エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第二十四話『魔物と人間1』

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 結局、薬の採取はお昼過ぎとなった。ルルニアが作った昼食を胃に詰め込み、採取用の籠を背負って外に出た。ルルニアは庭に大きな桶を置き、湧き水で洗濯物を水洗いしているところだった。

「顔色が少し悪いぞ、家で休んでた方がいいんじゃないか?」
「私もそれは思ったんですが、天気が崩れそうな気がしまして」
「そう言われれば薄っすら水の匂いがするな」
「少しでも外に干すと違うんです。無理そうならすぐ休みますので」

 長い髪を布で括って襟についたシミをトントンしている。そこまで念密にやらなくてもいいのではと思うが、家事全般はルルニアの領分なので任せた。

(……やっぱり今の姿が一番だな)

 ルルニアの身長は百五十台に戻っている。サキュバスの力に負けて幼い容姿に興奮してしまったが、あれが自分の本性ではないと再確認できて安心した。
 ルルニアは水気を絞った上着を物干しに掛け、小走りで俺の元へと来た。必ず帰って精気を食べさせて欲しいと、サキュバスなりに無事を祈ってくれた。

「危険に遭遇したらまずは逃げて下さい。私が助けに行きます」
「森の中じゃここまで声は届かないだろ」
「命の危機は刻印が知らせてくれます。なので最優先は時間稼ぎです」

 心配するルルニアにポーチの中身を見せてやった。

「一応投げナイフも毒も持った。猛獣程度なら何とかする」
「魔物相手だと心もとないですね」
「その時は逃げる。他のサキュバスが現れても敵と思っていいんだな」
「構いません。私が大切にしている獲物を横取りしようとするなら、交渉の余地はありません。迷わずに殺っちゃって下さい」

 別のサキュバスに俺を奪われる想像をしたのだろうか、怖い目をしていた。そろそろ出発しようかと思っていると、両腕で俺を抱きしめてくれた。

「いってらっしゃい」
「あぁ、いってくる」

 名残惜しさを振り切って裏庭まで走り、林の先にある小川を通って三叉路を折れた。
 最初に向かったのは茸の群生地だ。朽ちた倒木がそこかしこにあり、多種多様な茸が生え広がっている。似た外見の毒茸を回収せぬよう細心の注意を払い、必要な物だけを籠の中に入れていった。

「これは痔に効く薬になる。これは痛み止めに……」

 胞子を吸わぬよう口に布を当てて作業する。湿気が多くて汗が大量に出るため、作業が終わったら日が差す場所で適宜水分補給する。
 順々に木々を回って数を揃え、籠を背負い直して退散した。しばらく足を運んでなかったおかげか、前回の三倍の量を採取できた。

「今年は雨が少ないのに豊作だな」
 木の実の殻に入れた塩を舐め、獣の胃を加工して作った水筒を傾ける。水をそのまま飲むだけでは熱の病に効かぬと、薬学の勉強の過程で覚えさせられた。

「……あれからずいぶん経ったな」

 町での暮らしが脳裏に浮かぶ。大勢の人々を救って慕われる先生と、その後ろで助手をする俺。休みはなかったがとても充実した日々だった。
 現在とどちらが幸せか考え、さっきのハグを思い浮かべた。獲物扱いは変わらずだが、帰る家に愛すべき人がいてくれる嬉しさの方が上だった。

「今の俺を見たら先生は何て言うだろうな」
 そう呟き、俺はポーチから投げナイフを取り出した。腕を振って真後ろに投擲すると、枝から垂れ下がって近づく蛇の胴体に刃が突き刺さった。

「……最近は何か調子が良いんだよな」
 精気を吸われてもすぐに回復する。玄関口での摂取に茸採集と重労働をこなしたばかりだが、投擲の精度が落ちていない。むしろ好調なぐらいだ。

 理由を考えながら蛇の頭を踏み潰し、投げナイフを回収した。
 この蛇の毒も薬の材料になるため、死体を首に掛けて運んだ。
 次の目的地である岩場に向かおうとした時、遠くで異音が鳴った。木の軋む音と崩れ倒れる音、さらに断続的な衝撃音が聞こえる。巨大な魔物が縄張り争いをしているような激しさだ。

「この山にそんな魔物が……?」

 何年も暮らしているが一度も遭遇したことがない。俺は異変の正体を突き止めるため、採取を中断して音の発生源へと向かうことにした。
 少しして辿り着いたのは広い窪地だ。一帯の木々は凄まじい力でなぎ倒されており、ここだけ竜巻被害に合ったような惨状に成り果てている。

「音の発生源はこいつか」

 倒木に覆い被さる形で全長六から七メートルはある大蛇が倒れていた。黒と赤と黄色のまだら模様をしており、巨大な鱗は活き活きと光沢を放っている。俺は慎重に傾斜を下っていった。
 ここで争っていたと思われる別の魔物の姿はなく、足跡のような痕跡もなかった。大蛇の魔物が独りでに苦しんで暴れて絶命した、としか言いようのない不可思議な光景だった。

「……ん? 何だこの傷は?」
 よく見ると喉の辺りに巨大な刃物で切ったような傷があった。
 蛇の身体構造的に自傷はありえず、何で出来た傷かと考えた。

「何にしても俺の手に余るな。一度帰って村に報告を……」
 採取の中断を決定した瞬間、視界の端で太陽の反射光がチラついた。茂みをかき分けた先には傷だらけの大剣があり、その傍らに血まみれの剣士が倒れていた。
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