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第四十一話『酒場のルルニア1』
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身構えていたが夜にルルニアの逆襲は無かった。寝起きと同時に好き勝手をしてしまったことを謝罪するが、そこはむしろ褒められた。
「あなたにあんな一面があるとは知らず驚きました。男は狼とよく言ったものです」
「返す言葉も無い……」
「一つ厳しいことを言うなら指使いが乱暴でした。サキュバスだからちゃんと気持ち良くなれましたけど、人間の雌なら痛かったと思います」
「それは本当にすまん」
「いえ、考え方が違うかもしれませんね。私はあれでも良いんですから、害虫が近寄らないように乱暴さを極めてもらうべきかもです」
ルルニアは今後も同じ感じで攻めて良いと言った。
怒ってないなら何で襲って来なかったのか聞いてみた。ルルニアとしても昼間の逆襲をする腹でいたが、昨夜はベッドに入ってすぐに寝てしまったそうだ。
「サキュバスが夜にぐっすり寝るとか異常ですよ。朝のキスに昼の手によるエッチ、たったそれだけなのに身体の調子が妙に良いんですよね……」
好調の要因は間違いなく俺の闘気だ。早速効果が出てくれて嬉しいが、これで本番をする回数が減ってしまっては本末転倒ではなかろうかと考えた。
「…………調子が良いなら本番はしないのか?」
「しますよ。するに決まってるじゃないですか」
愚門だった。けれどそう言ってもらえて安心した。
ベッドで寝そべったままでいると、ルルニアが俺の手を掴んだ。中指と薬指を注意深く見られるが、闘気を纏っていなければただの指でしかない。カラクリがバレる可能性は無かった。
「何か変なお薬でも指に塗ってました?」
「してないぞ。もらった角も大事にしまってある」
「本当ですか?」
「本当だ」
俺は空いた手でルルニアの髪の毛をモフッた。
「……まぁ、いいでしょう。逆襲は夜までお預けですね」
「楽しみに待つ、でいいのか?」
「ふふっ、その余裕が続けばいいですけどね。それで今日のご予定ですが、一通り家事を済ませてから村に下ります。帰宅は夕方ごろになりそうですね」
お昼の入りから酒場で働き、日が暮れる前に帰る。行き来も合わせて六時間ほどの就労時間だ。酒場の店主からは稼ぎ時の夜も働いて欲しいと言われたそうだが、そこはミーレが断った。
「私のことをあなたのお嫁さんになる人、と紹介したら引き下がったようです。よほど村人から尊敬されているんですね。大したものです」
「俺は何もしてない。薬を売ってただけだ」
「お客様からどんな話を聞かされるか楽しみです。私は口が上手い方なので、世間話ついでにあなたの面白い話をたくさん引き出しちゃいます」
ルルニアの表情はニッコニコだった。よほど酒場で働くのが楽しみなようだ。朝食の準備に洗濯時、俺が家を出る時も上機嫌なままだった。
そうして足を運んだのは川下にある村だ。家は小高い丘の上に建てられており、敷地の外には村囲いを強固に修繕している村人たちがいる。
門をくぐった先には勾配の急な登り坂があり、建ち並ぶ家の間を通った。売り場となる広場に向かう道すがら、子どもや老人と挨拶を交わした。
「おーおー、先生。今日はちぃとばっかし早めやんなぁ」
「今日は他に用事があったからな」
「前にもらった咳止め薬えがったぞぉ。また作っとくれや」
おじいさんと別れて丘の上に着くと、一角に人だかりが出来ていた。
注目を集めていたのは十代後半の若者であり、荷台の上で声を張っていた。
「こちらは都会で大流行のワイングラスであります! 見た目も豪華ですが本命はそこじゃありません! これの一番の特徴は何と! 注いだワインが甘くなる魔法が掛かっているのです!」
