エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

文字の大きさ
25 / 170

第二十五話『魔物と人間2』

しおりを挟む
 剣士は男性で頭全体を覆う兜を装着していた。胴体には鎖かたびらを装着し、背にマントを着けている。その下には鍛え抜かれた肉体があった。
 薄さに反して丈夫な鎖かたびらだが、前側がざっくり裂けていた。腹から血がとめどなく溢れており、俺は止血剤と包帯を取り出して声を掛けた。

「俺は薬屋だ。意識があるなら返事をしてくれ」
「…………」
「声が出せないなら手を挙げられるか」
「…………」

 兜のせいで表情の確認ができないのが厄介だ。頭を強く打っている可能性が高いため、無理に脱がしたり揺すったりすることもできない。
 俺は鎖かたびらをまくり、包帯に止血剤を塗布し負傷箇所に巻いた。
 同じ行程を二回三回とこなして傷を塞ぐが、すぐに血が滲んできた。

「今ある包帯じゃろくに交換もできないな」

 治療の途中で右腕が折れているのを発見し、添え木と丈夫なツタで固定した。
 一通りの治療が終わった頃には日が落ち始めていた。雨が降ってきたので枝をかき集め、俺の上着と幅広な葉っぱで簡易的な雨よけを作った。

「こんなに降るのか。通り雨だといいんだが……」
 髪から滴る雨を拭い、ポーチから半透明の丸い石を取り出した。
 大きめの岩を持って思いっきり叩くと、丸い石は弱く発光した。

「……光が持つのは三時間、さてどうするか」

 使用したのは衝撃によって発光する性質を持った石だ。一度光を発すると二度と光らなくなるため、値段の割に使いどころは少ない。雨が降って無ければロウソクを使っていた。
 俺は弱い光の中で血まみれの包帯を交換した。ひと巻分を使い切るが、血の流出が弱まってくれた。男性の息は穏やかになり始めて熱も出てない、やっと山場を越えた実感が湧いた。

「さて、ここからどうしたもんか」

 明かりの先は真っ黒に塗り潰されている。歩き慣れない窪地に降りて帰路が分からないのもそうだが、単純に男性を連れ帰る手段が無かった。
 男性と魔物の大乱闘で一時は獣が離れていたが、それもじきに終わる。血の匂いが水蒸気に乗って充満し、死肉を漁ろうと熊や狼が近づいてくる。

 唐突に背後の茂みが揺れるが、石が転がってきただけだった。
 続けざまに頭上で物音があり、鳥の不快な鳴き声が聞こえた。

「……カラスか、驚かせやがって」
 一羽二羽と集まってくるせいで周囲の音が聞こえなくなる。こうして辺りを見回している間にも、猛獣が舌なめずりで俺たちに近づいているかもしれない。

 どこぞで遠吠えが聞こえ、俺は投げナイフを構えた。
 一向に喉の渇きが治らず、心臓の鼓動に翻弄された。

 暗闇の中で獣の唸り声が聞こえ、物々しい足音が薄っすら耳に届く。正確な位置は分からないが、警戒されれば儲けものと暗闇を睨んだ。
 輪郭が見えれば即時攻撃をと、指先に力を溜めた時のことだ。降り注いでいた雨が止んで光が差し、木々の天井を割って影が落ちてきた。

「────グレイゼル、遅いから迎えに来ましたよ」
 月夜の木漏れ日からルルニアが降りてきた。翼は今までで一番大きく、着地の羽ばたきで周囲の草木に付着した水滴が飛び散った。

「刻印の力を頼りに捜索を行っていたんですが、思ったより頼りにならないですね。命の危機は分かりますが、遭難してるだけでは反応が鈍いです」
「……探してくれていたのか」
「はい。二時間ほど前からずっと辺りを飛び回っていました。妙にカラスの鳴き声が多かったから来ましたが、ちゃんと見つけられて良かったです」

 帰ろうと手を差し伸べてくれるが、怪我人を残すことはできなかった。
 夜の姿のルルニアでも成人男性二人を抱えて飛ぶのは無理だと言われた。

「残念ですが置いて行きましょう。私その方に興味ないので」
「ここまで治療したんだ。中途半端な状態で放置はできない。後でルルニアのお願いを何でも聞くから、この人を助けるために力を貸してくれ」
「何でも……。魅力的ではありますが、私も空腹なんですよね」

 心底どうでも良さそうに男性を見下ろした。人間の価値が精気の質で決まるなら、死に掛けの人間は虫けら同然の存在でしかないということになる。

 頭を下げて懇願しようとすると、不意にルルニアが後ろを向いた。
 そこには一頭の熊がおり、地鳴りのような鳴き声で接近してきた。

「うるさいですね。後にしてくれます?」
「グルゥゥ! グルアァァ!!」
「まさか、私のグレイゼルを取る気ですか?」

 殺気立った声を発し、瞳に翡翠の輝きを灯した。
 熊は一瞬で動かなくなり、怯えの表情を浮かべた。
 体格差には圧倒的な差があるが、秒で勝敗が決した。

 ルルニアに額を触られると、熊は悲鳴と共に股間を勃起させた。急所が露出した状態で戦えるわけもなく、一目散に窪地から逃げていった。

「……もっとこう、炎を出して追い払ったりできなかったのか?」
「できるわけないじゃないですか。私はサキュバスですよ」
「まぁそれもそうか。ルルニアがいてくれて助かった」

 改めて男性を救う方法を探していると、ルルニアが閃き顔で言った。
「じゃあこうしましょうか。その男性を助けたいなら、今ここで私を抱いて下さい」

 ここは外で森の中だ。加えて男性が目を覚ます可能性もある。
 ルルニアの要求は俺の決意と信頼を試すものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...