エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第二十二話『慌ただしい朝4』

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 ちょうど良い機会なので後回しになっていた靴選びをミーレに手伝ってもらった。箱をテーブルに置いて中身を取り出し、最初に赤い靴を履いてもらった。

「どうです? 似合っているでしょうか?」
 足を交互に入れ替えて歩き、クルリと身体を回転させる。ダンスを踊るようにステップを踏んでいき、スカートの両端を摘まんでお辞儀した。

「お貴族様の社交界みたい! これは買いでしょ!」
「見立て通り似合うな。もうこれでいいか?」
「何言ってるの、他も試さなきゃもったいないって」

 次に選ばれたのは黒い靴だ。ルルニアはあえて機敏な動きをせず、優雅さを感じられる足さばきを披露した。大人の魅力が引き立つ一品だった。

「オシャレなお店のマダムみたいね」
「あり……だな。全体の印象が引き締まっていい」
「次はこれ、かかとが持ち上がってて歩きづらそうな奴!」

 ハイヒールという名称の靴だ。都会で流行の商品を行商人が仕入れ、俺たちの町に寄った時に売った。色は紺色だが、赤色だったらもっと似合いそうだから惜しかった。

「これはちょっと歩き辛いですね。身長が高く見えるのは良いですが」
「ここらの道だと転びそうよね。あたしもちょっと怖いかな」
「でも可愛くはあると思います。慣れてみたいものですね」

 二人はどの靴がいいか真剣に話し合っていた。
 俺としては最初の赤い靴が一推しだったが、ミーレから「いっそ全部買っちゃえば?」と言われた。金に余裕はあるのでそれはそれでアリな気がしてきた。

「だったら黒い靴を普段使い用にして、赤い靴とハイヒールは町に出かけた時や村のお祭りで使おう。店に持って帰るのも手間になるしな」
「賛成! あたしにも新しい靴買って!」
「お前は村長の娘だろうが。お小遣いは成人になるからもう終わりだ。自分の部屋の奥に山ほど溜め込んでいる貯金から切り崩してほざけ」

 中古屋の爺さんに代金を渡すように頼んだ。「依頼料は?」と言われたため、多めに渡してやった。最後のお小遣い兼口止め料兼靴選びの駄賃と、様々な要素が含まれている金だ。

「これで新しい服が買えるわね」
「……靴はどうした、靴は」

 ミーレは受け取った金貨を親指で弾き、広げた胸ポケットの中に落とした。まだまだ子どもだなと思っていると、食堂の入口付近に放置していたバスケットを持ってきた。

「すっかり忘れたけどこれ、後で二人で食べてよ」
「これは?」
「うちで焼いた奴。上質な小麦を使った特製品よ」
 日除けの布の下には美味しそうな焼き菓子があった。

「……これはずいぶんとまた豪勢だな」
「お母さんがグレにぃのとこ行くなら持って行けってうるさくてさ。愚痴ついでに全部食べてやるつもりだったんだけど、ルルニアさんがいるからね」
「この不自然に空いた空間は何だ?」
「あーそれ、ここに来る途中に食べちゃった」

 悪びれないのがミーレらしい。村長夫人の思惑としては間違った消費先でもないため、文句は言わずありがたくバスケットを受け取っておいた。

「んじゃ、今日はこれで帰ろっかな」
 ミーレは玄関口に走り、途中で踵を返した。

「ルルちゃん、また今度ね!」
 相当ルルニアを気に入ったらしく、ルルちゃんという愛称で呼んでいた。ルルニアもミーレを外敵扱いせず、親しみのある声で返事をした。

「楽しみにしています。村に降りた時はよろしくお願いします」
「その時はあたしの部屋に来てよ。面白い物いっぱいあるからさ」

 翼や尻尾が無ければ年頃の女の子のやり取りでしかない。人の営みに紛れて暮らすサキュバスならではの社交性か、それともルルニア個人の気質によるものか、何にせよ上手くやっていけそうだ。
 見送りのために外へ行き、薬の袋を持ったか確認させた。ルルニア関連で怪しい気配があったら早めに知らせるよう言うと「もちろんよ」と即答された。

「グレにぃこそ、ルルちゃんに愛想尽かされないよう気をつけてね」
「それは肝に銘じる」
「もし喧嘩したらあたしの家に……と、それは出来ないんだった」
 杞憂するミーレへ、今後の方針を伝えておいた。

「これからは週二回村に顔を出す。しばらくは忙しくなるだろうしな」
「それがいいよ。グレにぃのことは皆頼りにしてるし」
「なら良かった。後は噂好きなとこだけどうにかしてくれればな」
「面白さに飢えてるからねー。でもそれはこれからでしょ」

 村の発展のために力を合わせようと言い、帰宅を見送った。山道を一人で帰らせるのは危ないが、ミーレは村一番の健脚持ちだ。熊相手に逃げおおせた実績がある。

「とても元気な方でしたね。おかげで話し安かったです」
「町に行った時以外で同い年の女の子と話をする機会がないから楽しかったんだろうな。あれで村の発展を一番に思う責任感もある奴なんだ」

 ミーレの天真爛漫さのおかげで村に居ついた者もいるほどだ。そんな話をしているとルルニアは俺の服の袖をつかみ、道の先を眺めて寂しそうに呟いた。

「……ちょっとだけ別れた友人に似ていましたね」
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