エッチな精気が吸いたいサキュバスちゃんは皆の癒しの女神

のっぺ

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第二十七話『魔物と人間4』

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 湿った空気を肌で感じて目覚めた。視界全体に広がるのは鬱蒼と茂った大自然の風景で、ここが家の裏手にある森の奥深くだと思い当たった。
 寝そべったまま身体をまさぐるが、ちゃんと服を着ていた。ろくに日の光が届かない空間なのに生地が乾いており、土汚れもついてなかった。

「ルルニア、どこだ?」
 起き上がって名前を呼ぶが返事がなかった。
 不安になって岩から降りると横で声がした。

「おはようございます、あなた」
 近場の木々をかき分けてルルニアがきた。こちらも普段着を着ており、乾いた布巾を渡してくれた。俺は髪と顔を拭きながら眠っていた間の説明を頼んだ。

「朝になったら力の大部分が使えなくなるので、夜明け前に家まで飛びました。本当は連れて帰りたかったんですが、それでは約束を違えてしまいますので」
「寝ているうちに着替えさせてくれたのか、すまなかった」
「上着はちょっと手間取りましたが、大変というほどでもなかったですよ。採取用の籠は帰宅ついでに納屋の入口に置いておいたので、帰ったら中身を確認して下さい」

 そちらについても感謝し、男性がどうなったか聞いた。起きたのか眠ったままなのか知りたかったが、ルルニアは肩をすくめた。向かった先には誰もいなかった。

「……これは金貨か?」
 治療費のつもりだろうか、金貨が三枚ばかり置かれていた。よく見ると大蛇の魔物を討った大剣もなく、死骸だけがそのまま横たわっていた。

「荷物を運んでいる最中に目を覚ましたんです。あなたからの言いつけもあったので安静にするよう言ったんですけれど、帰っちゃいました」
「自由に歩き回れる怪我じゃなかったはずだが」
「相当丈夫な方なんでしょうね。不思議なのは夜の姿の私を見ても驚かなかったところです。それどころか別れ際に変なことを言われました」

 男性は無事な左腕で大剣を引きずり、ルルニアに告げた。

「────いいものを見せてもらった、と言ってました。意味不明だったので昨日の行動を振り返ったんですけど、エッチしかしてないんですよね」
 視姦が趣味の方だろうかと聞かれた。さすがにそれは違うと思うが、否定する材料も見当たらない。それよりルルニアを見ても動じなかったのが謎だ。

「町にいた時の……酒場の知り合いじゃないんだよな?」
「知りませんね。あんな量の精気持ちがいたら気づくはずです」
「あんな量? 昨日は興味無いとか言ってなかったか?」

 あれは死に掛けだったから正確な量が計れなかったそうだ。
 別れ際の精気は常人のおよそ五倍はあったと教えてくれた。

(……魔物を見ても警戒しない。なのに大蛇の魔物は戦って殺した。ルルニアが一夜掛けて守ったのが分かったから、特別に見逃したってことか?)
 考えたところで答えは出ないため、再会することがあったら話を聞こうと思った。

「きっと魔物と人間のエッチが性癖なんでしょうね。業が深い殿方です」
「……あんな怪我でしごいてたら化け物過ぎるだろ」
「死に際って意外と性欲との親和性が上がるんですよ。身体が無理矢理にでも子孫を残そうとするので、特別濃厚な精気が射精と共に出るんです」

 会話しながら大蛇の死骸に近づき、切り傷から鱗を回収した。
 その後は窪地を登って帰路に戻り、二人で家を目指して歩いた。

「あえて聞いてなかったんだが、時々言うエッチって何だ? 子どもの姿の時には確か、おちんちんとか何とかも言ってたよな?」
「サキュバス独自の淫語ですよ。男性器はおちんちんで、女性器はおまんこと言います。エッチは性行為全体を表す言葉ですね」
「サキュバスらしい文化というか何というかだな」
「地域ごとに言い方も違いますよ。方言と同じです」

 おちんちんをチンポと言ったり、おまんこをマンコと言う。女性器の突起物はクリトリスと、関連性不明な発音を教えられた。

「行為の最中に陰茎ちょうだい、だとちょっと間抜けじゃありません?」
「その時はおちんちんちょうだい……か、確かに淫らな感じがする。するか?」

 サキュバスをより知れる機会であるため、歩きながら性談義を続けた。
 そうこうするうちに小川へとたどり着き、足を止めてひと息ついた。ここさえ越えれば家に着くと思っていると、林のずっと奥から馬のいななきが耳に届いた。

「何だ今の、行軍の音みたいな……」

 耳を澄ますと地響きのような音が聞こえる。村長からの使いが馬に乗ってくることはあるが、聞こえてくる足音は複数だった。かなりの速度で坂を登っていた。
 近くの岩場に昇ると俺の家に続く坂道を駆ける集団が見えた。掲げた旗はロアの騎士団を示しており、ここを目指している。あと数分で家に到達する見込みだ。

「騎士団が来る。ルルニアはここを動かないでくれ」
 急いで岩場から降り、もしもの場合は森に隠れるよう言った。

「動かないって、あなたはどうするんです?」
「家に戻る。下手に姿を隠したら騒ぎが大きくなるからな。ルルニア狙いの可能性もあるから、場合によってはしばらく森に潜んでもらうことになるかもしれない」

 精気を摂取させられないことを謝り、坂を下って裏庭に出た。玄関口に着いた時に曲がり角から騎士団が続々と姿を現し、ロアが馬に乗って俺の前に来た。

「おはよう。良い朝だね、グレイゼル」
「おはようございます、ロア様」
 笑みの下の真意は何か、ヒリついた緊張が走った。
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