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魔専入学

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「はいはい急いで急いで! 入学式に遅れちゃうわよ!
 ユミさん、アスカを起こしてきてください!」

 朝からソイニー師匠の急かす声が家中に響き渡る。

「ア~ス~カ、起きろー!」

 ユミ姉が楽しそうに、僕の布団をひっぺがす。
 僕は、まだ寝ていたいと、体を縮こませることで意思表示するが、ユミ姉に無理矢理、手を引っ張られて敗北してしまう。

「分かりました。分かりました。起きますから。ユミ姉、落ち着いてください」
「やっと起きる気になったか! 今日は魔専の登校初日なのだから遅刻は厳禁だよ」


 そう、ユミ姉の言う通り、今日は魔専の登校初日。

 思い返せば一年前、てんやわんやで中級魔導士認定試験に合格し、その1ヶ月後、魔専の入学試験を受けた。
 魔専の入学試験は中級魔導士認定試験と内容が同じで、なんなら少し緩いぐらいだった。
 これは、そもそも中級魔導士以上の素質がある子どもの絶対数が少ないため、中級魔導士認定された子ども達はとりあえず全員入学させることにしているかららしい。

 試験自体は他の受験者同士の接触は基本的に禁じられ、誰が受験しているかは全くわからなかった。
 これは、意図的な工作などにより試験妨害されることを防ぐためらしい。
 受験者同士の戦闘訓練は、貴族や平民など門戸にかかわらず実力を魔導の重視する方針のもと、対人戦闘訓練では同じ境遇・立場の者同士が組み合わされるようにも考慮されていた。
 確かに、貴族と平民が組み合わさった時、貴族の方が精神的に優位になってしまうから、僕は大変この制度に納得していた。

 あと、驚いたと言うか狐につままれた気分になったのは、僕の相棒のヒビト・シルベニスタ、彼は10歳で上級魔導士なったと言う天才なのだが、上級魔導士は推薦入学できると言うことで、無試験で魔専に合格していた。
 才能というものは羨ましい限りである。

 まあ、そんなこんなで魔専の入学試験はあまり苦労もせず合格することができ今日に至る。

「アスカ、忘れ物はないですか? 後、いいですか? 『一徹』を使って魔導を増幅させ、上級魔導を使ってはダメですよ。 変な疑いをかけられてアスカに魔導具士の才があることがバレると面倒ですので」

 ソイニー師匠が母親ばりの面倒の良さを遺憾なく発揮している。

「もう僕も13歳なので大丈夫ですよ。一徹のことも大丈夫です」

僕は、自信満々に答える。

「ほんと、あんなにちっさくて魔導もあまり得意でなかったアスカ少年が、ここまで立派になるとは‥‥‥、お姉ちゃん嬉しいぞ!」

 ユミ姉がいつものように頬擦りしてくる。
 朝お風呂に入ったのだろう。
 シャンプーのいい香りがする。

「じゃあ、行ってきます」
「「行ってらっしゃい」

 僕は玄関から一歩足を踏み出す。
 魔専に向けて、そして未来に向けて!




 魔専は、東京駅から地下鉄に乗り換えて本郷三丁目駅で降りると、駅の目の前にあった。
 通学時間は大体1時間半。
 これから毎日この距離を通学するのは気が引けたが、一流の魔導を学べるならば仕方ない。

 なんとか魔専の入り口の門に到着すると、感慨深くなる。
 ついにここまで来れたんだ。

 魔導具士としての才を世間から隠して生きなければならない。
 魔導具士の才があるから、魔導は上達しないだろう。

 そんな絶望の中から、微かな希望を手繰り寄せて、いろいろな良縁に恵まれて、なんとかここまで来れた。
 ここまで来れたのだから、一所懸命修行して、人の役に立てる人間になりた‥‥‥

「何突っ立ってるんだよ。邪魔だこのばかが」

「いて!」

 僕が心の中でこれまでの出来事などを振り返り感慨に耽っていると、いきなり後ろから尻を蹴られ、僕は前に倒れ受け身をとった。
 倒れた状態でそのまま僕を蹴り倒した奴を見る。
 そこには‥‥。

「おう、久しぶりだな、やっぱりお前だったか妾の子。
 相変わらずのどんくささだな。お兄様が通る道を塞ぐなんてな」

 そこには、レイト兄が立っていた。

「レ、レイト兄?」

 なんていうことだ、誰が受験をしたかなんてわからない状態であったが、確かにレイト兄も魔専に入学する可能性はあったのだ。
 失念していた。

「ところで、どうしてお前はここにいるんだ? 
 ああ、そうか、魔導経理科にでも入学したんか?」
「いや、あの、僕は、魔導士科に‥‥‥」
「お前が魔導士科に!? あの鈍臭くて魔導もろくに使えないお前が!? おいおいおいおい、魔専の入試システムはどうなってるんだよ。魔専のレベルもここまで地に落ちていたのか?」

 レイト兄は大声で喚き立てる。
 道行く人達がその声に驚いて、こちらを見る。
 とても恥ずかしい。
 だけど、僕は、昔のトラウマが体に染み付いていて、レイト兄に言い返せない。

「俺とお前が同レベルなんて許せないが、まあいい、変な真似をしたらタダじゃ済まないからな」
 レイト兄は睨みを効かせる。
 僕はもう、怖くて怖くてたまらない。
 レイト兄は、捨て台詞を吐いた後、魔専の方に歩き出したが、何かを思い出したようで、戻ってきて小さな声で耳打ちする。

「あ、そうそう、あと、姫様とはどうなったんだよ。仲良くやってるのか? どうやって姫様を洗脳したのかはわからないが、魔専で変な真似をしたらバラすからな。お前と姫様の秘密を。つまりだ、お前の生殺与奪権は俺が握っていることを心しておけ」

 それだけ言うと、レイト兄は去っていった。
 姫様との秘密をバラされ、大ごとにでもなったら僕は今度こそ本当に死刑かもしれない。
 どうしよう。いや、これはもうどうしようもできない。

 僕は地面に座り込み、絶望する。
 せっかくのハレの日、今後に期待しながら踏み出した一歩が、あっけなく崩されてしまう。

 1分くらい経った後だろうか、誰も道端に座り込む僕に話しかけてこないなか、1人だけ僕に声をかけた。

「アスカ、大丈夫か!?」

 それは、ヒビト・シルベニスタ、僕の相棒だった。
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