金属製のグラスだった。銀貨五枚はくだらない豪勢な作りだが、行商人の若者は銀貨三枚で売ると言った。かなりお得に聞こえるが、ここの村人がポンと出せる金額ではなかった。
「ちっ、貧乏人どもが」
遠目で様子を見ていると一瞬悪い顔が見えた。
行商人の若者は荷台から赤ワインを取り出し、この場で試飲を行うと宣言した。無料で酒が飲めるならと村人たちが群がるが、俺が人混みを割って集団の先頭に立った。
「そこの行商人、ちょっと待て」
一人の村人が「順番守ってけれ!」と抗議するが、他の村人に頼んで下がらせた。
試飲すると言ってグラスを受け取り、中にワインを注いでもらった。軽く液体を回した後に一口だけ下で転がし、飲み込まずグラスを突き返した。
「ど、どうであります? 甘くなったでありましょう?」
「あぁ、そうだな。この甘さを口にするのは久しぶりだ。西方の国で禁止された鉛を塗ったワイングラス、あれにそっくりの味だった」
「な、何の話かさっぱりでありますな。あはは……」
「お貴族様方がこれをありがたがって飲み続けて、体調不良を訴える者が続出した。この一件で鉛を摂取する危険性が周知されたんだ」
実物を見るのは久しぶりだ。この国でも危険性が知られているが、こんな辺境までは情報が広まっていない。ようするにこの行商人は不良在庫の押し付けに来たのだ。
「中継地の噂をどこぞで聞きつけて、浮足立った村人に売ろうとしたんだろ? 損失の補填のために村人を苦しむのを良しとした。違うか?」
何の根拠があると激高されるが、なら飲み干せと言い返した。決断できない行商人を見て村人も状況を理解し、抗議の声を上げ始めた。
「く、くそ! 今に見てろよ!」
行商人は安い捨て台詞を吐いて逃げ去ろうとした。他の村で似たようなことをされたら大問題だが、俺が直接手を下す必要はなさそうだった。
「────そこの君、なかなか面白い物を売っているようだね」
広場に現れたのはロア率いる騎士団の面々だった。
「あなたにあんな一面があるとは知らず驚きました。男は狼とよく言ったものです」
「返す言葉も無い……」
「一つ厳しいことを言うなら指使いが乱暴でした。サキュバスだからちゃんと気持ち良くなれましたけど、人間の雌なら痛かったと思います」
「それは本当にすまん」
「いえ、考え方が違うかもしれませんね。私はあれでも良いんですから、害虫が近寄らないように乱暴さを極めてもらうべきかもです」
ルルニアは今後も同じ感じで攻めて良いと言った。
怒ってないなら何で襲って来なかったのか聞いてみた。ルルニアとしても昼間の逆襲をする腹でいたが、昨夜はベッドに入ってすぐに寝てしまったそうだ。
「サキュバスが夜にぐっすり寝るとか異常ですよ。朝のキスに昼の手によるエッチ、たったそれだけなのに身体の調子が妙に良いんですよね……」
好調の要因は間違いなく俺の闘気だ。早速効果が出てくれて嬉しいが、これで本番をする回数が減ってしまっては本末転倒ではなかろうかと考えた。
「…………調子が良いなら本番はしないのか?」
「しますよ。するに決まってるじゃないですか」
愚門だった。けれどそう言ってもらえて安心した。
ベッドで寝そべったままでいると、ルルニアが俺の手を掴んだ。中指と薬指を注意深く見られるが、闘気を纏っていなければただの指でしかない。カラクリがバレる可能性は無かった。
「何か変なお薬でも指に塗ってました?」
「してないぞ。もらった角も大事にしまってある」
「本当ですか?」
「本当だ」
俺は空いた手でルルニアの髪の毛をモフッた。
「……まぁ、いいでしょう。逆襲は夜までお預けですね」
「楽しみに待つ、でいいのか?」
