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第三十話『村に活気の風を2』
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酒場は村の規模を鑑みれば広い造りとなっており、二十人は余裕で座れる席がある。帰りを待つ家族がいなくなった家庭も多いため、夜はここが大人たちの憩いの場となる。
「オヤジ、ビールおかわりだ! 三杯、いや四杯持ってこい!」
「あいよ! つまみはいつものを持ってくぜ!」
「こっちは蒸留酒をもらうべ! チーズとパンも一皿くれ!」
テーブル席に続々とつまみの皿が並ぶ。日が暮れきっていないのに酒を飲む手が止まらず、明日は二日酔いで全員動けなくなりそうな勢いだ。
「……じゃあ俺はそろそろ帰るぞ」
頃合いを見計らって席を立つが、出口手前で腕を掴まれた。
「何言ってんだ、先生! 宴は始まったばっかりだぜ! 今日は村長の家に泊まらせてもらうんだろ? ならもっと飲まないと損だ!」
「それはあっちが勝手に言っただけで」
「最近付き合いが悪かったじゃねぇか。先生の豪快な飲みっぷりが無いと盛り上がりが足りん。この前の飲み比べの決着つけようぜ!」
大工のリーダーと八百屋のおやっさんに捕まって席に戻される。
無視して逃げたかったが、両側から肩を組まれて動けなかった。
「……はぁ、後悔するなよ」
俺は生まれつき酒に強い。すでに酔いが回った相手など敵じゃなかった。四杯五杯と度数の強い酒を飲んで八百屋を沈めると、あちこちから勝利を称える拍手が上がった。
「はぁ、面白れぇ! これでお酌してくれる娘がいれば最高だべがな!」
「この辺りじゃ無理に決まっとる。中継地に望みを託すしかねぇべ」
「娘と言えば先生よぉ、ミーレちゃんとは上手くいっとんか?」
酒の肴として色恋沙汰を持ち込まれた。否定しても納得してくれないため、適当な相槌を打った。後何人倒せば外に出られるのかと考えていると、ふいに「おつぎしますか?」と聞かれた。
「俺はいい。万が一酔ったら家に帰れなくなるからな」
「奥さんが家でお待ちなのでしょうか?」
「似たような感じだ。もうだいぶ待たせて……って、へ?」
首を向けた先にエプロン姿のルルニアがいた。
あり得ない光景を前に村人たちも停止していた。
「────何で、ここに」
早く隠れてもらわねば大事になる。そんな俺の焦りを知ってか知らずか、ルルニアは酒瓶を持ってテーブルを回った。悠長に空のカップにビールを注ぎ始めた。
「皆さん、せっかくの宴なのに手が止まってますよ?」
手拍子で一気飲みを促され、木こりの大男が応じた。ルルニアは出来上がった食事を運びながら酔っ払いをおだてて回り、静まった空気を一気に盛り上げた。
「わしゃ夢を見とんのか? ようけ可愛い子がいる気がするんじゃが……」
「可愛いだなんてそんな。お爺さんも若々しくて素敵ですよ」
「こんなの夢に決まっとるべ! 何年もおなごと触れ合う機会が無かったから、神様が特別に呼んでくれたんだ! それ以外ありえねぇべよ!」
「えぇ、夢です。難しいことは考えずにどんどん飲みましょう」
「こっちにも酒ついでくれ! 飯もおかわりだ!」
「はーい、ただいま伺いますね」
ルルニアの給仕の手腕は卓越していた。
酔った村人たちはデレデレになって施しを受け、酔ってない俺と酒場の店主は唖然としている。このまま放置もできないため、途中で服の裾を掴んで止めた。
「何で村に降りてきた。バレたら殺されるかもしれないんだぞ」
「だって帰りが遅かったじゃないですか。私との食事をすっぽかしたら村まで追いかけるって、最初の取り決めの時に約束しましたよね?」
「それは覚えてるが、どうやって収集をつけるつもりだ」
「ご心配なく、さすがの私もここが酒場じゃないなら顔を出しません。皆さん酔いが回っていらっしゃるようなので都合がいいです」
そう言って瞳を光らせ、人目もはばからず翼を生やした。そして全員の視線が集まったのを見計らい、サキュバスの術を使って酔っぱらいを眠らせた。
酒場の店主だけ術の効きが悪かったが、時間を掛けるだけで終わった。俺がフラついた身体を支えると、ルルニアが耳元で何かささやいて店主を眠らせた。
「これで終わりです。若い娘にお酌してもらった時間は夢と消えました」
「……力技過ぎるだろ。忘れてなかったらどうするんだ」
「そこまでは知りませんよ。不安ならこれからは遅くならず家に帰ってきて下さい。頑張って作った食事が冷めちゃうともったいないので」
非は俺にあるので強くは言えなかった。
椅子からずり落ちそうな村人の姿勢を正していると、ルルニアが酒瓶を持った。未使用のカップに琥珀色の液体を注ぎ、村人たちを酒の肴に飲み始めた。
「やっぱり酒場はいいですね。色恋沙汰に一喜一憂して取り留めない話で盛り上がる。お酌をしつつこの人はどんな味かって想像するんです」
「人で味が変わるものなのか?」
「同じ味ならどんなサキュバスだって飽きますよ。私が感じてる甘みだって、サキュバスによっては酸っぱみを感じたりと個人差があります」
俺の精気には甘みの他に深みとキレがあると言われた。
