込んだんじゃないの?」
違う、とは言い切れなかった。ルルニアを目の敵にしていたのは最初だけ、三日目の夜には完全に惚れていた。一目惚れと大して変わらなかった。
ミーレはテーブルから身を乗り出し、何故夜道を歩いていたのか聞いた。ルルニアは数秒だけ思案し、俺の作り話に便乗した旅の事情を語ってみせた。
「実は私、遠方の町で暮らしていたんです。ある日父と母が事故に巻き込まれて亡くなってしまって、親戚に借金のカタとして売られそうになったんです」
「え、そうなの? じゃあ夜なのに外を歩いてたのは……」
「借金取りや奴隷商に追われているため、目立たない時間を選んでいました。そんな折りにこの人と出会い、一緒に暮らす契りを交わした次第です」
俺とミーレの間に恋愛感情が無いと分かってか、語り口が丁寧になっていた。ミーレは悲惨な身の上に心を痛め、悲しみの演技をするルルニアの手を取った。
「本当に災難だったわね。でもここにいれば大丈夫よ! グレにぃは抜けてるとこあるけど頼りになるし、私も村の人にルルニアさんのことを言いふらしたりしないから!」
十割嘘な話をミーレは鵜呑みにした。
「私のお父さんは村長なの。だから怪しい借金取りが現れたら、グレにぃが村に降りてきた時に伝えるわ。これなら少しは安心できるでしょ?」
「ありがとうございます」
「ルルニアさんはもう私たちの村の仲間よ。安心して暮らせるよう協力するわ。欲しい物があったら何でも言って、あたしが運んであげるから!」
ミーレはルルニアを同年代の女子として扱っていた。実際見た目の雰囲気はそれぐらいなため、この地域の成人年齢である十五歳と言っておいた。
「つかぬことをお聞きしますが、グレイゼルとミーレさんは……」
どんな関係か聞かれた。俺から妹みたいなものと言うと、ミーレから兄みたいなものと返事があった。俺たちの間にそれ以上もそれ以下もなかった。
「大病を患っていた時に助けて、それからずっと仲良くしているんだ。そのせいか村人にはいずれ結婚するはずって勘違いされててな」
「そそ、あたしとグレにぃが付き合うはず無いのにねー。そりゃ好きは好きだけどさ、友情と恋愛を一緒くたに考えないで欲しいわよ」
ねぇ、と言う声に同意の頷きをした。
「でも三十になる前に素敵な出会いがあって良かったじゃん」
「うるせ、女性だからって余裕こいてると婚期を逃すぞ」
「年頃の子があたししかいないのに? ないない」
「中継地に選ばれたらそれも分からないけどな」
俺とミーレは悪態をつき合い、おもむろに拳を打ち合わせた。ルルニアは終始奇妙なやり取りを見せられているような顔で目を瞬かせていた。
「……こんな男女の仲もあるんですね」
そうして俺たちは和気藹々とここ数日の話をした。
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