「ふふっ、その余裕が続けばいいですけどね。それで今日のご予定ですが、一通り家事を済ませてから村に下ります。帰宅は夕方ごろになりそうですね」
お昼の入りから酒場で働き、日が暮れる前に帰る。行き来も合わせて六時間ほどの就労時間だ。酒場の店主からは稼ぎ時の夜も働いて欲しいと言われたそうだが、そこはミーレが断った。
「私のことをあなたのお嫁さんになる人、と紹介したら引き下がったようです。よほど村人から尊敬されているんですね。大したものです」
「俺は何もしてない。薬を売ってただけだ」
「お客様からどんな話を聞かされるか楽しみです。私は口が上手い方なので、世間話ついでにあなたの面白い話をたくさん引き出しちゃいます」
ルルニアの表情はニッコニコだった。よほど酒場で働くのが楽しみなようだ。朝食の準備に洗濯時、俺が家を出る時も上機嫌なままだった。
そうして足を運んだのは川下にある村だ。家は小高い丘の上に建てられており、敷地の外には村囲いを強固に修繕している村人たちがいる。
門をくぐった先には勾配の急な登り坂があり、建ち並ぶ家の間を通った。売り場となる広場に向かう道すがら、子どもや老人と挨拶を交わした。
「おーおー、先生。今日はちぃとばっかし早めやんなぁ」
「今日は他に用事があったからな」
「前にもらった咳止め薬えがったぞぉ。また作っとくれや」
おじいさんと別れて丘の上に着くと、一角に人だかりが出来ていた。
注目を集めていたのは十代後半の若者であり、荷台の上で声を張っていた。
「こちらは都会で大流行のワイングラスであります! 見た目も豪華ですが本命はそこじゃありません! これの一番の特徴は何と! 注いだワインが甘くなる魔法が掛かっているのです!」
金属製のグラスだった。銀貨五枚はくだらない豪勢な作りだが、行商人の若者は銀貨三枚で売ると言った。かなりお得に聞こえるが、ここの村人がポンと出せる金額ではなかった。
「ちっ、貧乏人どもが」
遠目で様子を見ていると一瞬悪い顔が見えた。
行商人の若者は荷台から赤ワインを取り出し、この場で試飲を行うと宣言した。無料で酒が飲めるならと村人たちが群がるが、俺が人混みを割って集団の先頭に立った。
「そこの行商人、ちょっと待て」
一人の村人が「順番守ってけれ!」と抗議するが、他の村人に頼んで下がらせた。
試飲すると言ってグラスを受け取り、中にワインを注いでもらった。軽く液体を回した後に一口だけ下で転がし、飲み込まずグラスを突き返した。
「ど、どうであります? 甘くなったでありましょう?」
「あぁ、そうだな。この甘さを口にするのは久しぶりだ。西方の国で禁止された鉛を塗ったワイングラス、あれにそっくりの味だった」
「な、何の話かさっぱりでありますな。あはは……」
「お貴族様方がこれをありがたがって飲み続けて、体調不良を訴える者が続出した。この一件で鉛を摂取する危険性が周知されたんだ」
実物を見るのは久しぶりだ。この国でも危険性が知られているが、こんな辺境までは情報が広まっていない。ようするにこの行商人は不良在庫の押し付けに来たのだ。
「中継地の噂をどこぞで聞きつけて、浮足立った村人に売ろうとしたんだろ? 損失の補填のために村人を苦しむのを良しとした。違うか?」
何の根拠があると激高されるが、なら飲み干せと言い返した。決断できない行商人を見て村人も状況を理解し、抗議の声を上げ始めた。
「く、くそ! 今に見てろよ!」
行商人は安い捨て台詞を吐いて逃げ去ろうとした。他の村で似たようなことをされたら大問題だが、俺が直接手を下す必要はなさそうだった。
「────そこの君、なかなか面白い物を売っているようだね」
広場に現れたのはロア率いる騎士団の面々だった。
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