酒の品評か、と内心で突っ込みを入れて外に出ようとした。だがルルニアはついて来ず、ロウソクの火を一本残して消した。次いで上着のボタンを外し、スカートを脱いでテーブルに座った。
「これで準備は整いました。二人の酒宴を始めましょうか」
瓶を傾けて酒を垂らし、自分の臍と股を濡らした。
「オヤジ、ビールおかわりだ! 三杯、いや四杯持ってこい!」
「あいよ! つまみはいつものを持ってくぜ!」
「こっちは蒸留酒をもらうべ! チーズとパンも一皿くれ!」
テーブル席に続々とつまみの皿が並ぶ。日が暮れきっていないのに酒を飲む手が止まらず、明日は二日酔いで全員動けなくなりそうな勢いだ。
「……じゃあ俺はそろそろ帰るぞ」
頃合いを見計らって席を立つが、出口手前で腕を掴まれた。
「何言ってんだ、先生! 宴は始まったばっかりだぜ! 今日は村長の家に泊まらせてもらうんだろ? ならもっと飲まないと損だ!」
「それはあっちが勝手に言っただけで」
「最近付き合いが悪かったじゃねぇか。先生の豪快な飲みっぷりが無いと盛り上がりが足りん。この前の飲み比べの決着つけようぜ!」
大工のリーダーと八百屋のおやっさんに捕まって席に戻される。
無視して逃げたかったが、両側から肩を組まれて動けなかった。
「……はぁ、後悔するなよ」
俺は生まれつき酒に強い。すでに酔いが回った相手など敵じゃなかった。四杯五杯と度数の強い酒を飲んで八百屋を沈めると、あちこちから勝利を称える拍手が上がった。
「はぁ、面白れぇ! これでお酌してくれる娘がいれば最高だべがな!」
「この辺りじゃ無理に決まっとる。中継地に望みを託すしかねぇべ」
「娘と言えば先生よぉ、ミーレちゃんとは上手くいっとんか?」
酒の肴として色恋沙汰を持ち込まれた。否定しても納得してくれないため、適当な相槌を打った。後何人倒せば外に出られるのかと考えていると、ふいに「おつぎしますか?」と聞かれた。
「俺はいい。万が一酔ったら家に帰れなくなるからな」
「奥さんが家でお待ちなのでしょうか?」
「似たような感じだ。もうだいぶ待たせて……って、へ?」
首を向けた先にエプロン姿のルルニアがいた。
あり得ない光景を前に村人たちも停止していた。
「────何で、ここに」
早く隠れてもらわねば大事になる。そんな俺の焦りを知ってか知らずか、ルルニアは酒瓶を持ってテーブルを回った。悠長に空のカップにビールを注ぎ始めた。
「皆さん、せっかくの宴なのに手が止まってますよ?」
手拍子で一気飲みを促され、木こりの大男が応じた。ルルニアは出来上がった食事を運びながら酔っ払いをおだてて回り、静まった空気を一気に盛り上げた。
「わしゃ夢を見とんのか? ようけ可愛い子がいる気がするんじゃが……」
「可愛いだなんてそんな。お爺さんも若々しくて素敵ですよ」
「こんなの夢に決まっとるべ! 何年もおなごと触れ合う機会が無かったから、神様が特別に呼んでくれたんだ! それ以外ありえねぇべよ!」
「えぇ、夢です。難しいことは考えずにどんどん飲みましょう」
「こっちにも酒ついでくれ! 飯もおかわりだ!」
「はーい、ただいま伺いますね」
ルルニアの給仕の手腕は卓越していた。
酔った村人たちはデレデレになって施しを受け、酔ってない俺と酒場の店主は唖然としている。このまま放置もできないため、途中で服の裾を掴んで止めた。
「何で村に降りてきた。バレたら殺されるかもしれないんだぞ」
「だって帰りが遅かったじゃないですか。私との食事をすっぽかしたら村まで追いかけるって、最初の取り決めの時に約束しましたよね?」
「それは覚えてるが、どうやって収集をつけるつもりだ」
「ご心配なく、さすがの私もここが酒場じゃないなら顔を出しません。皆さん酔いが回っていらっしゃるようなので都合がいいです」
そう言って瞳を光らせ、人目もはばからず翼を生やした。そして全員の視線が集まったのを見計らい、サキュバスの術を使って酔っぱらいを眠らせた。
酒場の店主だけ術の効きが悪かったが、時間を掛けるだけで終わった。俺がフラついた身体を支えると、ルルニアが耳元で何かささやいて店主を眠らせた。
「これで終わりです。若い娘にお酌してもらった時間は夢と消えました」
「……力技過ぎるだろ。忘れてなかったらどうするんだ」
「そこまでは知りませんよ。不安ならこれからは遅くならず家に帰ってきて下さい。頑張って作った食事が冷めちゃうともったいないので」
非は俺にあるので強くは言えなかった。
椅子からずり落ちそうな村人の姿勢を正していると、ルルニアが酒瓶を持った。未使用のカップに琥珀色の液体を注ぎ、村人たちを酒の肴に飲み始めた。
「やっぱり酒場はいいですね。色恋沙汰に一喜一憂して取り留めない話で盛り上がる。お酌をしつつこの人はどんな味かって想像するんです」
「人で味が変わるものなのか?」
「同じ味ならどんなサキュバスだって飽きますよ。私が感じてる甘みだって、サキュバスによっては酸っぱみを感じたりと個人差があります」
俺の精気には甘みの他に深みとキレがあると言われた。
酒の品評か、と内心で突っ込みを入れて外に出ようとした。だがルルニアはついて来ず、ロウソクの火を一本残して消した。次いで上着のボタンを外し、スカートを脱いでテーブルに座った。
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